(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

資産運用は長期が基本で、余裕資金で行うこと」が大前提ですが、たとえ余裕資金であっても、多くの人にとって減ってもいいお金などありません。投資を始めたばかりの初心者ならではの“ワナ”とは。合同会社ミコサポ代表の三藤桂子FPが、投資デビューで新NISAを始めた65歳男性の事例をとおして、初心者が新NISAの落とし穴にはまらないためのポイントを解説します。※事例はプライバシー保護のため、一部脚色しています。

老後資金2,000万円で足りる?…長寿時代の「投資」の落とし穴

厚生労働省の資料によると、日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.13歳と約40年前と比べると6歳以上、平均寿命が延びています。年金受給開始年齢は原則65歳からとなっており、定年が原則65歳となっていることもあり、「65歳までは働こう」と考える人が増えています。

しかし、仕事を65歳でリタイアしたとしても、あと約20年あります。年金だけで日常生活を賄えるのであれば安心ですが、いくら安心だからとむやみに資産運用に手を出すと、痛い目をみる可能性もあるようです。

周囲を見返したい…妻に内緒でNISAを始めた60歳男性

Aさんは、同い年の妻との二人暮らしです。65歳以降、あわせて336万円(月額28万円)の年金を受け取っています。夫婦は贅沢しないため、日ごろの生活費は年金だけで賄えそうです。

Aさんは、60歳で定年退職した際、退職金として2,000万円を受け取りました。住宅ローンが500万円残っていましたが、退職金を使って繰上げ返済し、完済後も退職金と貯蓄をあわせて2,500万円の老後資金が手元に残りました。

自宅の住宅ローンは完済、老後資金は2,500万円程度。「老後2,000万円問題とかいうけど、我が家は安心ね」と妻は微笑んでいました。夫の“失態”を、このときは知る由もありません――。

真面目で少し臆病なところがあるAさんは、競馬やパチンコ、宝くじなどとは無縁な人。これまで仕事一筋で生きてきました。貯蓄も十分にあり、「自分は“勝ち組”」という自負もあります。

その一方で、一部から「真面目すぎてつまらない人」と陰口を叩かれることも。妻からは「あなたは新しいことを始めたり、冒険したりすることがない人ね。そこがいいところでもあるんだけど」とたびたび諦めたような口調でいわれていました。65歳で退職したあと、やることがないAさんは、「時間もあるし、なにかに挑戦してみたい。老後に一花咲かせてやろうか」と考えるようになります。

そこで目をつけたのが、「NISA」でした。ある日、新聞で「NISA特集」を目にしたAさんは、ネットでNISAについてくわしく調べてみることに。すると、サイトの見出しには「初心者向け」「国が推奨」「安心・安全」という言葉が並び、慎重派のAさんも興味をそそられます。

「友達も始めてるっていうし、俺もやってみるか」

現役時代から特に趣味もないAさんは、まるで遠足の前日のような「ドキドキ感」を数十年ぶりに味わい、年甲斐もなくワクワクしてきました。こうして、Aさんは妻に内緒でNISAを始めることに決めたのです。

悩んだ末の投資判断

NISA(ニーサ)とは、少額からの投資を行うことができる「少額投資非課税制度」のことです。通常は約20%かかる投資利益への税金が非課税になり、初心者でも少額から無理のない範囲で長期的な資産形成に取り組むことができます。

「さて、どの商品を買えばいいんだろう……」Aさんは、動画をみて熱心に勉強。Aさんの性格上、なかなか決めることができません。

「こんな性格だから、つまらない人間だといわれるのかな」

しかし、当時はちょうど新NISAへの移行期で、2024年から始まる新制度では「つみたて投資枠」と「成長投資枠」が設けられ、両方を併用することも可能になるとのこと。

「じゃあ俺は、新NISAに切り替わるタイミングで始めてみよう」と、口座開設等の準備を少しずつ進め、そして迎えた2024年。有名企業かつ複数の動画でランキング上位に入っていた銘柄に、成長投資枠の上限いっぱいまで購入。翌2025年にも、同じ銘柄をさらに240万円分買い増しました。2年間で、計480万円をNISA口座に投じたのです。

慎重すぎる性格が裏目に…

それからAさんは、毎日パソコンで証券口座を確認するのが日課になりました。1年目は順調に資産が増え、画面を見るたびに思わず笑みがこぼれます。

「よしよし、いいぞ……」

ところが2年目に入った途端、状況が一変します。世間では株価が上昇しているにもかかわらず、Aさんが選んだ銘柄だけがマイナスに転落していたのです。Aさんは思わず目を疑いました。

「えっ、なんで俺だけ……?」

額には汗がにじみ、手のひらもびっしょり。「まずい、すぐ売らないと」と即座に売却ボタンを押すと、パソコンの前にぐったりと座り込んでしまいました。落ち着いて画面を見直すと、すでに元本割れしています。

「こんなことならNISAなんてやらなければよかった。妻には言えません……」

投資初心者にありがちな「パニック売り」のワナ

Aさんは初心者であるがゆえに高値で購入し、下落局面で「パニック売り」という典型的な失敗をしてしまいました。結果、投資した480万円は320万円にまで減り、30%以上の損失を抱えることに。

NISAは本来、長期・積立を前提とした制度であり、余裕資金で行うのが基本です。Aさんも本来は10年以上使う予定のない老後資金を元手に始めたはずでしたが、慎重な性格が裏目に出てしまい、資産を大きく減らす結果となりました。

「やっぱり自分には投資なんて向いてなかった」とAさんは頭を抱えますが、Aさんに限らず初心者がこうしたワナに陥るケースは少なくありません。

始める前に専門家に相談するなど、制度の一長一短を客観的に理解していれば、もう少し落ち着いた気持ちで投資判断を行うことができたかもしれません。

〈出典〉
■厚生労働省「令和6年簡易生命表」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life24/dl/life24-02.pdf

三藤 桂子

合同会社ミコサポ

代表