9年ぶり日本復帰の“平成の怪物”が、伝説のエースと交わした「投手論」

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投球動作の途中、左足を上げたところでいったん静止し、右足一本でピョンと跳ぶ。着地して投球動作を再開し、ボールを投げる。

ソフトバンクの春季キャンプ第3クール最終日。松坂大輔は予定していたブルペンでの投球練習を取りやめ、代わりにキャッチボールと遠投を約1時間、入念に行なった。体重を軸足に真っすぐ乗せ、そこからスムーズに前方へ移動していく投球フォームを体に染み込ませる作業だ。

高校時代から怪物と呼ばれ、26歳でメジャー移籍。酸いも甘いも噛かみ分けて9年ぶりに日本に戻った彼は今、何を思うのか。キャンプ地を訪れた江夏豊氏との“ピッチャー同士の対話”が始まった。

■江夏氏を驚かせた1年目のブルペン

江夏 お帰り。久しぶりだな。

松坂 お久しぶりです。

江夏 9年ぶりに日本に帰ると決断したわけだけど、これはあなただけの問題じゃないよな。野球するのはあなただけど、ご家族もおられるし。奥さんは納得してる?

松坂 妻は基本的に、野球のことに関しては「私はこう思う」というのがないんです。「僕はこう思うから日本に帰る」と言ったら、「わかった、あなたのためについていく」だけでした。

江夏 ああ、いい教育してるな。教育してるのか、されてるのかわからんけど(笑)。

松坂 いえいえ、僕は何もしてないです(笑)。元からそういう感じなんですよ。

江夏 じゃあ、ご両親は?

松坂 アメリカでやってほしいという気持ちもあったかもしれないですが、日本で見られるという、その距離の近さを喜んではいましたね。

江夏 親としては近いほうが安心だし、これもひとつの親孝行じゃないかな。そして、日本のファンも久しぶりにあなたを近くで見られるわけだ。で、9年ぶりの日本のキャンプはどう? 以前は西武、今はソフトバンクという違いもあるけれど。

松坂 向こうのキャンプとは全然雰囲気が違いますし、チームも違って動きがまったくわからないので、第1クールの最初の3日間はストレスがありました。でも、その3日間でいろんな選手と話をさせてもらって、今はだいぶ馴染(なじ)めたかなと。

江夏 調子はどうだ? 今日はキャッチボールと遠投、昨日はノースロー。その前の日はかなりブルペンで投げ込んだと聞いてるけど。

松坂 本当は今日、ブルペンで投げる予定だったんです。

江夏 今日はそれを見に来たんだけどな。結局、来ないっちゅうから(笑)。

松坂 今は、まずフォームづくりに集中したいという考えがあったので、キャッチボールした感じでどうするか、当日に決めることにしていました。ブルペンに入ると、どうしても他のことに気持ちが向いてしまうので、ひとつのことに集中したいと思って、今日は遠投に変えました。

江夏 きっちり遠投するのも大事だし、それはもう、自分で考えてやればいいことだよ。思い返せば、あなたがプロ1年目、高知県・春野(はるの)の西武キャンプを見に行ったとき、ブルペンで中腰のキャッチャー相手に200球ほど投げたことがあったんだよな。

松坂 はい。そんなこともありました。

江夏 高校から入って、キャッチャーを座らせるんじゃなく、ああいうスタイルで200球も黙々と投げるコなんて見たことない。あの姿は、いまだに脳裏に焼きついているもの。高校時代も甲子園で名シーンをたくさん見せてくれたけど、あのとき、このコはやっぱりひと味違うな、という印象を強く持ったよ。

松坂 実は今日の遠投も、意識としては、あのときのブルペンでの立ち投げに近い感覚でやろうとしてました。

江夏 やってみて、どう?

松坂 よかったです。今日はよかったですね。

江夏 よし。じゃあ、ここまで順調に来てるんだな。

松坂 はい。予定では明後日、バッティングピッチャーをやります(*)。

*2月14日、松坂は予定どおり今キャンプ初のバッティングピッチャーを務め、打者ふたりに対し全球種を投げた

江夏 もう投げられるのか?

松坂 投げられます。

江夏 無理せんようにな。まだ寒いし、故障上がりの体にはちょっとつらいと思うから。

松坂 そうですね。思ったより気温が低いので、気をつけながらやってます。

*この続きは、発売中の『週刊プレイボーイ』10号でお読みいただけます!

(構成/高橋安幸 撮影/五十嵐和博)

●松坂大輔(まつざか・だいすけ)

1980年生まれ、東京都出身。横浜高校3年時に甲子園春夏連覇。夏の準々決勝(対PL学園)の延長17回完投、決勝(対京都成章)のノーヒットノーランは高校野球史に残る名シーン。ドラフトでは3球団競合の末、西武入りし、在籍8年間で最多勝3回、最多奪三振4回、最優秀防御率2回。WBCでも第1回(2006年)・第2回(09年)と連続MVP。07年にメジャーリーグのレッドソックスへ移籍し、当初は主力投手として活躍するも、近年は右肘の靱帯損傷(11年に手術)など故障に苦しむ。13年、14年はメッツでプレーし、今季ソフトバンク入り。日米通算164勝103敗

●江夏豊(えなつ・ゆたか)

1948年生まれ。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振、延長戦ノーヒットノーランなどの記録を持つ伝説の名投手。通算成績は206勝158敗193セーブ

■週刊プレイボーイ10号(2月23日発売)「アウトロー野球論SPECIAL対談 松坂大輔×江夏豊」より