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天の川って、見たことありますか?

田舎で見た方もいるかもしれませんし、知識として知っているだけの方も。もし、見たことがなくても、それは天気のせいでも、運のせいでもありません。テクノロジーが、夜空を塗り替えてしまったのです。

「いつもの夜」はもう異常事態

image: Wikipedia

夜空の暗さを定量化する「ボートルスケール」というものがあります。

ニューヨーク州のアマチュア天文家、ジョン・E・ボートルさんが考案したもので、9段階の指標からできています。

1が人工光ゼロの完全な暗黒、9が都市中心部の「明るすぎる夜」を表します。世界の大多数の人は、生涯の大半をレベル5以上の環境で過ごしているそう。東京のような大都市圏ならレベル8〜9です。

つまり、私たちが「いつもの夜」だと思っている状態が、実は異常だともいえるわけです。これを公害の一種と捉えて「光害(ひかりがい)」とも呼ばれています。

その影響は統計にも現れています。2016年に学術誌『Science Advances』で発表された論文では、人類の3分の1以上が自宅から天の川を見られない状態なのだそう。アメリカ人の約80%、ヨーロッパ人の約60%も同様です。日本のような高密度都市国家では、さらに深刻でしょう。

最近の研究では、2011年から2022年にかけて世界の光害は年間10%増加し、約8年ごとに倍増すると推定されています。

では、なんでそんなことになっているのか?大きく2つのテクノロジーが関係していると書いています。

夜空を変えたテックその1:LED照明

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夜空を侵食するテクノロジーのひとつめは、私たちが日常的に使う人工光そのものです。

特にここ10年、従来の電球からLED(発光ダイオード)への置き換えが加速したことで、状況は一気に悪化しました。 LEDは省エネで長寿命。環境負荷を下げるという点では疑いようのない技術革新でしょう。しかし問題は「効率的だから、もっとたくさん使う」という人間の習性です。

消費電力が下がった分、街灯は増え、ビルの外装照明は明るくなり、広告看板はより鮮やかになりました。

ドイツ地球科学研究センターのクリストファー・キーバ氏らの研究では、LEDへの移行は光害を減らすどころか、照明が安くなれば、人は節約ではなく増設を選ぶという「リバウンド効果」をもたらしたと指摘しています。

もうひとつ厄介なのが、LEDが放つ光の「色」です。多くのLED照明は従来のオレンジ色の光(暖色系の光)ではなく、青白い「短波長の光」を多く含みます。この青色光は大気中の粒子を振動させ、他の色よりも多く四方に散乱させます(専門用語では「レイリー散乱」といわれます)。

これが夜空全体をうっすら白く霞ませ、より広い範囲の星を見えなくしてしまうんです。

夜空を変えたテックその2:低軌道衛星

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もうひとつのテクノロジーは、さらに新しく、対処がより難しいものです。

「IEEE Spectrum」のコラムで暗空研究家のポール・ボガード氏は、チリの高原で息を呑む星空を眺めていたとき、一本の光の列が地平線から天頂に向かってゆっくりと動いているのに気づきました。それは、衛星の列でした。

現在、地球の低軌道を周回する人工衛星の数は約1万2,000機に達しています。スペースXのStarlinkをはじめとする衛星インターネット事業者が競うように打ち上げを続けており、今後5年間で最大7万基の低地球軌道衛星が打ち上げられる予測もあります。

問題は、これらの衛星が太陽光を反射して輝くことです。多くの人が空を見上げる「ちょうど良い時間帯」に、夜空は静止した星と衛星が照らす光が混在してしまうのです。天文学者や環境活動家はかねてからこの問題について警鐘を鳴らしています。

夜空が共通言語ではなくなった

古代から人類は夜空を共有してきました。ギリシャ神話の星座も、日本の七夕も、ポリネシアの航海術も、みんな同じ星空から生まれた文化です。ただ、もう夜空が見えるレベルが違う以上、それはある種の「共通言語の喪失」と同じかもしれません。

もっとも、悲観的な話ばかりでもありません。LEDは光が漏れない指向性の高いシールドを付けたり、青色光の少ない暖色系のものを選んだりして、多少なりとも光害に対処することも可能なのです。

IEEE Spectrumによれば、チリでは世界有数の天文観測の場であるアタカマ砂漠などの星空を守るため、人工照明を制限するような制限が国内法としてあり、一定の成果を挙げていると書いています。

星と月と夜空は、古来よりたくさんの物語のインスピレーションになり、静謐なまたたきは心を静めてきました。ただ、これからの数十年で、人間がそれらの感覚を得られ続けるのかは、わかりません。

何かを得ている一方で、何かを失ってもいる。テクノロジーと夜空は、まさに今、そういう関係にあるのでしょう。

Source: IEEE Spectrum , Sky&Telescope(1), Sky&Telescope(2)

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