「私は何を…」工場でおせち詰めをしながら流した涙。名女優が転落の先で見た「みじめさ」の正体
日本での仕事をすべてキャンセルして、フィリピンへ帰国したルビー・モレノさん。2年後に日本に戻ると、仕事はゼロ。かつてよくしてくれた人たちとの連絡も途絶え、驚くほど周囲から人が消えていました。失意のどん底で、それでも生活のために細々と働き続けた日々。絶望から立ち直るまでのルビー・モレノさんの日々を聞きました。
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「かつての仲間」が消えた、仕事ゼロの現実
── 脳性まひを患っていた娘さんの医療費を稼ぐために来日するも、最愛の娘さんの最期に立ち会えず、日本での仕事をすべてキャンセルし、フィリピンに帰国したルビーさん。その後はどうされていたのですか?
ルビーさん:2年間、家族とゆっくり過ごしました。心も体も休まった、本当に穏やかな時間でした。しばらくして、事務所の方から「そろそろ戻ってきたら?」と声をかけてもらい、日本に戻りました。フィリピンと日本を行き来しながら、以前よりうまく働けると思っていたんです。
でも、現実は甘くなかったです。想像以上に世間のイメージが悪すぎて、仕事はまったくない状況。売れているときによくしてくれていた人たちとも連絡が途絶え…驚くほど周りから人が消えました。築いてきたキャリアも実績も、全部なくなったような気がしました。
── 日本での再出発は、失意のどん底だったのですね。
ルビーさん:働かないと生きていけないので、表に出る仕事を細々としていました。でも「前は主演女優賞までもらったのに、なんでこんな仕事を…」という思いが常にチラついて。しばらくは「過去の栄光」ではないですが、いろいろな思いが心に残ったまま、現実とのギャップに苦しんでいました。
「過去の私」を知らない夫との出会い
── そこからどのような転機が?
ルビーさん:流れが変わったのは、今の夫と出会ってから。友達のパーティーに招待されて、歌を歌う機会があったんです。参加していた人たちが「ルビー・モレノだ」「懐かしいな」と寄ってきてくれるなかで、「誰ですか?」と言ってきた人がいました。
彼は海外勤務が長くて、私が映画に出ていた時期もイギリスにいたので、私のことをまったく知らないうえに、芸能人にも興味がない人だったんです。周りの人が私のことを説明しても「そうなんだ」と、ピンときてない感じでした。
── 反応がおもしろいですね。
ルビーさん:そうなんです。仲良くなるにつれ、思い切って過去の話をしても、まるで興味がない。でも、私が悩んでいると、とても親身に話を聞いてくれました。
私は考えすぎてしまうところがあるのですが、彼の前向きさと明るさに救われましたね。考え方やマインドに共感する部分が多かったんです。なにより、おもしろい。彼が滞在する海外の宿泊先に「お仕事頑張ってね」という意味でお花を送ったんです。「ありがとう、綺麗な花だね」と言ってくれるかなと期待していたら、彼から電話がかかってきて。「なんか変な花が送られてきたんだけど!?」って(笑)。「あじさいだよ!」と言い返しました。
── (笑)。
ルビーさん:「女優」とか「過去に世間を騒がせた人」とか、そういうレッテルをいっさい貼らずに自然に接してくれる彼。気をつかわない関係が心地よかった。出会って2年後に結婚して、そこから昔のことをあれこれ考えなくなりました。
夫との生活を大切にしようと思えば思うほど、昔のことが完全に「過去」になっていったんです。そうしたら、「女優だったのに」とか「賞をとったのに」という変なプライドもなくなりました。全盛期のときのように仕事はない。だったら、今の普通の生活を楽しもう!といろんなアルバイトを始めたのもその頃です。
「私、女優なのに何やってるの」おせちを詰めながら流した涙
── アルバイトをされていたんですね。
ルビーさん:たくさんやりましたよ!工場でおせちの具材を容器に詰めたり、ケーキやお惣菜を詰める仕事もしました。顔がバレたくなかったので、マスクと帽子とエプロンで正体が隠せる仕事ばかりを選んでいました。一度、休憩室でマスクをとった顔を見られて「ルビー・モレノに似てるね」と言われたことがあったけど、「似てるって、よく言われるの」とごまかしたりして(笑)。
── かつてのスターが工場で働くことに、抵抗はありませんでしたか?
ルビーさん:アルバイトを始めたばかりの頃は、まだ心のどこかで「みじめな思いをしたくない」という気持ちがあったんだと思います。食材を容器に詰めながら「私、女優なのに何やってるの」と涙が出たこともあります。
でも、必死で作業を続けていたら、そんなことはどうでもよくなって。みんなそうやって毎日働いて、日々幸せに暮らしている。そして「これが私のリアル!」と思えるようになったんです。そうしたら、仕事もどんどん楽しくなっていきました。今では、アルバイトがすっかり楽しくなっています。
…
「かつての私なら、こんな仕事はしなかった」。 そんなプライドが、自分を苦しめていることはありませんか。
主演女優賞の栄光を捨て、マスク姿で工場に立ったルビーさん。彼女が流した涙のあとに見つけたのは、誰の目も気にしない「本当の自分の人生」でした。 積み上げたものを失う恐怖。けれど、それを手放した瞬間に始まる「新しいリアル」も、案外悪くないのかもしれません。その生き方と、あなたの明日はどう重なりますか?
取材・文:大夏えい 写真:ルビー・モレノ

