「後半になると、日本はボランチの2人がカバーの態勢を作ることができるようになって、攻守で安定した。私は『攻撃の自由は守備の安定が基礎にある』という考えの持ち主である。まずは守りを安定させることによって、有力なアタッカーも生きる」

 スペイン人指導者、ミケル・エチャリは、最後の最後で1−0の勝利を収めた日本代表のコートジボワール戦について、そう指摘している。

 エチャリは、まだ10代だったフアン・マヌエル・リージョ(元ヴィッセル神戸監督)に薫陶を与え続けた"師匠"である。そのスカウティング力は図抜けており、かつてジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ監督)がバルセロナのスポーツディレクターになる話が持ち上がった際には、戦略スカウトとして指名されていた。監督としてのオファーはスペイン中から引く手あまただったが、バスクを愛し、バスクで指導者生活を送った。

 そのエチャリは、劇的勝利で幕を閉じたコートジボワール戦をどのように見たのだろうか?


ミケル・エチャリが高く評価したコートジボワール戦の鎌田大地(左)

「日本は前半、4−2−3−1というよりは、4−1−4−1に近い布陣になっている。ダブルボランチの一角、柴崎岳は前にポジションをとることが多く、遠藤航がアンカーのようになって相手の攻撃に晒されている場面があった。組織として、プレスがうまくはまっていなかった。

 必然的に、コートジボワールが主導権を握っている。3−4−2−1でダブルボランチが高い強度を誇り、攻守にオートマティックな連係を見せていた。両ワイドの選手が攻守に上下動し、優位を保つ。その安定から、左サイドではスピードを武器にしたジェルビーニョが侵入し、攻撃に深みを与えていた。戦術的によくデザインされたチームと言えるだろう。

 受け身に回った日本だが、センターバックの吉田麻也が硬骨ぶりを見せた。空中戦では一歩も引けを取っていない。セットプレーでは守備でも攻撃でも、大きな武器になっている。前半、劣勢な中での貢献度は高かった。

 一方、攻撃は単発に終わっている。伊東純也、室屋成の右サイドのほうが目立ったが、前に侵入しても、クロスが合っていない。技術的なミスもあったが、コートジボワールがチームとして、それぞれのゾーンをカバーできていた点が大きいだろう。

 日本は攻守で後手に回って、相手のやり方に対応せざるを得なかった。それは守備で顕著に出た。プレスがかからない中で孤立した遠藤は、迫りくる敵の封鎖、カバーに追われ、背後にスペースを与えてしまい、その連鎖がチームとしての不具合になっていた」

◆「ミケル・エチャリのカメルーン戦分析」>>

 エチャリは柔らかい表現ながら、その戦いを批評している。日本はチームとしての仕組みに綻びがあった。ただ後半、森保ジャパンの戦い方は変化したという。

「後半の日本は、私の好みに近かった。柴崎が前半よりもポジションを少し後ろにとって、完全に4−2−3−1にしたことで、ボランチ同士でカバーができるようになり、落ち着きが出た。ロングボールを蹴り込む機会が顕著に減って、バックラインから足元にパスが入るようになった。これでようやく、サイドの久保建英、伊東の役割が明確になって、トップ下の鎌田大地も躍動した。

 後半のベストプレーヤーは鎌田だろう。GKと1対1になったシュートは決まらなかったものの、鈴木武蔵、南野拓実と中盤のラインをつなぎ、コンビネーションの核となった。卓越した技術で、攻撃を活性化させていた。

 南野、原口元気という2人の交代起用も当たった。

 南野は左サイド、トップとゴールに近い位置で、そのキャラクターを出していた。鎌田との連係もよかった。スカウティングのメモを見直しても、2人のコンビネーションに対し、記述が多い。

 そして、原口にはあらためて高い評価を与えたい。左サイドでプレーしたが、攻守両面でチームにアドバンテージを与えていた。人に対して強く、高い強度で守り、攻められるだけに、監督なら信頼を与えられる選手だ」

 エチャリは、自ら監督としてエイバルなどを率いた経験があるだけに、その色合いも出している。結果を求められる監督、という立場を知る意味は重いだろう。そして終了間際、柴崎のFKから植田直通のヘディングで勝った試合を、こう総括している。

「結果自体は、どう転んでもおかしくはなかった。前半は、コートジボワールのほうがポジション的に優位で、動きの質も強度も高く、コンビネーションやスピードでも上回っていた。後半は日本が挽回した。その要因としては、守備の安定があっただろう。攻撃がうまくいかないとき、どうしても焦って前につんのめりがちだが、立ち止まって考えるべきだ。

 最終的に勝利を収めたことは朗報と言えよう。日本の戦いにポジティブな流れを生むことを、心より祈っている」
(日本代表選手評につづく)