秘書課職員が撮っていた斎藤知事の「遠足」写真の数々。知事のSNSに掲載されたが、左下の七夕の写真は未公開


 前回記事で、兵庫県の斎藤元彦知事がテンプレ回答を連発し、質疑が成立しない定例会見の現状を書いた。その一方で斎藤がXやインスタグラム、YouTubeの個人アカウントでの発信に力を入れていることは、よく知られる。マスメディアというフィルターを通さず、自分の「伝えたいメッセージ」だけを一方的に発信し、自身の「見られたいイメージ」を作るセルフブランディングである。

<前回から読む>
【問題発覚から2年】記者を挑発する斎藤元彦知事が「立花」という名前を絶対に口にしない理由

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

なぜか遠い目をしながらコーヒーを飲む場面が頻出

 SNSでは公務の行事や視察、議会報告といった県政情報のほか、公務外で訪れた県内市町の風景、県産品を使った自作料理など親しみやすさを演出する投稿が多く、自撮りか同行者の撮影らしい写真がほぼ毎回付いている。

 動画はさらにプライベート寄りで、商店街や観光地での「ぶらり」と称する買い物や食レポ--といっても、特にコメントや有用な情報はなく、ひたすら飲み食いする顔のアップが映るだけだが--それに海辺で独り語りをするパターンが多い。なぜかコーヒーを飲んで遠い目をする場面が頻出するのは、それが「見られたい」姿なのかもしれない。

 県政の取り組みを自己アピールに利用し、県産品や街のPRより斎藤個人が前面に出すぎる内容に「公私混同」批判は根強い。私も会見で質したことがあるが、知事の情報発信それ自体が悪いわけではない。斎藤がYouTube動画を配信したある商店街で話を聞くと、どの店でも斎藤の支持者らしい来店者が一時は目に見えて増えたという。店主の一人はこう語っていた。

「斎藤さんの動画を見て来ました、斎藤さんが買ったのはどれですかって声をかけられる。40〜50代ぐらいの女性が多いかな。テレビやそこらのインフルエンサーより宣伝効果あるわ」

 こうした「推し活」ファンが2024年兵庫県知事選で出現し、日を追って増えていくのを私は目の当たりにしていたので驚きはない。マスメディアよりもSNSやネット動画の方が動員力を持つようになった新しいメディア政治の一端なのだろう。

 ただし、この「個人の情報発信」が公正に行われているか、公務に支障を来たしたり、職員に過度な負担をかけたりしていないかは厳しく問われる。

防災行事への遅刻は「海辺の独り語り動画」の撮影のためか

 たとえば、この商店街撮影の日、斎藤はすぐ近くで出席予定だった県主催の防災行事に数分遅刻している。定例会見で理由を問われると、当初は「交通事情や公務などもある」とごまかしていた。

 だが結局、直前の動画撮影が原因だったと判明。商店街を出た時刻がギリギリだったうえ、その日買った県産のネギを持って、海辺で独り語り動画を撮っていたとみられる。

 ここに649枚の写真データがある。

 2025年4月1日から11月29日までの約8カ月間に斎藤の公務に同行した秘書課職員が撮影したものを県内の男性が情報公開請求で入手した。それ以前の写真も請求したが、県が定めた保存期間が満了し、廃棄したとの回答だったという。

県職員に「遠足」と揶揄されるような写真も

 式典や会議での登壇挨拶、出席者との記念撮影、視察や表敬訪問など、行政広報によくある場面が多いが、県職員に「遠足」と揶揄されてきたような写真も少なくない。

「楠公武者行列」で主役を務め、手を振りながら神戸市内を巡行(2025年5月)


コウノトリの巣(模型)に入り、羽を広げるようなポーズ(2025年6月)


 武者行列で楠木正成に扮して馬にまたがる姿、万博で盆踊りを披露する姿、「県鳥」のコウノトリを模してポーズを取る姿、視察先でマウンテンバイクや重機に乗り、そば打ちや線香作りを体験する姿……。

「出石そば」の職人に教わり、そば打ち体験中も自然とカメラ目線に(2025年9月)


 ところが、この男性によれば、これら大量の写真は県の公式な媒体には1枚も使われていないという。

「広報広聴課が担当する広報媒体や県ホームページの知事活動記録と照合しましたが、入手した写真と同じものはありませんでした。使用先は斎藤知事のXとインスタグラムのアカウントで、計271枚ありました。残る378枚は、おそらくどこにも使われていません」

秘書課と広報広聴課は「広報媒体に使用することはない」

 秘書課と広報広聴課に私が確認したところ、秘書課職員が撮影した写真を広報媒体に使用することはないと認めた。「主として秘書課の保存目的」で撮影し、「県政PRのため副次的に」知事へ無償提供しているという。となると、その取り扱いが問題だと男性は指摘する。

「県職員が公務中に撮影した写真は、原則として県の行政文書・公的資料となります。公文書なので目録や台帳での管理が義務付けられるはずですが、それらは請求しても『不存在』でした。保存目的なら作成していないとおかしいし、保存期間が1年未満と短すぎるのも不自然です。

 また、知事が個人アカウントに使用するためには本来、著作権譲渡か公文書公開の手続きが必要ですが、それもなく、大量の写真が無償提供されている。公私混同であり、職権濫用ではないでしょうか。職員は命じられれば撮影を断れないわけですから」

林間を走る「セラピーバイク」体験。万博関連の県事業「フィールドパビリオン」の一環(2025年10月)


 文書問題の百条委員会が行った県職員アンケートや当時の報道では、「ポスターや広報媒体にやたらと顔写真を入れたがる」「写真やテレビの映りを異常なほど気にする」という声がいくつも上がった。斎藤の自己顕示欲やナルシシズムに職員が振り回される状況は、今も変わっていないようだ。

副知事が去り際に語った苦言と文書問題の反省

「一般職の気持ちを代弁すると、知事がもう少しはっきりとご説明いただければ、(県議会の)常任委員会などで答弁する一般職員に対する批判的な意見を抑えることにつながるのではないか」

 3月末で兵庫県庁を去った服部洋平・前副知事は退任会見でそう述べた。斎藤が定例会見や県議会で告発文書問題などの質問に正面から答えないことを問われての回答である。

 慎重に言葉を選び、発言後には「すみません、差し出がましい発言になった」と付け足したものの、県職員のために言っておかねば、という本心からの諫言だった。

 土木が専門の技術職である服部は、2022年4月に技術担当の副知事に就任。24年3月に発覚した文書問題は所管外だったが、告発者探しや懲戒処分を主導した斎藤最側近の片山安孝・元副知事が同年7月に引責辞任して以降、1年8カ月にわたり一人で副知事職を担い、長引く問題の対応に当たってきた。斎藤の失職・出直し選挙で知事不在となった約50日間は職務代理者を務め、斎藤の再選後も混乱が続く県政を支えた。斎藤に厳しく進言することもあったといい、庁内の信望は厚かった。

 文書問題の県の対応については、こう語っている。

「結果論になるが、第三者委員会の報告書にある通り、一定冷静な対応が望ましかったのではないか。一部の人間だけで事に当たっていた問題も指摘された。私自身も含めて組織全体が公益通報者保護法、特に外部通報に対する理解が低かった。その反省も踏まえて県の要綱を改正した」

 斎藤が決して非を認めず、今も強弁し続ける「県の対応は適正・適切・適法だった」というテンプレ回答を明確に否定している。こうした斎藤の姿勢をめぐって県民が分断されていると記者から指摘されると、SNS上の対立激化や県職員への誹謗中傷を憂慮し、やめるよう呼びかけた。

知事に厳しく進言することもあったという服部副知事の退任会見


 この退任会見を私も最後列で見ていた。知事定例会見と同じく1時間余りの質疑だったが、まともに答える気が見られない斎藤よりもよほど事実と法を踏まえた良識ある言葉が語られ、兵庫県庁という組織の考えが伝わる内容だった。

トランプ同様、「迂回されるジャーナリズム」を実践

 言論や報道の自由が保障された民主主義体制の国でも、SNSの普及と反マスコミ感情やポピュリズムの台頭が相まって、政治家が報道機関による権力監視を回避する動きが広がっている。メディア研究では「迂回されるジャーナリズム(Bypassing Journalism)」と呼ばれているという。

 自身に批判的な報道機関を「フェイクニュース」と罵倒し、記者を会見から締め出し、自分専用のSNSで好き放題に発言するトランプ米大統領が典型だが、そんな攻撃的な形だけではない。インドのモディ首相は就任以来、記者会見をほぼ開かず、SNSや自身のアプリ、あるいは人気俳優による非政治的なインタビューで自らの人物像を演出し、「ワンマンショー」政治を確立したという。

 日本でも高市早苗首相が記者会見になかなか応じないと批判されているが、首長に権力が集中する地方自治体でも「迂回」は起こりやすく、斎藤はその代表例だろう。

表面的な言葉は丁寧だが何も答えず、だから始末が悪い

 ただ、斎藤は今のところ、取材拒否や報道機関との敵対といった激しい形は取っていない。外形的には記者会見に応じながら実質的には何も答えず、質疑を空洞化させる。言葉も表面的には丁寧、つまりは慇懃無礼だ。だから始末が悪い。

 支持者から見れば、「斎藤さんは辛抱強く答えているのに記者がしつこい」「同じことばかり聞くから同じことを答えているだけ」と見えるからだ。実際にそういう声をよく見聞きする。

 県議会からも「答えない知事」への不満が絶えない。山口晋平議長は会見などで繰り返し苦言を呈し、本人にも伝えているという。2月議会では維新県議団の佐藤良憲幹事長が「知事とは接点が少なく、相互理解が進んでいるとは言い難い」と対話・コミュニケーション不足を指摘した。

 それでも斎藤は「迂回」をやめない。そして、支持者だけに向けて独りで語り続ける。言葉は何も残らない。残るのは、彼がおそらく最も見られたい「海辺で穏やかに語る」姿だけだ。

(本文中、初出を除き敬称略)

筆者:松本 創