警察の「巡回連絡カード」書いても大丈夫? “ニセモノ”の犯罪も横行する中…元警官が教える“ホンモノ”の見極め方
ゴールデンウィーク(GW)は帰省や旅行で家を空ける機会が増え、空き巣などの犯罪リスクが高まる時期だ。そんな時期だからこそ知っておきたいのが、交番・駐在所の警察官が家庭や事業所を訪問する「巡回連絡」という制度だ。
交番や駐在所の警察官が、地域のことを知り、犯罪の予防や事故防止などにつなげる同制度。ニセ警官も暗躍する物騒な時勢だが、元警察官で『警察官のこのこ日記』(三五館シンシャ)の著者、安沼保夫氏に、その活用法やニセ警官の見分け方などを聞いた。
巡回連絡の法的根拠は、主に警察法2条(警察の責務)に基づく住民の安全・安心を守るための任意活動だ。
具体的な実施基準は、地域警察運営規則20条や各都道府県警察の「巡回連絡実施要領」に定められており、災害時の安否確認や犯罪防止を目的として、交番・駐在所の警察官が家庭や事業所を訪問する。
街の治安維持に奔走する警察官が地域との関係性を深め、安心と安全を維持するうえでも、重要な活動といっていい。市民にとっても、自分が住むエリアにどんな警察官がいるのか把握できる機会にもなり、恩恵はある。
急増するニセ警察詐欺の新手口一方で、昨今、ニセ警官による犯罪が多発。昨年の被害額は約985億円(暫定値)にのぼる。
自転車の青切符制度がスタートしたと思えばすかさず便乗し、ニセ警官が嘘の摘発で反則金をだまし取る事件が続発。4月6日には、滋賀県甲賀市の81歳の女性が、大阪府警の警察官を名乗る人物らと電話やLINEでやり取りを続け、「無実を晴らすには、あなたの資産を調べる必要があります」と言われ、5回にわたって指定された口座に送金。被害総額は約1000万円に達した。
郵便受けにニセの逮捕状を送りつけるという新しい手口の詐欺事件も発生した。2月初旬、愛知県名古屋市の78歳の女性宅に、架空の「東京中央署」の警察官を名乗る人物から電話があり、数日後にレターパックが届く。差出人の住所は「東京都千代田区霞が関」--官公庁が集まる一等地だ。
封を開けると、女性の氏名・生年月日・住所、そして罪名「組織犯罪処罰法違反」が記載されたA4用紙が入っていた。「逮捕状を見て背筋が凍った」と女性は県警に説明したという。その後、女性は現金計約2600万円を詐取された。
また、着信画面に警視庁の代表電話「03-3581-4321」や末尾が「0110」の警察署代表番号を偽装表示して電話をかけてくる手口も横行している。警視庁は「まずは落ち着いて一旦電話を切り、家族や知人に相談してから折り返しましょう」と注意を呼びかけているが、冷静でいるのは簡単ではないだろう。
「警察です」と来訪…偽者の可能性は?こうしたニセ警官対策としても、巡回連絡は有効策になり得るという安沼氏だが、どのように真贋を見極めればいいのか。
「警察の制服や警察手帳も、限りなく本物に近い偽物がネットで買えてしまうようです。ですからまず、警察官を名乗る者の来訪があったとしても、すぐにドアを開けてはいけません。インターホンやドアチェーン越しに、所属警察署と担当課を聞き、署の電話番号を確認しましょう。署員ならすんなり答えられるはずです」
もしも、しどろもどろになったり、確認している途中で立ち去ろうとしたりするようであれば、即座に110番通報を。安沼氏は「もし本物の警察官だったら失礼では? と思う方もいるかもしれませんが、私が現職だった頃、巡回連絡で訪問する度に上記の方法を推奨していました。突然の来訪者に対しては、それくらいの警戒心を持っていた方がよいと思います」とアドバイスする。
巡回連絡カードは書いた方がよいのか?この巡回連絡とセットで行われるのが「巡回連絡カード」の記載だ。カードには「災害や事件、交通事故など、非常の場合の連絡に使うもので、警察以外の人に見せることはありません」と明記されており、「ご協力いただける範囲内で記載をお願いします」という任意の形式をとっている。記載欄には家族構成や緊急連絡先、勤務先などがある。
安沼氏は現職時代の経験を振り返り、その有効性を説く。
「迷子を保護したとき、巡回連絡カードのおかげでスムーズに保護者に連絡できたこともありました。逆に、家主が不在で巡回連絡カードもなく、困ったこともありました。書いておいた方がいざというときに役立ちます。その場での記載に迷ったら、『後日交番か署に届けます』と言って一旦預かるのも手です」
巡回連絡カードの悪用・流出リスクはないのか?相手が警察官とはいえ、「個人情報を書くのが不安」という声もあるだろう。安沼氏はリスクについて次のように説明する。
「考えられるリスクとして、①警察官による紛失、②第三者による不正アクセス、③警察官による悪用--の3点が挙げられます。
①については、専用ケースの導入により管理が厳格化され、紛失リスクはかなり減ったといいます。②については、カードは紙ベースで交番の鍵付きロッカーに保管されており、電子データでは保存されないため、サイバー攻撃による流出はありません。③については、やろうと思えば可能で、過去には現職警察官が悪用してストーカーや殺人事件に発展したこともありました」
➂は悪用であり、そもそもあってはならないが、不安を感じるなら、一つの判断材料として念頭に入れておいてもいいだろう。
それでも安沼氏は、「巡回連絡カードは『警察以外の人に見せることはありません』とありますが、刑事課員や公安課員が閲覧することも可能です。ただ、指名手配されているなど警察に対してやましいことがない限り、拒否するより協力することへのメリットの方が大きいと感じます」と話し、活用を推奨する。
GW前に巡回連絡カードで「顔の見える関係」をその最大の理由は、担当警察官に直接コンタクトし、顔と名前を覚え、日頃から「顔の見える関係」を築けるからだ。お互いに知っていれば、そのこと自体が犯罪の抑止力にもなる。逆にいえば、知らないからニセモノに騙されてしまう…。詐欺被害などの早期発見・防止には、これ以上ない対策といえるだろう。
GWを利用して、帰省や旅行で家を空けることが多いシーズン。安心して休暇を楽しむためにも、この機会に巡回連絡カードの内容を確認し、納得できるようならその記載を検討してみてもいいかもしれない。
■安沼保夫(やすぬま・やすお)
1981年、神奈川県生まれ。明治大学卒業後、夢や情熱のないまま、なんとなく警視庁に入庁。調布警察署の交番勤務を皮切りに、機動隊、留置係、組織犯罪対策係の刑事などとして勤務。20年に及ぶ警察官生活で実体験した、「警察小説」では描かれない実情と悲哀を、著書につづる。
