優等生ヅマが「男性客とのよからぬ噂?」スーツケースも貴重品も持たずに消えたツマの残した意外なモノ
「先の読めない展開にページをめくる手が止まりません! 映画をみているみたい」
「シンプルな細い線で人間の奥底から湧き出る強い感情をここまで表現できるの? 衝撃でした」
「読んだ直後でなんだか心がザワザワする。やっぱり私も子供たちが大きくなったら離婚するかな」
これは、今年1月に発売された『うちのツマ知りませんか』(野原広子著/オーバーラップ)のSNSに投稿された感想だ。
野原広子さんは、2021年『消えたママ友』(KADOKAWA)『妻が口をきいてくれません』(集英社)で、第25回手筭治虫文化賞短編賞を受賞し、『人生最大の失敗』(オーバーラップ)、『今朝もあの子の夢を見た』(集英社)、『赤い隣人〜小さな泣き声が聞こえる』(KADOKAWA)などで、多くの読者をモヤモヤさせながら、強い共感を集めてきた。
「醤油を買ってくる」と出て戻らないツマ
その最新刊『うちのツマ知りませんか』は、文字どおり、消えたツマを夫が探し回る話だ。
夜も更けたある晩、家を出ようとしたツマに気づき、夫の康は声をかける。ツマは「お醤油を買ってくる」という一言を残し、出ていった。
それに不信感を抱くことなく、「おっちょこちょいだなあー」と、あっさり寝床に戻る夫。翌朝になってもツマは戻らない。
「事故にでもあったか。誘拐でもされたか。ふだんからボケてたけど、本当にボケて帰り道がわからなくなった?」パート先を訪ね、警察に相談に行き、結婚したひとり息子に電話をして……。康は探し回っているうちに、自分がツマについて、何も知らなかったことに気づく。
ツマに友だちがいるかどうかもわからず、パートを辞めていたことも知らず、どんなパジャマを着ていたかも思い出せない……。
「自分を置いて家出などするわけがない」
それでも、家族をつねに優先して生きてきたツマが、自分を置いて家出などするわけがないと、ツマが辞めたパート先に、退職した理由を訊きに行く。すると、そこで衝撃の事実を知らされた。ツマは男性客とよからぬ噂があったというのだ。
家に戻った康は、ツマのスーツケースや貴重品が残されていたことに安堵するも、ゴミ箱の中から、破り捨てられた電話番号のメモを発見し、手が止まる。
そのころ、ツマは誰かの車に乗っていた。
『うちのツマ知りませんか』の試し読みができる連載記事。これまでの第1〜4話では、主人公のヨシ子を探す夫・康の戸惑いとともに、圧倒的なリアリティで多くの女性の共感を集める著者の野原さんに、今回の作品を描くきっかけや、リアルな会話はどうやって生み出されているかなどについて、うかがってきた。
第5話となる本編では、野原さんとともに本づくりをされてきたオーバーラップの担当編集者・松田紀子さんに、発売後に届いた感想をお聞きした。
40代女性「うちの母がまさにヨシ子でした」
「みなさん、それぞれに登場人物のだれかに感情移入しながら読んだ、という声をいただきます。たとえば、ここのヨシ子の気持ちの流れにすごく共感した、とか、息子の妻の茜ちゃんの言うことがよくわかるとか、義理の母がヨシ子タイプだわ、とか。
どこかに自分の共感する人物を置きながら、読んでくださっているんですね。
中でも40代の女性から『うちの母がまさにヨシ子でした』と言われることが多かったです。漫画の中のヨシ子が、『自分の母親を見ているようでつらかった』というのです。40代の母親というと、60代後半から70代くらいでしょうか。野原さんが聞いたラジオ相談やとぼとぼ歩いていた80代よりは若いですが(第1話「夜『お醤油買ってくる』と家を出たツマが帰ってこない。パート先に聞いた『夫が知らなかった』ツマの決断」より)、我慢を強いられてきた女性は多いのでしょうね」
厚生労働省発表の令和4年度「離婚に関する統計の概況」によると、2000年半ばごろをピークに、離婚件数は減少傾向にあり、50歳未満のすべての年代で減っている。ところが、50代、60代の離婚件数の全体に占める割合だけが増えているのだ。
松田さんが「娘」から聞いた「まさにヨシ子」という母たちは、漫画のヨシ子のように、自らの将来を変える一歩を踏み出そうとしているのかもしれない。
◇家族想いの、ちょっとボケてはいても、貞淑なはずのツマに「男性客とのよからぬ噂」……。信じられない、信じたくない夫の康だったが、知らなかったはずのツマの真実が次々と出てきた今となっては、疑いもぬぐい切れない。
一方のヨシ子、車の中で優しく「寒くない?」などと声をかける存在はいったい……。
第6話「『ボケてる、飯がまずい』ツマの悪口を聞かされた部下の『私だったら別れます』」発言に夫がした言い訳」で詳しくお伝えする。
