(※写真はイメージです/PIXTA)

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老後の安定した収入源となる公的年金ですが、受け取り時期を遅らせる「繰下げ受給」には、常に「元が取れるか」という損得論がつきまといます。 そんな現役世代の論争に対して、当の本人たちはどのように考えているのでしょうか。 ある女性のケースから、長寿社会における年金の役割を考えていきます。

妻の「20年」が招いた想定外の減額

都内の精密機器メーカーを定年退職した佐藤徹さん(65歳・仮名)は、年金の受給手続きを行うため、地元の年金事務所を訪れました。現役時代は管理職として長年勤務しており、「ねんきん定期便」をもとに、将来的には夫婦で月30万円程度の受給になると見込んでいました。

この日は、妻の良子さん(63歳・仮名)も同行しています。必要書類を提出すると、担当者は端末で二人の加入記録を確認し、しばらくして「こちらが現時点での見込額になります」と、資料を提示しました。しかし、示された金額は佐藤さんが想定していた水準をやや下回っています。

思わず「もう少し多いと思っていたのですが……」と口にすると、担当者は「今回の見込額には、配偶者加給年金は含まれていません。奥様の加入状況から、対象外となるためです」と端末の画面を指しながら説明を続けました。

予想外の言葉に、佐藤さんは思わず身を乗り出します。加給年金とは、厚生年金に長期間加入した人に対し、65歳未満の配偶者がいる場合に一定額が上乗せされる制度です。佐藤さんは当然、この加算が受けられるものと考えていました。

「妻は長く扶養の範囲で働いていたはずですが……」

その言葉を受け、担当者は良子さんの加入履歴を丁寧に示しました。結婚前の会社員時代に加え、子育て後のパート勤務でも社会保険の加入対象となっていた時期が積み重なっていたのです。

「合算すると、奥様の厚生年金加入期間は242ヵ月、つまり20年を超えています。このため、加給年金は支給されません」

当然、良子さんにも「ねんきん定期便」は届いていましたが、年金額はチェックしていたものの、加入月数までは確認しておらず、「扶養内だった」という認識にとどまっていました。わずか数ヵ月の差で、年間約40万円の加算が受けられません。妻が65歳になるまでの数年間で見れば、その差は決して小さくないでしょう。

「妻は長くパートでしたが、厚生年金には入っていないと思い込んでいました。制度を理解していなかった自分の責任ですね」

そう語りながら、佐藤さんは改めて提示された見込額に目を落としました。当初描いていた老後の資金計画は、見直しを迫られています。

知っておきたい「加給年金」の落とし穴と共働き世帯の注意点

佐藤さんの事例で発生した「加給年金の不支給」は、昨今の社会保険適用拡大に伴い、多くの共働き世帯やパート勤務世帯が直面するかもしれない問題です。

加給年金とは、厚生年金の被保険者期間が20年(240ヵ月)以上ある人が65歳に達した際、生計を維持している65歳未満の配偶者がいる場合に加算される制度です。令和6年度の支給額は、配偶者の特別加算を含めると年額39万7,500円にのぼります。

しかし、日本年金機構の規定により、配偶者自身が厚生年金に20年以上加入し、老齢厚生年金を受ける権利がある場合、この加給年金は全額支給停止となります。良子さんの加入期間が「242ヵ月」であったことが、年間約40万円の受給を阻む分岐点となりました。

総務省「労働力調査」によると、共働き世帯は1,278万世帯に達し、専業主婦世帯517万世帯のおよそ2.5倍となっています。また、短時間労働者への社会保険適用拡大が進み、2024年10月からは従業員数51人以上の企業まで対象が広がりました。

今回の問題を未然に防ぐには、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」の見るべきポイント、(1)これまでの加入期間・保険料累計、(2)将来の年金見込額、(3)直近の納付状況の記録、の3点をおさえることが重要です。特に過去の未払いがないか、記録に間違いがないかを確認しましょう。少々の誤差でも想像以上の影響を与える老後。しっかりとしたシミュレーションのもと、資金計画を立てていくことが大切です。