清家愛港区長

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「いざという時、助けを呼べるのは大変心強い。安心して働けるようになりました」。こう安堵の表情を浮かべるのは、東京都港区役所の職員である。港区では今年2月から、カスタマーハラスメント対策のため「元警察官」を役所内に常駐させる取り組みを開始した。

 カスハラを受けていると職員が“SOS”を出すと、元警察官が現場に急行してくれ、代わりに対応してくれるというのだ。自治体では全国初となるこの対策を導入した清家愛区長に話を聞いた。

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【写真】港区役所に常駐している「コワモテだが心は優しい元マル暴刑事」と「美人元ハコヅメ警官」

増えてきた「SNSカスハラ」

「最近は民間企業だと、クレームや要望などを受け付ける相談窓口をネット上に限り、電話番号などを公表していないところが多いですよね。しかし、役所仕事はそうはいきません。幅広く住民の皆様からの相談を受付け、寄り添いながら解決していくのが仕事。業務の性質上、カスハラへの対応が求められる場面も少なくありません」(清家区長)

 確かに区役所にとっては地域住民全体が「お客様」だ。様々な事情を抱える住民を相手にしなければならないし、「税金で食わせてやっているんだ」という意識を持っている住民も少なくないので大変であろう。

清家愛港区長

 これまでどのようなカスハラ被害に悩まされてきたのか。

「一番多いのは長時間の拘束。電話を2時間以上切ってくれないとか、閉庁時間の午後5時15分を過ぎても帰ってくれないなど。それから、大声を上げる、机を叩くなどの暴力行為。最近だと、職員の名前や写真などの個人情報を勝手にSNSにアップしてしまうようなケースもあります」(同)

 実際、港区では2024年、深刻なカスハラ被害が発生した。住民が職員の対応が悪いと窓口に居座り、スマホカメラで撮影しSNSにアップ。挙句、区に対して訴訟まで起こしたのだ。昨年9月、区は勝訴したものの、当時は役所を揺るがす大騒動になった。

保健所の立ち入り検査への夜間同行も

「このようなカスハラ被害は個人では到底抱えきれない精神的負担であり、組織として職員を守っていかねばなりません。2024年11月、職員に対してアンケート調査を行ったところ、回答者のうち半数以上がカスハラの経験があり、見たことがある職員を含めると7割以上という結果が出ました。そこで、2025年4月、『港区職員におけるハラスメント防止宣言』を行うとともに、抜本的な対策を講じることにしたのです」(同)

 その際、出てきたアイデアが「元警察官」に協力してもらうことだった。

「元警察官ならばさまざまな場面の対応に慣れているだろうと」(同)

 区が「元警察官など、冷静な対話を支えるために必要な知識や経験を有する者を配置すること」を要件として受託業者を募ったところ、元警察官が代表を務める防犯会社が名乗りを挙げた。プロポーザルによる選定の結果、その業者が採用され、今年2月、「安心対応サポート室」を開設するに至った。

 安心対応サポート室には常時1〜2名の元警察官が常駐。“カスハラ通報”が入ると緊急出動し、職員からバトンタッチして住民に対応してくれる。保健所の立ち入り検査への夜間同行なども請け負ってくれるという。

「港区は赤坂や六本木、新橋という大きな繁華街を抱えています。夜間、クラブなどの店舗に立ち入るのは心細いという声も多かったので大変助かっています」(同)

職員たちからは「こういうサポートを求めていた」と好評

 事業を受託した防犯会社「Private Police」代表取締役の西見高次氏は警視庁に26年間在籍した百戦錬磨の元マル暴刑事だ。西見氏が強みを語る。

「私たちには捜査や職質などで培った知識・スキルがあります。警察OBなので最寄りの警察署との連携もしやすい。犯罪だと判断すればすぐに警察へ連絡する体制も整えています」(西見氏)

 4月の実績は緊急対応12回、現場同行2回、相談14回。定期的な庁内研修の実施やカスハラ対応マニュアルの見直し支援も行っている。職員たちからは「こういうサポートを求めていた」と好評だという。

 清家区長は「区民サービスの向上につながっている」と強調する。

「カスハラへの対応は職員を疲弊させます。その対応を安心対応サポート室に任せることで、職員たちは本来の業務に集中することが可能になりました。働きやすい職場になれば良い人材の確保にもつながります。もちろん、真摯に受け止めるべき声は峻別し、適切に対応していくことが大前提ですので、引き続き接遇研修なども並行して行って参ります」(清家区長)

 このような取り組みは自治体では全国初だという。今年10月からは自治体も含めた全事業者にカスハラ対策を講じることが義務付けられたが、続く自治体は出てくるのか。

デイリー新潮編集部