よく晴れた日に干した布団などから、なんともいえない心地よい香りがしたという経験がある人も多いはず。このにおいの正体については、「ダニの死骸のにおい」といった俗説もまことしやかにささやかれていますが、最近の研究によりついにその正体が突き止められました。

CSIRO PUBLISHING | Environmental Chemistry

https://www.publish.csiro.au/en/EN19206

How Line-Dried Laundry Gets That Fresh Smell - The New York Times

https://www.nytimes.com/2020/05/29/science/laundry-smell-line.html

コペンハーゲン大学で化学について研究しているSilvia Pugliese氏が子どものころ、Pugliese氏の母親はよく洗濯物をロープで干していたそうです。我が家の思い出と結び付いたそのにおいが忘れられないというPugliese氏は、本業の研究の合間の時間を見つけて、同大学の研究者らとともにそのにおいの正体を化学的に突き止める実験を行いました。

実験では、まずIkeaの綿製のタオルを純水で3回すすぎ、コペンハーゲン大学化学学部の建物を借りて「室内」「バルコニーのひさしの下」「バルコニーの直射日光の下」の3カ所に干しました。Pugliese氏らがせっせと洗濯物を干している姿を見た大学の関係者は爆笑したそうですが、同時に多くの人が研究の手伝いをしてくれたとのこと。



by Silvia Pugliese

タオルが乾いた後、Pugliese氏はタオルを袋に入れて15時間密閉し、その間にタオルから放出された化学物質を分析しました。また、Pugliese氏らは空の袋、洗っていないタオル、干した場所の空気も同様にサンプリングし、干した洗濯物特有の化学物質を探りました。

その結果、直射日光の下に干したタオルからは、心地よい香りのもととなる有機化合物であるアルデヒドやケトンをはじめとして、香辛料のカルダモンに含まれるペンタナール、かんきつ系の香りのもとになるオクタナール、バラのような香りがするノナナールなどが放出されていたことが分かりました。



Pugliese氏は、こうした化学物質が直射日光にさらされたタオルから放出されたのは、大気中のオゾンガスや日光のはたらきだと考えています。特に、ぬれたタオルの繊維に含まれる水滴が虫眼鏡のようなはたらきをして日光中の紫外線を収束させることで、タオルに含まれていた化学物質が励起されると、アルデヒドやケトンといった物質の合成が促進される可能性が高いとのこと。

同様の化学反応は、雨後に太陽が差した場合など自然界のあらゆる場所で発生しますが、特に日光の下で干した布から香るのは「綿の繊維がアルデヒドを保持しやすいから」だとPugliese氏は考えています。

なつかしい我が家の香りの正体を突き止めたPugliese氏らは、今後人工的な光でも同様の化学反応を引き起こせるかの研究を行う予定とのことです。