はてな匿名ダイアリーに投稿された「NECで何が起きているのか」なるエントリーが話題となっています。匿名サイトという特性上、どこまで真実が綴られているかについては諸々差し引いて考えなければならないという面はあるものの、「それなりに勉強になる」とするのは、世界的エンジニアの中島聡さん。中島さんはメルマガ『週刊 Life is beautiful』の中で、かつて自身が目の当たりにし呆れたというNECのビジネスの進め方を記すとともに、同社のパソコン事業をダメにした一因とも言われる「MicrosoftのOS採用」と中島さんとの意外な関わりを明かしています。

私の目に止まった記事

NECで何が起きているのか

はてなの匿名ダイアリーには、時々この手の記事が投稿されます。そもそも会社に不満を持っている人が書いているので、あえてネガティブに書いている面もあるとは思いますが、普段、外からはなかなか見えない会社内部の事情が見えてくるので、それなりに勉強になります。

ちなみに、私が最初に手にしたコンピュータ(TK-80)もNEC製だったし、大学の時に作ったCandyと言うパソコン用のCADソフトも、NECのPC-9800向けに作ったし、NECとは色々と縁があります。あの頃のNECは本当に輝いていました。

i-modeで、NTT DoCoMoが世界の最先端を走っている2000年には、NECからi-modeケータイを世界に広めるためにシアトルに来ていた人と結構親しくなったのですが、会社全体がNTT DoCoMoから仕事が降ってくることに大きく依存している体質だったため、死に物狂いでシェアを取りにきているSamsungと比べると負けて当然と思ったことを良く覚えています。

さらに日本でi-modeケータイの設計をしていたエンジニアとも知り合いになったのですが、彼もこの手の企業に良くいるコードを書かない・書けないエンジニアな上に(コーディングは全て下請けに丸投げしていました)、仕事の話をしようと頼むとキャバクラ接待を要求してくるというどうしようもない奴でした。

AppleがiPadを発売した2010年には、NECパソコン事業部の事業部長にタブレット戦略について相談されたことがあるのですが、私が「なぜタブレットを作りたいのか?」と尋ねると、「うちにはタブレットを作れるエンジニアたちがいるから」というどうしようもない答えが返ってくるので、これは絶対に失敗すると確信したことを覚えています。私が「そんな考えでタブレットを作っても売れない」と指摘すると、「うちは社内や関連企業に押し込むことが出来るから最低限のロットは捌ける」という答えが返ってきて、なんて気楽な考え方でビジネスをしているのだろうと呆れてしまったことを良く覚えています。

ちなみに、NECパソコン事業がダメになってしまった一番の原因は、MicrosoftのOSを採用したことにありますが、その原因を作ったのが私だったという話を後から聞きました。私がアスキーのアルバイトとして書いたコード(CP/MをNECパソコンで走らせるためのディスクドライバー)をNECが別の用途で使っていることをアスキーの担当者が発見し、それを理由にNECに(当時、アスキーが総代理店をしていた)Microsoftのソフトウェアをライセンスすることを強要したとのことです。

あの当時、NECパソコンは日本市場の8割近くのシェアを持っていたため、NECがあのまま独自OS路線を突っ走っていれば、Microsoftが日本で成功することは簡単ではなかっただろうと思います。

私の目に止まった記事2

● Why Is Li Feifei Leaving Google’s AI Lab?

GoogleのAIグループを率いてきたLi Feifei博士が、Googleを離れることが業界では大きな話題になっています。AIで業界のリーダーシップを取ることがGoogleにとっての最も重要な課題であることは明確で、彼女の引退に関しては、様々な憶測が飛んでいます。

この記事によると、「Googleが望むようなパフォーマンスを見せることが出来なかったから」となっていますが、彼女のような研究者に、目に見えるようなパフォーマンスを期待すること自体が少し違っているように思え、そこに原因があるとは私には思えません。

彼女のような人にとっての一番重要な仕事は、GoogleがAIに力を入れていることを様々な方法で宣伝し、GoogleをAIの研究者たちにとって魅力的な場所に見せることであり、それに関しては、とても良い仕事をして来たと私は思います。

唯一の汚点は、AIの軍事利用に関して、経営陣と研究者たちの間に軋轢が生まれてしまった問題ですが、この件に関しては、彼女も軍事利用に反対する立場を取り、それが今回の引退に繋がった可能性も否定できないと思います。

いずれにせよ、数年前までは大学の教授にでもならなければ出来なかったAIの研究が、突如、多くの企業にとって、最も重要な研究テーマの一つになってしまったため、色々なところに歪みが出来ていることは明らかです。

大学でAIの研究をしていた人が、高給で企業にヘッドハントされたり、そんな研究者たちが営利企業のカルチャーに馴染めずに辞めてしまったり(もしくは首になったり)、地味な研究者が慣れない大金をつかむ事によって人生を間違ってしまったり、などです。

image by: NEC - Home | Facebook

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