バイエルン復権のカギを握る“諸刃の剣”、「ロベリー」の可能性とリスクとは
昨シーズン3位と期待を裏切った盟主バイエルンは老将ユップ・ハインケンスにチームの再建を託した。かつて、天才ギュンター・ネッツァーと名コンビを築いた彼はフランク・リベリーとアルイェン・ロッベンの2人をどう生かすのか。そこに、今シーズンのバイエルンの成否を占うポイントがある。
[連載| ワールドサッカーキング 11.09.01(No.189)掲載]

文=ディルク・ギーゼルマン、翻訳=阿部 浩 アレクサンダー、写真=千葉格
■チームの結果を左右する「特別な個人」の存在
ブンデスリーガの過去50年の歴史を振り返ってみると、勝者となったチームには必ず「決定的な要素」があったことが分かる。それは画期的な戦術やシステムの場合もあるが、大抵は「特別な個人」の存在だ。他の誰もまねできないハイレベルな実力を備え、そのパフォーマンスによってチームの試合結果を左右するプレーヤー。ブンデスリーガ草創期の得点王ルディ・ブルネンマイアー(1860ミュンヘン)や、同じく1960年代のDFヨアヒム・ベーゼ(ブラウンシュバイク)、そして70年代の司令塔ヴォルフガング・オベラート(ケルン)といった選手がこれに当たる。チームに彼らがいる時といない時では全く別のサッカーになるという意味で、彼らは「特別な個人」だった。
ごくまれに「特別な個人」が2人そろうことがある。すると、それは圧倒的なチームになる。70年代のバイエルンはフランツ・ベッケンバウアーとゲルト・ミュラーのコンビで欧州を席巻した。“皇帝”と呼ばれたベッケンバウアーはヘルベルト・フォン・カラヤン(編集部注:20世紀最高の音楽指揮者)のようにチームを統率し、エレガントなプレーで観客を魅了した。そして“爆撃機”と称されたミュラーは、本能のままにゴールを量産したモンスターだった。「ゴール前で少しでも考えてるようじゃ、もう遅い」と彼は言う。ミュラーらしい言葉だ。
70年代にバイエルンと覇権を争ったボルシアMGも、2人のスターに率いられたチームだった。ギュンター・ネッツァーとユップ・ハインケスのコンビは“皇帝”と“爆撃機”に全く見劣りしなかった。ネッツァーは優美なプレーで中盤をコントロールし、賢くアイデアに溢れたパスで前線のハインケスに多くのゴールチャンスを提供した。
その40年後、ネッツァーは権威ある評論家となり、ベッケンバウアーはバイエルンの最高幹部に、ミュラーはユース部門のコーチになった。そしてハインケスはこの夏、自身3度目となるバイエルンの監督に就任した。
サッカー界を知り尽くしているハインケスは、自分が指揮するチームについて聞かれても慎重な態度を崩さない。バイエルンのリーグ優勝について「保証してもいい」と強気に出ているが、必ず「あの2人次第だが」と条件を付けている。もちろん、「あの2人」とはフランク・リベリーとアルイェン・ロッベンのことだ。
ハインケスのセリフは彼のキャリアを振り返れば理解できる。73年、ネッツァーが突然レアル・マドリーへ移籍すると、ハインケスは大幅にゴール数を減らし、ボルシアMGは一気に衰退した。77年にはベッケンバウアーがアメリカのニューヨーク・コスモスへ移籍。その後はバイエルンもボルシアMGと同じ運命をたどった。
ちなみに、ブンデスリーガではその後も、80年代にはハンブルガーSVのDFマンフレート・カルツとFWホルスト・フルベシュ、90年代はフランクフルトのウーヴェ・バインとアンドレアス・メラー、最近ではブレーメンの司令塔ヨアン・ミクーと点取り屋アイウトンといった黄金コンビが時代を彩った。そして現在の代表格がリベリーとロッベンなのだ。
■扱いが難しい「ロベリー」の問題
リベリーとロッベン。この両ウイングが万全のコンディションでプレーできれば、バイエルンは欧州最強レベルのチームになる。2年前の2009-10シーズン、彼らはそのことを証明した。ブンデスリーガとDFBカップを制し、チャンピオンズリーグでは決勝に進出。2人の名前をつなぎ合わせた「ロベリー」とは英語で「強盗」の意味だが、彼らはそれほど強引かつ巧妙に相手チームの金庫、つまりゴールをこじ開けてしまう。中でもロッベンの比類ない突破力と決定力はリーグ随一。ブンデスリーガでは数少ない、真のワールドクラスと言っていい。
だが問題は、2人の存在がチームの強みであると同時に弱みでもあるということだ。私はたった今、2人が「万全のコンディションでプレーできれば」と書いた。そう、今のバイエルンはチーム全体が常に2人のコンディションに振り回されている。ロッベンは南アフリカ・ワールドカップでひざに重傷を負い、昨シーズンの前半戦を棒に振った。そしてリベリーも小さなケガを繰り返している。
ケガだけではない。本人たちは絶対に認めないだろうが、2人にはメンタルにも相当な波がある。彼らは度々、試合中にサッカーへの関心を失ったかのような態度を取るし、チームメートのプレーにいら立ったり、自分のミスをカバーせずにダラダラと歩いていたりする。良いプレーができなかった時、彼らが真っ先に不満を漏らすのはピッチの芝の悪さだ。
要するに、彼らはスターであることに慣れ切って、自分だけ特別待遇が許されると思っている。これはベッケンバウアーやヨハン・クライフ、ペレのような伝説の存在ですら、サッカーでは許されない考え方だ。ロッベンはある試合の後で「どうして俺にFKを蹴らせなかった?」とトーマス・ミュラーを殴ったことがある。これではチームの団結力が損なわれるのも無理はない。
昨シーズン途中までチームを率いたルイ・ファン・ハール監督は、「ロベリー」の破壊力と危険性を理解していた。だからこそ、彼らを様々な方法でコントロールしようと試みた。リベリーがケガから復帰しても先発させなかったり、中盤の配置を入れ替えてみたり。だが、これはあまりにも無理なテストだった。ファン・ハールは論理的だが強引な手法を採るタイプで、本来スター選手との折り合いが悪い監督だ。その彼が「ロベリー」をベンチに置けばファンやメディアが黙っていないし、試合に敗れるようなら更に批判されるだろう。そんな厄介な選手は放出してしまえばいいが、実力とチームへの影響力を考えれば簡単に売ることもままならない。こうして、「ロベリー問題」はますます袋小路に入り込んだのである。
■ハインケスが考えるバイエルンの改革
新監督ハインケスの当面の課題は、この「ロベリー問題」を解決することだ。彼は自らの体験から「2人に頼るチーム」のもろさを知っている。老練な指揮官は、口では「このチームは2人次第だ」と言いながら、実はエースに頼らないチーム作りを進めているように見える。それは今夏の補強を見ても明らかなことだろう。
GKマヌエル・ノイアー、センターバックのジェローム・ボアテング、右サイドバックのラフィーニャ。ファン・ハール時代にほとんど無視されていた守備陣に手を加えたのは、攻撃陣の出来に左右されない安定性を求めてのことだ。そして、決定的な人事が宇佐美貴史の加入である。
プレシーズンマッチで見せた宇佐美の潜在能力は関係者を驚かせた。更に、スター軍団のバイエルンに入っても謙虚さを失わない姿勢も好印象を与えた。「周りの選手からたくさん学んでいます。早くチームに慣れて、仲間の助けを借りながら成功したいと思っています」と彼は言う。
こういう選手をバイエルンは望んでいたのだ。宇佐美のように自分よりチームを尊重する選手を。新指揮官は「ロベリー」の不安定なコンディションや気分の波を気にせず、自らの哲学に基づいてチーム作りを進めるだろう。例えばレヴァークーゼンを率いていた昨シーズン、ハインケスはミヒャエル・バラックを「コンディションが万全ではない」という理由でベンチに座らせた。
これがハインケスという監督だ。「ロベリー」と言えどもレギュラーの保証はないし、さらに言えば今のバイエルンにはトニ・クロース、ミュラー、宇佐美というバックアッパーがいる。この3人はどのチームでもレギュラーになれる才能の持ち主だ。
1人、2人の「特別な個人」の力でチームの行方を決定付ける時代は過ぎ去った。現代サッカーはいかにして集団としての強さを発揮できるかに掛かっている。昨シーズンのドルトムントはまさにそういう形でマイスター(王者)となったのだ。前半戦のヒーローだった香川真司が大ケガを負っても、代わりにマリオ・ゲッツェが活躍してチーム力の低下を防いだ。同じことがバイエルンでも起こるだろうか? 例えばリベリーが欠場する(もしくは気分が乗らない)時、そこを宇佐美がカバーするという具合に。
これが現実となった時、バイエルンに対抗できるチームはないだろう。だが、「ロベリー問題」が長引くようなら、ドルトムントが優勝するはずだ。今シーズンの覇権争いは、実はその1点に絞られているように私には思われる。
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■チームの結果を左右する「特別な個人」の存在
ごくまれに「特別な個人」が2人そろうことがある。すると、それは圧倒的なチームになる。70年代のバイエルンはフランツ・ベッケンバウアーとゲルト・ミュラーのコンビで欧州を席巻した。“皇帝”と呼ばれたベッケンバウアーはヘルベルト・フォン・カラヤン(編集部注:20世紀最高の音楽指揮者)のようにチームを統率し、エレガントなプレーで観客を魅了した。そして“爆撃機”と称されたミュラーは、本能のままにゴールを量産したモンスターだった。「ゴール前で少しでも考えてるようじゃ、もう遅い」と彼は言う。ミュラーらしい言葉だ。
70年代にバイエルンと覇権を争ったボルシアMGも、2人のスターに率いられたチームだった。ギュンター・ネッツァーとユップ・ハインケスのコンビは“皇帝”と“爆撃機”に全く見劣りしなかった。ネッツァーは優美なプレーで中盤をコントロールし、賢くアイデアに溢れたパスで前線のハインケスに多くのゴールチャンスを提供した。
その40年後、ネッツァーは権威ある評論家となり、ベッケンバウアーはバイエルンの最高幹部に、ミュラーはユース部門のコーチになった。そしてハインケスはこの夏、自身3度目となるバイエルンの監督に就任した。
サッカー界を知り尽くしているハインケスは、自分が指揮するチームについて聞かれても慎重な態度を崩さない。バイエルンのリーグ優勝について「保証してもいい」と強気に出ているが、必ず「あの2人次第だが」と条件を付けている。もちろん、「あの2人」とはフランク・リベリーとアルイェン・ロッベンのことだ。
ハインケスのセリフは彼のキャリアを振り返れば理解できる。73年、ネッツァーが突然レアル・マドリーへ移籍すると、ハインケスは大幅にゴール数を減らし、ボルシアMGは一気に衰退した。77年にはベッケンバウアーがアメリカのニューヨーク・コスモスへ移籍。その後はバイエルンもボルシアMGと同じ運命をたどった。
ちなみに、ブンデスリーガではその後も、80年代にはハンブルガーSVのDFマンフレート・カルツとFWホルスト・フルベシュ、90年代はフランクフルトのウーヴェ・バインとアンドレアス・メラー、最近ではブレーメンの司令塔ヨアン・ミクーと点取り屋アイウトンといった黄金コンビが時代を彩った。そして現在の代表格がリベリーとロッベンなのだ。
■扱いが難しい「ロベリー」の問題
リベリーとロッベン。この両ウイングが万全のコンディションでプレーできれば、バイエルンは欧州最強レベルのチームになる。2年前の2009-10シーズン、彼らはそのことを証明した。ブンデスリーガとDFBカップを制し、チャンピオンズリーグでは決勝に進出。2人の名前をつなぎ合わせた「ロベリー」とは英語で「強盗」の意味だが、彼らはそれほど強引かつ巧妙に相手チームの金庫、つまりゴールをこじ開けてしまう。中でもロッベンの比類ない突破力と決定力はリーグ随一。ブンデスリーガでは数少ない、真のワールドクラスと言っていい。
だが問題は、2人の存在がチームの強みであると同時に弱みでもあるということだ。私はたった今、2人が「万全のコンディションでプレーできれば」と書いた。そう、今のバイエルンはチーム全体が常に2人のコンディションに振り回されている。ロッベンは南アフリカ・ワールドカップでひざに重傷を負い、昨シーズンの前半戦を棒に振った。そしてリベリーも小さなケガを繰り返している。
ケガだけではない。本人たちは絶対に認めないだろうが、2人にはメンタルにも相当な波がある。彼らは度々、試合中にサッカーへの関心を失ったかのような態度を取るし、チームメートのプレーにいら立ったり、自分のミスをカバーせずにダラダラと歩いていたりする。良いプレーができなかった時、彼らが真っ先に不満を漏らすのはピッチの芝の悪さだ。
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昨シーズン途中までチームを率いたルイ・ファン・ハール監督は、「ロベリー」の破壊力と危険性を理解していた。だからこそ、彼らを様々な方法でコントロールしようと試みた。リベリーがケガから復帰しても先発させなかったり、中盤の配置を入れ替えてみたり。だが、これはあまりにも無理なテストだった。ファン・ハールは論理的だが強引な手法を採るタイプで、本来スター選手との折り合いが悪い監督だ。その彼が「ロベリー」をベンチに置けばファンやメディアが黙っていないし、試合に敗れるようなら更に批判されるだろう。そんな厄介な選手は放出してしまえばいいが、実力とチームへの影響力を考えれば簡単に売ることもままならない。こうして、「ロベリー問題」はますます袋小路に入り込んだのである。
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新監督ハインケスの当面の課題は、この「ロベリー問題」を解決することだ。彼は自らの体験から「2人に頼るチーム」のもろさを知っている。老練な指揮官は、口では「このチームは2人次第だ」と言いながら、実はエースに頼らないチーム作りを進めているように見える。それは今夏の補強を見ても明らかなことだろう。
GKマヌエル・ノイアー、センターバックのジェローム・ボアテング、右サイドバックのラフィーニャ。ファン・ハール時代にほとんど無視されていた守備陣に手を加えたのは、攻撃陣の出来に左右されない安定性を求めてのことだ。そして、決定的な人事が宇佐美貴史の加入である。
プレシーズンマッチで見せた宇佐美の潜在能力は関係者を驚かせた。更に、スター軍団のバイエルンに入っても謙虚さを失わない姿勢も好印象を与えた。「周りの選手からたくさん学んでいます。早くチームに慣れて、仲間の助けを借りながら成功したいと思っています」と彼は言う。
こういう選手をバイエルンは望んでいたのだ。宇佐美のように自分よりチームを尊重する選手を。新指揮官は「ロベリー」の不安定なコンディションや気分の波を気にせず、自らの哲学に基づいてチーム作りを進めるだろう。例えばレヴァークーゼンを率いていた昨シーズン、ハインケスはミヒャエル・バラックを「コンディションが万全ではない」という理由でベンチに座らせた。
これがハインケスという監督だ。「ロベリー」と言えどもレギュラーの保証はないし、さらに言えば今のバイエルンにはトニ・クロース、ミュラー、宇佐美というバックアッパーがいる。この3人はどのチームでもレギュラーになれる才能の持ち主だ。
1人、2人の「特別な個人」の力でチームの行方を決定付ける時代は過ぎ去った。現代サッカーはいかにして集団としての強さを発揮できるかに掛かっている。昨シーズンのドルトムントはまさにそういう形でマイスター(王者)となったのだ。前半戦のヒーローだった香川真司が大ケガを負っても、代わりにマリオ・ゲッツェが活躍してチーム力の低下を防いだ。同じことがバイエルンでも起こるだろうか? 例えばリベリーが欠場する(もしくは気分が乗らない)時、そこを宇佐美がカバーするという具合に。
これが現実となった時、バイエルンに対抗できるチームはないだろう。だが、「ロベリー問題」が長引くようなら、ドルトムントが優勝するはずだ。今シーズンの覇権争いは、実はその1点に絞られているように私には思われる。
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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではグラビアページを担当。
