Wikipediaには数百万件に及ぶ記事が存在しており、多くの人々がWikipediaを調べ物に利用しています。しかし、Wikipediaには信頼性に欠ける記事も多く存在し、架空の歴史記事やデタラメな言語で記された記事が公開されていることもあります。このため、Wikipediaの記事を学術的・公的な文書に引用することには否定的な意見が多く存在しているのですが、マサチューセッツ工科大学の研究チームによって「Wikipediaの記事が裁判所の判決に影響を与えている」という衝撃的な研究結果が報告されました。

How Wikipedia influences judicial behavior | MIT CSAIL

https://www.csail.mit.edu/news/how-wikipedia-influences-judicial-behavior

Study finds Wikipedia influences judicial behavior | MIT News | Massachusetts Institute of Technology

https://news.mit.edu/2022/study-finds-wikipedia-influences-judicial-behavior-0727

Wikipediaは誰でも新たな記事を作成できることを特徴としており、記事の中には古い情報に基づくものや、信頼性に欠ける情報源を参考に記されたものなども多く存在しています。このため、2007年にはアメリカのミルドベリー大学で「学生の多くがWikipediaの記述を参考にして誤った情報をレポートに記した」という理由でWikipediaからの引用禁止措置が行われるなど、学術的・公的な文書にWikipediaの情報を引用することには否定的な意見が数多く存在しています。

マサチューセッツ工科大学でコンピューターサイエンスについて研究するニール・トンプソン氏が率いる研究チームは、Wikipediaが司法判断に与える影響を調査するべく、アイルランド最高裁判所の判例150件以上を記事化し、そのうちランダムに選出された半数の記事をWikipediaの記事として公開。その後、記事公開後に実施された裁判の結果を収集して「Wikipediaで公開した記事と公開していない記事の判例に『裁判官によって引用される頻度の差』があるか」や「判決に至るまでの議論にWikipediaで公開した記事の言語的特徴が反映されているか」を分析しました。

分析の結果、「Wikipediaで記事を公開した判例」は「Wikipediaで記事を公開していない判例」と比べて裁判官によって引用される頻度が高くなることが明らかになりました。また、判例の引用は下級裁判所で多く確認され、上級裁判所ではほとんど確認されなかったとのこと。この結果から、研究チームは「仕事量の多い裁判官や書記官にとって、Wikipediaの利便性が大きな魅力として捉えられており、Wikipediaの利用につながっている可能性がある」と推測しています。



上記の結果に加えて、研究チームは「判決に至るまでの議論」の中にWikipediaで公開した記事中に含まれる言語的特徴と一致する文面が含まれていることも発見しました。研究チームはこれらの結果から「Wikipediaの記事が裁判官の判断に影響を与えている」と結論付けています。また、研究チームは「Wikipediaは誰でも匿名で編集可能であるため、悪意を持った編集者によって情報が操作される可能性がある」とWikipediaの信頼性に対して疑問を示した上で「情報の信頼性を保証する組織」の構築が必要であると主張しています。