子供が「習っているスポーツをやめたい」と言ったら…「生活指導の神様」が教える2つの判断基準
■マイナス言葉が飛び交うチームにいたら……
子供がスポーツを「辞めたい」と言い出す理由は、さまざまです。
・周りの子に比べて、なかなか上達しない
・指導者が威圧的で、恐怖心がある
・友人関係がうまくいっていない……
子供から「辞めたい」と言われると、親はあれこれ悩みますが、まず知ってほしいのは、前回もお伝えしたように、私たちは過去の記憶に対して感情が貼りついているということ。過去に頑張って褒められた、いい成績をとってうれしかったというプラスの記憶に対してはプラスの感情が一致している一方、虐待を受けてつらかった、失敗して怒られたといったマイナスの記憶に対しては、マイナスの感情がくっついている。そのバランスによって、人はプラス思考になったり、マイナス思考になったりしますので、マイナス思考の人がよい未来を描こうとしても、なかなか描けません。だからこそまだ経験の少ない幼少期の子供には、たくさんのプラスの記憶と感情を貼りつけてあげる、それが周りの大人の仕事であるということです。
そのことを指導者が理解して、子供にプラスの体験をさせればよいのですが、現実には、そうなっていないところも多い。「何やってんだ」「あいつのほうがうまい」「お前はダメだ」と、マイナス言葉が飛び交う現場も少なくありません。そうすると子供は、委縮してしまい、本来の力も出せないし、なかなか上達もしない。当然、チームとしても勝てません。
そんなチームはすぐにでも離れたほうがいいのか、それともある程度、時間をかけて、子供は自分と向き合ったほうがいいのか……、親としては悩ましいところです。

■本質的な楽しさを感じているか
その解決方法は、時と場合によります。
「楽しい」という言葉があります。そのスポーツをしていて、何を楽しいと思うか。それは、スポーツごとに違います。例えば、私の専門の陸上競技では、「競争」と「達成」が楽しさです。誰かと競うことと、自分で決めた目標タイムや記録を達成すること。こういう楽しさを「本質的な楽しさ」といいます。お笑い番組を見て楽しかった、カラオケ行ったら楽しかった、とはちょっと違う。
つまり、負けてばかりのチームにいて、そのスポーツの本質的な楽しさを感じられない場合は、続ければ続けるだけ、本質から遠のいてしまうかもしれません。
■本質的な楽しさを知っていれば苦境も乗り越えられる
例えば、サッカーの本質的な楽しさは、おそらく「シュートを決める/シュートを止めること」でしょう。そのために「個人プレー」「連携」「作戦」がある。個人の素晴らしい技量を発揮し、それがパス回しなどのチームプレーにつながり、守備陣形などの作戦がバッチリはまって、初めて1点が取れるし、守れる。90分戦って0-0もありうる競技ですので、最後のシュートを決めるところまで持っていくことに、サッカーの楽しさの本質の全てがあるのではないでしょうか。
そんなふうに野球にも、バスケットボールにも、剣道にも、ダンスにも、本質的な楽しさがあります。本質的な楽しさを知っていれば、たとえ苦しい場面にあったとしても、子供でも乗り越えることができます。
親御さんは、わが子がこの場で活動していて、そのスポーツの本質的な楽しさを感じることができているかな、そういう視点でチームを観察してみてはどうでしょうか。
もちろん、子供でもスポーツの本質的な楽しさを感じとれますが、それよりも「友達とのつながり」や「居場所がある安心感」に重きを置いている場合もあります。いずれも、子供と実際にちゃんと話をし、子供の思いを聞いてから、チームを変わるかどうかなどの決断をされることが望ましいですね。

■2つの要因から考える辞め時
とはいえ、つい結果を求めてしまうのが親というもの。子供が「辞めたい」と言っても、「次にレギュラーがとれるまで頑張ってみよう」「○級がとれたら辞めてもいい」と、親のほうが辞めさせることに躊躇してしまうのです。
本当に辞めさせるべきかどうかは、次の2つの要因から検討できます。
一つは外的要因。「指導者やチームメイトに問題があり、チーム状態が変わらない」場合です。地域のスポーツチームでは、指導者の影響力は思っている以上に大きく、保護者会や子供たち自身が、いくら工夫して努力しても、指導者の姿勢や考え方が変わらない限りは、根本的な問題が解決されません。実際、指導者がマイナス面ばかりを指摘したり、いまだに大声で怒鳴ったりしている地域のスポーツチームは子供が集まらなくなってきています。
チームメイトがネガティブな声掛けをしているようなチームも問題です。子供の自信をそぐような環境だと判断した場合、親は子供の思いも聞いて、すっぱり辞めて他のチームを探すほうが賢明です。
もう一つは内的要因です。そもそも“努力”が、なぜ素晴らしいかというと、「努力が実る」からではなく、「努力したら成長する」からです。つまり人生は努力の先に、いつも目標達成=ハッピーエンドがあるわけではない。しかし、努力の過程で必ず人は成長しますので、努力の目的は“成長”であるわけです。
周りと自分を比べて落ち込む、なかなか上達しない。もしかしたらレギュラーとして試合には出られないかもしれない。でも、成長している。去年はできなかったことができている。体力もついている。大きな声も出せるようになった。素晴らしいじゃないか、ということです。
そういう考え方や気持ちを、子供自身が持てているかどうか。これが内的要因です。
■面白くないならチームを変えてもいい
だからこそ、前回の記事で述べた、ゴール設定のための4観点がとても重要です。4観点とは、横軸を私と社会・他者、縦軸を有形と無形として、それぞれ目標を書き込むマトリックスです(図表1)。

目標が「契約金1000億円」「メジャーリーグ入団」など右上だけなら、単なる目標達成のための努力になってしまう。でも自身の成長や他者との関わりなど、右上以外左上と左下の目標や目的(なんのためにするのか、という理由)があれば、見えにくい成長や成果を実感できます。シュートは決まらなかったけれど、パス回しがうまくいった。試合には出られなかったけれど、今回は応援で一番声を出せた。10分だけ試合に出て、少し自信がついた。子供にとっては特に、達成と成長が大切なんです。
そういったことを子供自身がよく理解して満足できるなら、チームに残って頑張ればいいと思います。しかし、それでは面白くない、成長して勝ちたい、レギュラーにならないと面白くない、という場合には、スクールを変えたり、取り組む内容そのものを変えてみたりしてもいいのではないでしょうか。
親御さんが、これだけ頑張っているのだから、何としても結果を出させてあげたい、結果が出ないなら環境を変えたほうがよいのではないか、と思うのはわかります。しかし、まずは親自身が、目的や目標、努力や成長について、よく理解しておくことが大切だと思います。

■子供の自信を育む働きかけを
これまでの日本は、工業化社会で専門家から教わるスキルやノウハウをもとに成果を上げる世界でした。しかし今の情報化社会は、それでは通用しない。情報はもう誰でも手に入れられます。必要なのは、感情コントロールの方法や、やり抜く力、協調性といった非認知能力を自分で育てることです。
そして、これらのベースに必要なのは、自己効力感や自己肯定感といった自信であることは、前回お伝えした通りです。自信が十分にあれば、非認知能力は底上げされます。

逆に自信を無くしてしまうとなかなか本番で力が出し切れませんし、そのことがスポーツ以外の場面(例えば勉強や人間関係といったこと)にもマイナスの影響を及ぼしかねません。つまり「元気がなくなる」わけです。
またもう一つ大切なこと、それは、セルフイメージ(私はここまではできる、という自分に対して持っているイメージ)を茶化したり、馬鹿にしたりして妨げようとする人の話は聞かないことです。聞こえてしまうならば、そういった人からは物理的に離れた方が賢明です。
あの大谷翔平選手だって、日本プロ野球界の名だたるOBたちから「二刀流なんて無理や」「うまくいくわけがない」「いずれ怪我する」と山のように言われても、それらの声を聞かずに自分と向き合って目標設定をし、一つひとつ乗り越え、活躍し続けています。自信をセルフで供給するためには、実はそういった「快適に活動できる環境」を意図的に作ることも、とても大切なのです。
親御さんは、お子さんがどんなスポーツを選んだとしても、そしてそのスポーツで勝っても負けても、うまくいってもいかなくても、常に子供の自信を育む働きかけを心がけてほしいですね。
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原田 隆史(はらだ・たかし)
原田教育研究所社長
1960年、大阪府生まれ。奈良教育大学卒業後、大阪市内の公立中学校に20年間勤務。生活指導や陸上競技の指導経験から独自の目標達成メソッド「原田メソッド」を構築。世界中の企業やスポーツチームに導入されている。
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(原田教育研究所社長 原田 隆史)
