日本の国力低下を食い止めるには「国内半導体メーカー」の成長支援しかない…高市政権が舵取りを誤れば日本はさらに沈んでいく
サムスンの徹底した成果主義
1〜3月期、韓国のサムスン電子はAI向け半導体需要の急拡大を背景に、売上高・営業利益ともに四半期ベースで過去最高を記録した。通常、業績拡大は企業の利害関係者に大きなプラスとなる。だが、同社においては成果給の配分を巡り、深刻な労使対立に発展した。
背景にあるのは、ライバルであるSKハイニックスが打ち出した賞与上限の撤廃と、それに伴う基本給の約30倍(平均約1574万円)という破格のボーナス支給だ。危機感を強めたサムスン電子の労働組合は、ストライキも辞さない強硬姿勢を示し、一時は国家的な経済損失すら懸念されていた。
現在の日米欧先進国では、業績が好調な局面で労働組合がストライキを突き付けるケースはあまり見られなくなっている。主要先進国と好対照をなすこの韓国の動きは、1960〜70年代のわが国の労使対立に似ており、裏を返せば、働き手側の企業や経済に対する「高い成長期待」の表れであると言える。
前編記事〈AI特需に沸くサムスン電子の従業員が勝ち取った「驚愕のボーナス」…日本と韓国の半導体人材の間に生まれてしまった「あまりに大きな待遇差」〉では、韓国の半導体人材に与えられる破格の待遇と、その背景にある韓国経済のダイナミズムについて解説した。
韓国では、受験戦争といわれるほどに大学受験が熾烈だ。有名大学に入学することは、サムスン電子など大手企業の入社に重要といわれている。そして、就職後も熾烈な競争に直面する。
1993年、サムスン電子のイゴンヒ会長(当時)は、製品の不良が続いたことを取り上げ、「妻と子ども以外はすべて変えろ」とグループ全体に号令を発した。その結果として、競争に基づく成果主義が徹底された。
日本が学ぶべきポイント
近年、韓国では、日米などと異なり労働組合の組織率が上昇に転じている。業績拡大のベネフィットを、より大きく手に入れようとする人は増えている。一方、労働争議は企業の業績、利害関係者の利得にマイナスであり、避けたいところだ。
労使の関係を円滑化し、安定させるのは経営者の責任である。この点で、わが国の企業は労使関係の安定は維持できている。それに加えて必要なのは、従業員のアニマルスピリットを刺激し、常に高い成長を目指す経営風土の醸成である。この点で、韓国企業に学ぶ点はあるだろう。
特に、わが国の企業は復活に向けて、ある意味では、現在、重要な局面を迎えている。わが国に、半導体の関連部材や製造装置分野で、国際競争力を維持している企業は多い。
ところが、現時点で、先端レベルのAI演算チップを自力で供給できる企業はまだない。突き詰めて考えると、世界トップを目指すためには、リスクを取って大規模な投資を行うことが必要だ。
企業は、成果を出した人物に、ふさわしい待遇を提供する。ある意味で、サムスン電子でさえ、この点は不十分だったようだ。ポイントは、それがボーナスなのか、より自由な研究・執務環境なのか、個々人で異なる。有能な従業員が納得、満足する就業条件を確立するためには、労使の対立は阻害要因だ。
むしろ、わが国のように労使が協調し、長期の目線で事業計画の遂行と目標の実現にコミットしやすい環境は、高付加価値型の製品を創出するために重要だろう。わが国企業は、競争原理を重視し、成果に見合った待遇を重視すべきだ。
国力低下が続く日本の打開策
半導体市況は、一定の周期で不況と好況を繰り返してきた。過去、半導体の不況時にはエルピーダメモリのように、資金繰りに行き詰まり事業継続が困難になったケースもあった。
ただ、経営環境の状況は変化している。半導体は一国経済に欠かせない戦略物資である。汎用品であっても、製造能力の低下は経済や国際発言力に重大な影響を与える。高市政権は、そうした認識をもって成長戦略の焦点を明確にすべきだ。
現在の政権の政策を見ると、全体的にやや楽観的な印象を持つ。ナフサ不足に関する政府対応は一つの例だ。消費税などの減税、給付に関する議論は、財政状況の深刻さを十分に認識しているとは言いづらい。外国為替市場では、従来のサイクルを超えて円の減価が続いている。それは、何といっても、わが国の実力が低下していることを象徴している。
負の連鎖を食い止めるために、政府が、成長期待の高い半導体関連分野に的を絞った産業政策が必要になるだろう。財源をねん出するため、消費税の引き上げと社会保障の見直しを進め、研究開発や起業の支援制度を拡充すべきだ。
対応が遅れると、少子化、高齢化、人口減少の同時進行で内需は縮小するだろう。それにより、企業の海外進出が加速し、産業空洞化が鮮明化する恐れは高まる。
人口減少問題は、韓国の方が深刻だ。それでも、歴代の韓国の政権は重要産業である半導体などの支援を続け、結果としてHBMなどのシェア拡大が実現した。
的を絞った産業政策は、わが国も取り入れるべきだ。原油価格の高止まり懸念など景気の先行き不安が高まる状況下、高市政権は早期に半導体関連分野の成長を支援し、自動車に続く主力産業の育成にコミットしたほうがよい。
それが遅れると、世界のGDPシェアで3%台半ば(ドルベース)に低下したわが国の地位は、急速に低下することが懸念される。
----
【さらに読む】〈宇宙開発に出遅れた日本で大化けするかもしれない「繊維メーカーの名前」…市場規模は驚愕の175兆円に〉もあわせてお読みください。
