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将棋の世界でプロを破り自動車の世界へ

チューリング(Turing)という名前をご存じだろうか?

【画像】知られざるチューリング(Turing)研究開発/車両生産の拠点「Turing Kashiwa Nova Factory」【公開】 全70枚

完全自動運転のEVの製造販売を目指す日本のスタートアップ企業である。


チューリング(Turing)山本一成CEO。AIのスペシャリストだという。開発した将棋AIでプロ棋士を破ったことで有名になった。

同社は6月13日、千葉県柏市にある自社工場を報道陣に公開した。

集まったマスコミはIT系と自動車系が半々といったところ。「We Overtake Tesla」を掲げるこのスタートアップ企業はIT系のメディアではすでにおなじみのようだ。

2021年8月に創業したチューリング。同社を率いる山本一成CEOはAIのスペシャリストであり、自ら開発した将棋AI「Ponanza(ポナンザ)」でプロ棋士を破ったことで有名になった人物だ。

将棋プログラムの開発を引退した山本氏が、自動運転の研究者である青木俊介氏(同社CTO、最高技術責任者)と出会ったことで、自動車の世界へと進むきっかけになったのだという。

山本氏のAIの技術と青木氏の自動運転のノウハウがチューリングの屋台骨というわけだ。

EVや自動運転の開発技術は日進月歩であり、アメリカや中国では多くのスタートアップが鎬を削っている。ところが日本ではそういった動きは見られない。

「海外でできているのだから、日本で我々にだってできるはず」と山本CEOは力説する。

この日公開された同社の研究開発、車両生産の拠点となる「Turing Kashiwa Nova Factory」内には、スタートアップらしく完全自動運転EVの量産に向けた今後の具体的な計画が張り出されていた。

あと7年で1万台 壮大なロードマップ

車内に貼り出されたロードマップによると、2023年自社EVで走行、2024年は自社EV100台を販売とある。

さらに2025には完全自動運転車のプロトタイプを登場、2026年工場用地取得、2028年量産開始、2029年レベル5自動運転達成、2030年に1万台の生産と矢継ぎ早に階段を駆け上がろうとしている。


青木CTO。「やるだけやって、ダメだったらそれまで。スタートアップとはそういうものです」という。

これはまさに彼らがお手本としているテスラが辿ったサクセスストーリーでもある。

このスピード感が既存の自動車メーカーのプロジェクトなら腑に落ちる。だがもうすぐ創業から2年になる、社員39人の会社のものと考えるとその壮大さに驚かされる。

山本CEOも青木CTOも異口同音に「やるだけやって、ダメだったらそれまで。スタートアップとはそういうものです」という。

そんな同社がハンドルのないクルマ=完全自動運転EVの量産化にこぎつけるための核として据えているのがLLM(Large Language Model、大規模言語モデル)だ。

LLMはいわゆるAIであり、様々な知識を覚え込ませることで文章を書いたりできるようになるというもの。自動運転技術ではカメラで捉えた交通指導員の動きのような複雑な情報や乗員の音声を理解し、クルマを人間のように走らせるための脳になるという。

今回披露された工場内にはホンダNボックスが置かれていた。360°カメラを備えたこのデータ収集車はLLMのためのデータ収集をするためのもの。しかもこのデータを完成させるためには道路を125万km走る必要があるという。

こういった根本のデータから、彼らは自社製に重きを置いているのである。

テスラを越えるための地道な一歩

今回披露された工場の2階では今年走行すると宣言している自社製EVの鋼管フレームが組み上げられていた。日産リーフのパーツを流用するかたちで作り上げるこのクルマは、8月に走行することが決まっている。

また今回のお披露目会ではLLMのデモ車(トヨタ・アルファード)を敷地内にて、そして同車が開発したレベル2の自動運転システムを組み込んだレクサスRXの走りを実際の路上で体感することができた。


LLMのデモ車(トヨタ・アルファード)。ドライバーの音声指示により走行する。前に立っている人のジェスチャーを理解することも可能。

LLMのデモ車はリアトランク内にOpenAIのGPT-3.5turboを組み込んだパソコン等を搭載したもので、ドライバーの音声指示により走行する。カラーコーンの色を理解し、その方向に向かうこともできるし、前に立っている人のジェスチャーを理解しつつ、それを「無視して」という音声指示に従ったりもする。

もう1台の方は、このシステムを組み込んだレクサスRXを同社はすでに1台販売した実績があるという。

これは現在では珍しくないレベル2の自動運転(アダプティブ・クルーズコントロールとレーンキープ機能)だが、チューリングが独自に構築したシステムが搭載されており、完成度は高いと感じられた。

テスラを越える(?)という目標は現時点では打ち上げ花火のようなものかもしれない。

だが海外にあるEVスタートアップにできて日本でそれができない理由はないだろう。今後、毎年のように進歩していくはずの彼らの動きを見守りたい。