このほどアップルが、今年の秋に正式リリースされるMac用OSの最新版「macOS Monterey」を発表した。毎年恒例のカンファレンス「WWDC」の基調講演で紹介された新機能が、この次期OSには搭載されることになる。とはいえ、インテル製チップを搭載したMacでは、macOSの改良の一部については恩恵をまったく受けることができない。

「アップルは完全な「脱インテル」を目指す。次期macOSに潜む明確なメッセージ」の写真・リンク付きの記事はこちら

アップルのMacには2006年以降、主にインテルのチップが搭載されてきた。アップルが自社開発のARMベースの「M1」チップへの移行を正式に発表したのは20年秋のことである。そしてアップルは今回のmacOS Montereyの発表に合わせて、インテルを“切り捨てる”方向へと舵を切った。

WWDCが開催された直後にアップル情報サイト「MacRumors」が気づいたように、macOS Montereyのプレヴューページのいちばん下には、小さな文字で脚注が書かれている。新機能の一部は、M1チップを搭載したMacでのみ利用可能であるというのだ。

例えば、ヴィデオ通話の際に「FaceTime」で背景をぼかすポートレートモードは、インテルチップのMacでは利用できない。写真から文字列を直接コピーできる新機能「テキストの認識表示」も同様だ。詳細な都市体験やインタラクティヴな地球モデルの操作など、改良された「マップ」の機能の一部もM1チップ限定である。

「アップルは自社のエコシステムの強化につながると見れば、非常に大胆な行動に出ることが多いのです」と、IDCの調査担当ヴァイスプレジデントのリン・ファンは言う。「そして今回の事例は、確かにそうした動きの始まりのように感じられます」

機械学習の能力をフル活用

最新版以外のMacのユーザーにしてみれば、いら立たしいことかもしれない。だが、この大胆な動きは一時の気まぐれではない。iPhoneやiPadに長らく組み込まれてきた「Apple Neural Engine」を、Macに採用するアップル独自チップにも導入する試みに端を発するようだ。これはアップルが画像処理や文字認識、音声認識に優れた人工知能(AI)を、ハードウェアに実装するための技術である。

「アップルは新しいM1チップで機械学習の機能を活用したいのです」と、Moor Insights & Strategyの創業者兼主席アナリストのパトリック・ムーアヘッドは指摘する。こうした機能を実現するチップをインテルは理屈の上ではもっているが、アップルは自社開発のチップに組み込むことに力を入れているのだと、彼は説明する。「このためアップルは、将来のMacに搭載されるプロセッサーに向けた開発にしか興味がないようなのです」

アップルの広報担当者によると、特にポートレートモードやテキストの認識表示は、アップルのNeural Engineを念頭に設計されているという。また、M1チップ限定の「マップ」の機能は、M1のパワーとエネルギー効率とのバランスを考慮してアップル独自チップ向けに設計されたものであると、同社は説明している。

「Neural Engineに関するアップルの考えは、実に的を射ています」と、IDCのファンは言う。「しかし、これらのどの機能についても、多少の工夫があればインテル製で不可能というわけではありません」

アップルの“賢い”戦略

アップルにとって、自社開発の技術に力を入れることは理にかなっている。自社製チップの開発はアップルにとって大きな前進であり、ハードウェアの性能をよりコントロールしやすくなる。

とはいえ、その移行は少し面倒なものになりそうだ。アップルが20年夏にインテル依存からの脱却を発表したとき、生産されるすべてのMacにARMベースのプロセッサーが搭載されるまで、2年ほどかかるかもしれないと説明されている。

まず、これまでインテルのチップを搭載したMac向けのコーディングを続けてきた開発者は、アプリに変更を加える必要がある。そこでアップルは、開発者がインテルの「x86」アーキテクチャーからアップルのARMベースのシステムに移行しやすいように、アプリを変換できる「Rosetta 2」と呼ばれるソフトウェアエミュレーターを提供した。

しかし、macOS MontereyのM1限定機能についてより驚くべきことは、最初の大きな課題がアップル自身からもたらされたことである。「陳腐化を促してユーザーに新しいMacを購入させ、収益の増加を図るという発想は、アップルの実に賢い戦略です」と、ムーアヘッドは指摘する。

明らかなメッセージ

アップルはM1チップへの移行を発表した際に、インテルのチップを搭載したMacのサポートを「今後長年にわたって」継続する予定であると宣言した。一部のmacOSの機能をM1チップ限定にすることは、必ずしもその公約を撤回することにはならない。また、ユーザーはFaceTimeの背景ぼかし機能がなくても構わないかもしれない。なにしろ、「Zoom」にはすでに背景をぼかす機能が搭載されているのだ。

とはいえ、メッセージは明らかである。新機能の開発は今後、アップル独自チップである「Apple Silicon」向けになるということだ。

「アップルが完全に自社製チップへの移行を目指しているなら、x86アーキテクチャーに機能を移植しても何の得にもなりません」と、IDCのファンは指摘する。「今後も同じようなことが続くと思います。この動きはおそらく、まだ始まったばかりでしょう」

とはいえ、こうした動きに人々が追いついているわけでもない。実際にアップルの最初のM1搭載モデルの評価は多岐にわたる。それに今回のWWDCで紹介されたその他の新機能の多くは、ユーザーが手持ちのデヴァイスやサブスクリプションサーヴィスのすべてをアップルの調和のとれたオアシス内で同期できる“明るい未来”を描き出すものだった。

当然ながらそのヴィジョンを実現するには、アップルは自社のデヴァイスのすべてのコンポーネントを完全に支配下に置く必要がある。そして、こうした動きにユーザーが追随できるようにする必要があると考えているようだ。

※『WIRED』によるアップルの関連記事はこちら。