”ゴミの島”から生まれ変わった湾岸エリアの「海の森公園」がガラガラに…開園から1年で見えた厳しすぎる現実
東京湾に浮かぶ埋立地「中央防波堤(中防)」をめぐる江東区と大田区の帰属争いは、半世紀近くにわたって泥沼化した。1973年の建設開始以来、ゴミの最終処分場として機能してきた同地は、帰属が決まらない上、汚水・ガスの排出や地盤の不安定さから開発も進まず、広大な土地が放置されたまま歳月だけが過ぎていった。
膠着を打ち破ったのは、東京五輪という外圧だった。中防内に建設された「海の森競技場」が五輪会場に決定したことで開発機運が一気に高まり、東京高裁の調停案(大田区20.7%・江東区79.3%)をもってようやく両区が決着に合意。長年の領土争いに終止符が打たれたのだ。
そして2025年3月、「海の森公園」がグランドオープン。ゴミの埋立地だった荒野は、緑豊かな都立公園へと生まれ変わった--はずだった。だが開園から1年が経った今も、来園者の姿はまばらだ。
後編では、グランドオープンの現場を歩いた筆者が目にした現実と、中防エリアが抱える「前途多難」の実態に迫る。
前編記事『お台場のすぐそば、立入禁止&住所未定だった「謎の島」を巡って…大田区VS江東区、半世紀にわたる"領土争い"の真相』より続く。
公園という名の単なる原っぱ
海の森公園は都立公園であり、江東区立ではないのだが、グランドオープンの式典には小池百合子都知事のみならず地元の大久保朋果区長も姿を見せている。
当然ながら、筆者は2025年3月28日のグランドオープンイベントにも足を運んだ。華々しくグランドオープンを迎えた同公園は公園の体こそなしていたものの、一部のエリアに複合遊具が設置されているのみで、大部分は単なる広場、もっと端的に言えば原っぱだった。
これまで定期的に植樹イベントを実施していたこともあって、多種多様の草木が群生していることは園内を散策するだけでも実感でき、最近になって声高に言われるようになった生物多様性にも適しているのだろうが、植樹イベントに汗を流した一般参加者や地域住民が憩えるような“公園”ではなかった。
そもそも公園の周辺に住宅は存在しない。そのため、利用者はバスを使わなければ来園できない。そのバスにしても、イベント開催時は臨時便が運行されるものの、通常時はとても利用に適ったものにはなっていない。
交通アクセスが脆弱で、さらに周辺に飲食店などの商業施設もない。それでは家族連れが気軽に遊びに行くような公園にはならない。
来園者はまるで兵糧攻めの状態
海の森公園は、イベント時にはフードトラックが出店するが、グランドオープン時はその数が明らかに不足しており、来園者はまるで兵糧攻めに遭っているかのような状態だった。
食べ物の調達以上に、飲み物の調達は困難だった。公園内には自販機も設置されているが、グランドオープンのイベント初日は自販機すべてが売り切れになっていた。
グランドオープン日は前夜に激しい雨が降り、早朝には降り止んだものの昼から再び曇り空になるという、決して恵まれた天候ではなかった。その影響もあって人出が多いとは思えなかったが、それでも自販機はすべて売り切れになったのだから自販機が足りていないことは明らかだった。
周辺に飲食店が少ないのは人工島という環境を考えれば仕方ない面もあるだろう。そのあたりは今後フードトラックや自販機を充実させることでカバーできるはずだ。
ただ気になったのは、園内のベンチの少なさとゴミステーションの整備の不十分さだ。フードトラックや自販機を増やすなら、ベンチやゴミステーションの拡充も欠かせない。イベント時に仮設で対応することもできるだろうが、大勢の来園者を呼び込むには常設することが必要になる。
これは都内に限った話ではないが、昨今は公園から常設のベンチやゴミステーションが消えつつある。設置に必要な費用、さらには維持費を嫌う傾向が、公園の管理者たる行政の間で強まっていることが背景にある。
厳しい日差しや強い潮風にさらされる
近年、公園はイベント開催の場として機能するようになり、常設のベンチ・ゴミステーションがかえって効率的に利用できなくなるデメリットも生まれている。
しかし本来、公園は生活に密着した日常空間であり、イベント開催を想定したスペースではない。ベンチやゴミステーションは公園に必要不可欠な設備のはずだが、管理者側はゴミの持ち帰りを半ば強いるような掲示やアナウンスを強めている。そうした手間が来園者の足を遠のかせることは想像に難くない。
これが都心部で誰もが足を運びやすい公園なら、まだ理解できる。しかし海の森公園は明らかにそうした公園ではない。
海の森公園は昨今の公園行政のトレンドを色濃く反映しているが、それ以上に負の部分を痛感させられたのが海上公園という立地だ。海に面しているため厳しい日射や強い潮風にさらされ、イベント開催には不向きな環境といえる。しかも塩害によってベンチやゴミステーションの傷みも早くなる。常設設備が少ない理由は、そこにあるのかもしれない。
こうした負の要素を多く抱えながらも、海の森公園はひとまずグランドオープンを果たした。東京都は定期的なイベント開催を通じて、公園や周辺地域の活性化につなげることを目論んでいる。
ところが、グランドオープンから1年が経過したものの、いまだ中防がホットスポットに変化する兆しは見られない。
お台場さえガラガラ…中防の再開発の行方は
東京都が策定した事業計画書などを見ると、2026年から2027年にかけて中防の開発に来街者が楽しめるような商業施設や集客施設を建設する予定は見当たらない。それは江東区も同様で、来園者・来街者が楽しめる施設が誕生するには、まだ長い歳月を要することになるだろう。
しかし、中防よりも都心に近く、かつて東京都をはじめ民間事業者がこぞって資本を投下して開発を推進したお台場ですら、いまや閑散エリアへと姿を変えている。わざわざ遠くて不便な中防に資本を投下しようという民間事業者が現れるとは考えにくく、仮にそうした事業者が手を挙げて開発機運が生まれたとしても、多くの人が集まるような場所になるのかは疑わしい。
昨今、都内では再開発事業が目白押しで、それらはオープン時に話題を集めている。しかし、華々しく開業した麻布台ヒルズやShibuyaSakuraStage、羽田イノベーションシティといった大型再開発は一年ほどで話題が失速し、軒並み失敗と断じられる状況に直面している。
都心一等地の再開発が苦戦している理由は多岐にわたり、理由をひとつに絞ることはできないが、再開発後に誕生する商業空間が金太郎飴のようにどこも同じチェーン店ばかり並んでいる風景は、来街者を興醒めさせる大きな理由になっている。
これは東京の一等地でも再開発による地域活性化が容易ではなくなってきていることを物語る。こうした状況を踏まえれば、13号地や中防といった東京湾に浮かぶ人工島の前途は厳しいと言わざるを得ない。
(写真はすべて筆者撮影)
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