『ホーンテッドマンション』©2025 Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.

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 ディズニーランドの人気アトラクション「ホーンテッドマンション」は、乗客が“ドゥームバギー(死の車)”と呼ばれる黒いライドに乗り込み、幽霊屋敷を巡る体験型ホラーだ。ゲートをくぐると、肖像画が伸び上がる「ストレッチングルーム」で不気味な歓迎を受け、揺れるシャンデリアやダンスホールを抜けて、999人の幽霊たちと遭遇する。

参考:『ホーンテッドマンション』に感じる異様な奥行き 娯楽作にとどまらない内容になった理由

 実際に体験したことのある人ならわかるだろう。あの館は恐怖を煽るためではなく、観客を幻想の内部へと誘い込むために設計されている。むしろ感じるのは、現実の重力から解き放たれるような陶酔感。「ホーンテッドマンション」は、恐怖を“見る”ものではなく、“体験する”ことそのものを目的としている。その没入の仕掛けこそが、1969年のオープン以来、半世紀以上にわたって来場者を魅了してきた理由なのだ。

 このライド感を、映画というメディアに移植するのは非常に難しい。観客が座席に固定された状態では、アトラクションの没入感を再現するのはほぼミッション・インポッシブルだからだ。しかし、ジャスティン・シミエン監督は無謀にもこのライド感にチャレンジ。2003年の映画版から20年、彼の手によってリメイクされた新しい『ホーンテッドマンション』(2023年)は、登場人物の造形からストーリー構成に至るまで、アトラクション的世界観が映画的文法へと再設計されている。

 舞台はルイジアナ州ニューオーリンズ。シングルマザーのギャビー(ロザリオ・ドーソン)は、かつて医師としてニューヨークで働いていたが、夫を事故で失い、息子トラヴィス(チェイス・W・ディロン)とともに新たな人生を求めて地元を離れ、荘厳な邸宅に引っ越してくる。だがその屋敷には長年にわたって幽霊たちが棲みついており、静かに異変が進行していた。

 その危機に対してギャビーは、ツアーガイドで元研究者のベン(ラキース・スタンフィールド)、霊媒師のハリエット(ティファニー・ハディッシュ)、神父のケント(オーウェン・ウィルソン)、歴史学者のブルース・デイヴィス教授(ダニー・デヴィート)という、奇妙な専門家チームを招集。 共同で幽霊の謎を解き明かそうと屋敷に挑む……。

 ジャスティン・シミエン監督と撮影監督ジェフリー・ウォルドロンがまず重視したのは、アトラクションの空間を実物で再現することだった。ウォルドロンはインタビューで「私たちは屋敷の実寸の3分の1を実際に建設しました。土台、柱、階段などをすべて備え、門までの実際の距離や道路なども完全に再現しました。そのため、ジャスティン・シミエンは物理的な空間とスケールを自在に扱うことができたのです」(※1)と語っている。

 CGではなく現実に屋敷を作ることで、観客が屋敷内を実際に歩いているかのようなリアリティを作り出した。

■映像設計としての“ライド体験” 次にウォルドロンが重視したのは、レンズによって“現実と幻想の境界”を描き分けることだった。

「我々は現実世界をTシリーズ・レンズで、そして幽霊の世界を改良版Gシリーズで撮影しました。Tシリーズはより古典的で整った印象に、Gシリーズは収差やフォーカスの甘さ、アナモルフィックなゆがみを活かして、異界の視覚感を生み出しています」(※2)

 TだのGだの言われてもいま一つピンとこないが、Tシリーズは解像度が高くシャープな映像を、Gシリーズは焦点をわずかに甘くすることで、空気の厚みを感じさせる映像を作り出すことができる。その質感の差が、明るい廊下、薄暗い墓場、光る鏡など、アトラクションの部屋ごとに変わる体験を生み出した。映画はシーンの切り替えごとに「空間の温度」を変化させ、観客の視覚をまるでライドのように揺らす。

 さらにウォルドロンは、光と色で館の呼吸を表現することにも心を砕いた。

「暖色と寒色のコントラストを多用し、実際のランプや蝋燭、焚き火、月光の筋といった実在する光源を組み合わせることで、柔らかく、塵を含んだ絵画的な質感を出したんです」(※3)

 暖かい橙色と冷たい青色が交差する映像は、まるでアトラクションの“動く壁紙”のように呼吸している。そしてシミエン監督が意識したのは、アトラクションを思わせるカメラの動きだ。

「私たちは、ディズニーランドのアトラクションで最初に屋敷を目にする角度にまで、徹底的にこだわりました。門の向こうに屋敷の柱が見えるあの一瞬、アングルを外すわけにはいきません。それくらい細部にまで神経を注ぎました。そして、ダイニングホールを滑るように進んで、ワルツを踊る幽霊たちが見えてくるあの瞬間、そのアングルも完璧でなければなりませんでした。なぜなら、ライドの中で観客が思わず息を呑むのが、まさにその光景だからです」(※4)

 カメラは観客を導く案内役のように屋敷の中を進んでいく。つまり、恐怖を正面から“見せる”のではなく、観客を“導き入れる”。この誘導の設計こそが、『ホーンテッドマンション』が“乗る恐怖”を“見る物語”へと置き換えるための、最も映画的な仕掛けなのである。

 それは、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023年)や『グランツーリスモ』(2023年)といった、近年の“体験型IPの映画化”とも呼応するアプローチ。いずれも、ゲームやアトラクションという能動的体験を、映像という受動的体験に変換しようと試みている。

 幽霊屋敷を“生きているセット”として撮り、ディズニーランドで記憶に刻まれた「揺れ」「風」「暗闇」を、映像と音響で再構築する――この設計思想が、映画『ホーンテッドマンション』を支えている。10月24日の金曜ロードショー放送時には、そのあたりも頭の片隅に入れて鑑賞すると楽しさが倍増するはずだ。しなかったらごめんなさい。

参照※1、※2. https://rue-morgue.com/interview-disneys-haunted-mansion-cinematographer-jeffrey-waldron-gets-ghostly/※3. https://www.cinematography.world/cinematographer-jeffrey-waldron-discusses-the-distinct-styles-he-helped-craft-for-haunted-mansion-and-you-hurt-my-feelings/(文=竹島ルイ)