「インターナショナルスクールに行かせる親」の盲点…早期の英語教育が脳と心に及ぼす"想定外のダメージ"
※本稿は、成田奈緒子、上岡勇二『その「習慣」が子どもの才能をダメにする』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■小さいうちから英語に触れさせるのはNG
×小さいうちから英語に触れさせてバイリンガルを目指す
○まずは母語で感情を表現できるようにする
【エピソード】
アンは生まれたときから、英語の歌や映像が流れる家で育っています。アンの母親が読んでくれるのは英語の絵本。母親はかつてアメリカに留学していたこともあり英語が得意です。海外で働くことに憧れを持っており、アンのことをバイリンガルに育てたいのです。
アンは自然と英語の歌を歌い、きれいな発音で英単語を言えるようになりました。しかし、幼稚園で気持ちを聞かれるとウッと詰まってしまいます。混乱してものにあたったり、泣きわめいたりすることもしょっちゅうです。
昨今、「グローバル社会で活躍できるように」と子どもに早くから英語を学ばせようとする親御さんは増えています。「脳がやわらかいうちに英語脳を作りましょう」「小学校で英語学習が必修化したので、自信をつけさせるためにも幼児のうちから英語に触れさせましょう」といった宣伝文句を信じて、まだ日本語もおぼつかない幼児のうちから英語教育をする人もいます。
■英才教育が子どもの脳にダメージを与えるワケ
確かに、幼児期の脳は柔軟で新しい言語に抵抗がありません。英語に触れるほど、ぐんぐん吸収していきます。言葉を聞き取ってマネをして喋るのも、すぐに上手になっていくでしょう。3歳くらいの子がトンボを指さし、ネイティブの発音で「Dragonfly!」などと言っていたら「すごい」「かわいい」と思うかもしれません。
しかし、脳育ての観点から言えば、バイリンガル教育は非常に難しいと言えます。一歩間違えれば、子どもの脳に悪影響を及ぼすこともあるので注意が必要です。
脳の前頭葉に、「ブローカ野(や)」という言語処理をつかさどる部分があります。幼い頃から第2言語に触れてうまくバイリンガルに育った人の脳は、二つの言語をつかさどるブローカ野の領域がより近接していることがわかっています。
近接しているということは、二つの言語を極めて自然に行き来して使えるということです。側頭葉にある言語理解をつかさどる「ウェルニッケ野」に関しても同じ現象が見られることが報告されています(Nature 388, 171p, 1997)。
■母国語によって母親の感情や愛情が伝わる
しかし、これがうまくできずに両言語を扱う領域が離れると、スムーズに行き来できず、親が期待する「英語と日本語が『どちらも得意』」とはなりにくくなる可能性があるのです。下手をするとどちらも不得意、という中途半端な状態になり、どちらの言語であっても学習がうまく習得できにくくなります。
日本語がスムーズでありつつ、ネイティブ並みに英語を扱えるように育つこともありますが、うまくいかない例も多いです。安易におすすめはできません。
とくに幼少期は、母親の母語で育てることを私たちはおすすめしています。母の感情表現や細やかな愛情表現などを子どもに伝えるのには、母が慣れ親しんだ言語が一番適切です。これにより、2歳頃までに愛着形成ができると言われています。それができなかった場合、生涯にわたって社会性や心の健康にトラブルを抱えるおそれもあります。

日本語なら「あ〜、それ触っちゃダメ!」「ダメダメ、危ないから手を放して!」などのように表現豊かに言えるところを、英語ではただ「Don’t touch」になってしまう。
■インターナショナルスクールも避けるべき理由
「ちょっとここに座っててね」「座ってごらん」が「Sit down」になってしまう。英語がそれほど流暢でない人が英語で育てようとすると、どうしても表現の幅が狭くなり、繊細な感情が伝わりにくい言葉になってしまいます。

近頃は、夫婦ともに日本人だけれど、子どもをインターナショナルスクールに通わせるため、家庭では英語のみで子育てをしているという方が結構多くおられるようです。インターナショナルスクールは日本に海外赴任している外国籍の子が通う学校ですが、近年、両親とも日本人でも受け入れてくれるところが多くあります。
ただし、授業は当然英語で行われますし、一部の学校は「日常的に日本語を使用している人はNG」だったりします。このような家庭ではあえて日本語禁止で頑張って育てます。子どもは、英語を流暢に話せるようにはなる一方で、逆に親子間での言語による感情のやりとりはとても難しくなる場合があります。
■子どもの才能と自己肯定感を奪うかもしれない
また、ネイティブの同級生たちとの文化ベースの違いもあり、真の意味での相互理解が中途半端になることもあります。
そのあげく、最悪のケースでは、子どもが自分の失敗を親のせいにしてなじる、親に期待をしなくなり大学進学を機に音信不通になる、ひどく落ち込んで自分を責め続けるなどの状態が出現します。

日本で子育てをしている外国人の方も、同じ問題に行き当たります。日本語が母語でないため、子どもに伝えるときに「チャントシテ!」「ダメデショー」といった言葉の繰り返しになってしまい、親子間の感情の伝達に齟齬ができるのです。
仕事との兼ね合いがあり、海外で子育てをする方など、事情はさまざまだと思いますが、幼少期、せめて家庭内では母親の母語で子育てをすることをおすすめします。
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成田 奈緒子(なりた・なおこ)
文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表
小児科医・医学博士・公認心理士。1987年神戸大学卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(共著、合同出版)、『子どもの隠れた力を引き出す最高の受験戦略 中学受験から医学部まで突破した科学的な脳育法』(朝日新書)など多数。
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上岡 勇二(かみおか・ゆうじ)
公認心理師・臨床心理士・子育て科学アクシススタッフ
公認心理師・臨床心理士・子育て科学アクシススタッフ。1999年、茨城大学大学院教育学研究科を修了した後、適応指導教室・児童相談所・病弱特別支援学校院内学級に勤務し、子ども達の社会性をはぐくむ実践的な支援に力を注ぐ。また、茨城県発達障害者支援センターにおいて成人の発達障害当事者や保護者を含めた家族支援に携わる。2014年より現職。
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(文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子、公認心理師・臨床心理士・子育て科学アクシススタッフ 上岡 勇二)
