変わらぬ歌声を届け続ける由紀さおり(左)と安田祥子(撮影・足立雅史)

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童謡を歌い継ぎ、世界中に広めてきた由紀さおり(79)安田祥子(84)姉妹。1986年(昭61)に童謡コンサートをスタートさせ、40周年という節目を記念したベストアルバム「日本の四季」を4月15日に発売する。6月11日には東京・渋谷公会堂で40周年記念公演を行う。

童謡の魅力などについて2人に聞いた。【取材・構成=松本久】

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−童謡は多くの人になじみがありますが、大人になって歌う機会はあまりありません。童謡の魅力を教えてください

安田 私たちは小さい時から歌っていますので、歌うことは日常的なこと。童謡は1つ1つの歌にちゃんと景色があって、歌うと景色が浮かびますよね。皆さんも、それぞれの景色が浮かぶと思います。そして童謡には先人が残してくれた美しい日本語のニュアンスとアクセントがしっかりあって、アクセント通りのメロディーになっていることが大事だと気付かせてくれる歌だと思うんです。

日本に住み、日本で生まれた私たちにとっては共通の景色があります。今は春夏秋冬の4つの季節が「二季」になっちゃいましたけど、季節の言葉のニュアンスがきちっと伝わる歌たちです。歌い継いで40年。「うれしいひなまつり」「鯉のぼり」「たなばたさま」など、少なくても祭事の歌だけでも残ってほしいと切なる願いを持って歌い続けています。

由紀 先人たちが日本語をきちっと伝えるために作ってくれた楽曲で、それが歌謡曲だったり、演歌だったりJ−POPだったりの源であるということ。それから“余白の文化”とか“行間を読む”とか、言葉の裏側にある思いが詞にあふれた楽曲なんです。今はもう、みんな「絵」で全部紹介されちゃって、映像を見るだけで、その人が本当に悲しくても、どう悲しいのかまでは、今の若い世代の方たちは想像してくれないというか思いをはせてくれない。例えば童謡の「ふじの山(富士山)」の2番の歌詞は「かすみのすそを 遠くひく」で「長くひく」とは歌わない。もし「長く」だと、そこに距離感が想像されちゃうでしょ。だけど「遠くひく」っていうことは「永遠にひいている」というイメージになる。それを想像しながら私たちは子供の時に歌っていたものなんです。日本語の持っている豊かさがあふれた歌なんです。

「おぼろ月夜」だったら、イントロが出た瞬間に汽車の窓から菜の花畑の黄色いじゅうたんがわーっと見えるとか。(ひばり児童)合唱団時代、お姉ちゃんも私も同じ先生に習ったので、想像するものが割とダブっているんです。その後にお姉ちゃんはクラシックで私は歌謡曲にいきましたけれど、このジャンルのものだけは2人が1つになれるっていうことにある時に気が付きました。

心の琴線に触れるっていう表現があるけれど、今の若い世代のアナウンサーの方なんかは「金銭ですか」って(笑い)。言葉のとらえ方ってもっと深いんです。昔は「嫌よ嫌よも好きのうち」って言ったけど、今は本当に「嫌」なのよね。そういう時代の流れの中で、日本語が持っている言葉の裏側にあるものまでを、私たちや母の世代は想像をして歌ってきた。今は分からないことはグーグルやヤフーで検索したり、さらにはAIが何でも教えてくれたりとか。だから、ひと通りしか読み取ってくれないっていうところにちょっと危惧を感じます。

私たちの世代は、日本語の歌からいろいろな感受性を教えられました。今は情緒感みたいなものも質が変わってきてしまっているので、「こういう歌があった」ということを伝えるのは、ある時から「使命」というと大それていますけど、そう感じています。

◆由紀さおり(ゆき・さおり)本名・安田章子。1946年(昭21)11月13日生まれ、群馬・桐生市出身。小学生の時から「ひばり児童合唱団」で童謡歌手として活躍。69年に由紀さおりとして「夜明けのスキャット」で再デビューし150万枚のヒット。歌手だけでなく女優、司会、バラエティーなどで幅広く活動。CMソングは300曲以上歌唱。12年に紫綬褒章、19年に旭日小綬章。趣味は陶芸、日舞(花柳和可沙織)。

◆安田祥子(やすだ・さちこ)1941年(昭16)9月9日生まれ、川崎市出身。小学生の時から「ひばり児童合唱団」で童謡歌手として活躍。東京芸大大学院修士課程修了。同大講師を18年続け、コンサート活動に専念するために退任。ボイストレーナーとしても活動。13、21年に文部科学大臣表彰。草苑保育専門学校特任講師、NPO法人「音楽で日本の笑顔を」顧問。