NTTドコモの災害対策の要 これが「移動基地局車」だ! 安心できる通信のため尽力する災害対策室の奮闘と苦悩

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●「使われないことが理想」の移動基地局車
NTTドコモは12月5日、東京ビッグサイトにて同社およびパートナー企業による技術展示会「DOCOMO Open House 2018」を開催した。

メイン会場で多くの新技術が展示される中、もっとも気になったのが、
会場の一角で展示・公開された「移動基地局車」だ。

移動基地局車とは、
災害時や大規模イベントなどで通信回線を確保するために用意される特別な通信車両である。

通常では、バックボーン回線に有線回線(光回線)を利用し無線通信区間を確保する。
しかし災害などでは、有線回線が断線、破損し、途絶している状況もあり、その場合は衛星回線が利用される。

移動基地局車は、そういった通信回線を確立・維持する設備のほか、発電機やバッテリーなど、全てを搭載して全国に配備されている。


通信用アンテナを伸ばした状態の移動基地局車


「(移動基地局車は)本来は使われないことが理想なのです」
NTTドコモ・災害対策室・室長の小林和則氏は、力強くそう語る。


小林和則氏は、NTTドコモでコアネットワーク系や投資管理、経営企画、支店の保全部門などを経て現在の部署に配属された。支店では保全業務のいろはも分からず、現場の作業員の邪魔ばかりしていたという。

小林和則氏
「とりあえず何も分からなかったので、時間さえあれば現場を飛び回って覚えました。鉄塔に登って作業したこともあります」

現場でのネットワーク構築の作業などを3年続けた経験が、今の災害対策に生きていると語る。

周囲のスタッフも「上司が現場に来てくれると士気が上がる」と、
つらい災害対策現場において、小林和則氏が大きな信頼を得ていることを話す。


NTTドコモ・災害対策室・室長 小林和則氏(47歳)


小林和則氏が「使われないことが理想」と語るように、移動基地局車というのは、実に因果な設備なのだ。

なぜなら移動基地局車が出動する事態とは、
・既存の通信基地局や設備が壊滅的な被害に遭う
・想定以上の利用者によるトラフィック過多から通信環境が破綻する
など、通信という生活に必要不可欠なライフラインが、提供できくなることを意味するからだ。

ライフラインである通信は、常に維持されることを求められ、実際に維持されている。
日本が平和であればあるほど、移動基地局車の出番はなくなる。

しかし残念なことに、2018年の今年は災害に次ぐ災害で、
移動基地局車に多くの出番が回ってきてしまった。


●「情報を得られる」という安心感のために
みなさんは移動基地局車と聞いて何を想像するだろうか?

移動基地局車さえ来てくれれば、繋がりにくかった通信回線が回復し、インターネットや電話が普段どおりに使えるようになる、そう安易に考えている人も多いだろう。

しかし、実際はそんなに簡単なものではない。
移動基地局車は、光回線と接続できる環境であれば、比較的大きな通信回線を確保できる。

ところが、大災害時のように有線回線が断絶し、衛星回線しか利用できない状況の場合は、話が違ってくる。

なんと衛星回線しか利用できない状況では、
通信容量は、通常の光回線の約1000分の1。数Mbpsだ。

この環境は、数人が使うだけならば、ニュースサイトなどを見る程度は難しくない。
しかし大勢が同時に使い始めたら、どうなるだろう?
とてもではないが、動画の閲覧などは不可能だ。

小林和則氏
「(移動基地局車の回線は)あくまでも臨時回線。緊急時の最低限の通信回線の確保が目的」なのだ。


移動基地局車の中にはBTSと呼ばれる通信設備がぎっしりと積まれている



有線環境が使えない場合、この衛星回線アンテナで外部への回線接続を確保する


移動基地局車による衛星回線は、回線としては少々心許ない容量だが、
「移動基地局が来てくれる、という安心感は大きい」
と小林和則氏は語る。

大災害によって通信手段が途絶し、持つものも持たずに避難する中で、何も情報を得られない被災者の不安と恐怖は想像に難くない。

実際、今年起きた「平成30年7月豪雨」や「北海道胆振東部地震」などで被災した人々なら、その記憶はまだ生々しく残っているだろう。
ほんの僅かな安否のメールや伝言1つが、人々に安心感と本来の冷静さを取り戻させ、災害に向き合う勇気を与えてくれる。
その「ほんの僅かな」を叶えてくれるのが、移動基地局車が復活させる通信なのだ。


柔和な小林和則氏の表情も、移動基地局車の役割について語り始めると真剣そのものだ



移動基地局車の心臓部である衛星アンテナやBTS、発電機、基地局アンテナなどを個別に可搬型にしたものもある


小林和則氏は、移動基地局車についての真剣な説明の合間に、大規模イベントでの笑い話なども教えてくれた。

小林和則氏
「大きなイベント会場に移動基地局車を持っていくと、来場者から
『これで通信が繋がる。安心できる』
と、とても喜ばれるのです。

しかし本当は移動基地局車がなくても安心して通信できる環境が整っていることが大切。
最近は大きなイベント施設の通信環境が十分に整いつつあるので、
みなさんの安心感のためだけに移動基地局車だけ持っていって
『電波は出していません』
と張り紙をしておこうかと思うくらいです」

一方、移動基地局車は、意外なところで苦労もあるようだ。

小林和則氏
「避難所であれば安心感から歓迎されることが多い移動基地局車ですが、住宅街などでは発電機の音がうるさいと苦情をいただくこともあり、アンテナの設置場所に苦労することもあります」

苦笑とも取れる同氏の笑顔の裏に、
「必要とされないことが最重要」
という部署を統括する小林和則氏の苦労が垣間見えた。


笑顔で丁寧な説明の裏に「裏方仕事」としての苦労をにじませる


●コストミニマムの考え方で災害対策を増強していく
NTTドコモの災害対策が現在の規模となったのは、2011年の東日本大震災からだ。
それまでの災害対策を根底から瓦解させるほどの大災害に遭遇し、200億円規模の予算をかけて1から災害対策を練り直したという。

移動基地局車1台を見ても、その価格は、なんと数千万円にのぼる。
さらに搭載された機器の性能維持や交換などのメンテナンスも含めると、毎年莫大なコストがかかる。

それでも災害対策をやめるわけにはいかない。
同社では今後2020年にかけて、災害対策としてさらに200億円の追加投資を行う予定だ。


衛星回線を搭載した移動基地局車は現在約40台が全国に配備されている


災害対策室は、企業にとって、決して利益を出さない部署である。
営利企業として予算を割きにくいのは、誰が見てもわかる。

さらに今年8月には菅官房長官による
「通信料金は4割削減できる余地がある」
発言もあり、政府からの利益是正の圧力も高くなっている。

NTTドコモでは、そうした世相を受けてのことだとは言及してはいないものの、
10月末に吉澤和弘社長自ら、2019年4月〜6月を目処とした通信料金体系の大幅な見直しと、2割から4割の値下げを発表している。

内外からNTTドコモの利益圧縮が叫ばれる中、それでも小林和則氏は語気を強めて語る。

「(利益削減は)関係ありません。我々はコストミニマムの考え方で、計画通り200億円を掛けて最大限の災害対策を増強していきます」


当たり前にインターネットにつながり、SNSや電話が利用でき、人々が繋がることができる時代。それが現在の日本。

しかし、その「繋がる」は、支えてくれる人々の努力によって維持されている。
今回の取材では、普段は気がつかない、その「繋がる」ための努力の一部を見られた気がした。

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秋吉 健