瀬戸康史、上京なんてしたくなかった…!? 俳優業が「親の夢」から「一生の仕事」になるまで

撮影/川野結李歌 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc.
スタイリング/小林洋治郎(yolken) ヘアメイク/須賀元子

念願の前川知大作品に出演! 「素っ裸で行くしかない!(笑)」
――『遠野物語・奇ッ怪 其ノ参』は、映画化もされた『太陽』などで話題の劇団「イキウメ」の前川知大さんの脚本・演出ですね。瀬戸さんは以前から「イキウメ」の作品をご覧になっていたそうですね。
そうなんです。前川さん独特の作風といいますか、非現実的な設定で物語が進んでいき、こちらが非現実的なことだと油断し、気持ちを緩めていると、突然、現実を突きつけてくるような感じがすごく魅力的だなと感じてました。
――では今回、その前川さんの作品のオファーが来て…。
嬉しかったです! 『其ノ参』とあるようにシリーズ3作目なので、いままでの積み重ねがある上での今回からの参加ということで、プレッシャーも正直ありますが楽しみです。
――前川演出について、どんなところが楽しみですか?
お会いしたことは何度かあるんですけど、どんな演出をされるのかまったく想像できないんですよね。稽古時間が長いとは聞いてます(笑)。でも僕が自分で気づいてないようないろんなことが見える方だと思うので、これは素っ裸のまま行くしかないかな、と覚悟を決めてます!
――舞台出演では昨年は『マーキュリー・ファー』(作:フィリップ・リドリー、演出:白井 晃)、Dステ17th『夕陽伝』がありましたが、約1年ぶりですね。ドラマへの出演が続いていますが、映像作品とは違う、舞台ならではの魅力はどういった部分に感じていますか?
やはり、舞台のほうが自由度は高いですよね。それこそ『マーキュリー・ファー』のような、残酷さや痛みを表現できる場所ですし、お芝居ではあるけれど、演じる側もお客さんも生でそれが体感できるってすごく大事なことだなと思います。


――やはり、生でお客さんの前で演じるというのは違いますか? お客さんの存在に引っ張られたり、解放されたりも?
空気を一緒に作っている感覚はありますね。僕、緊張しいなんで(笑)、出る前は舞台袖で吐きそうな気分なんですよ。でも、お客さんの前に出てしまうと不思議とフワッとした気持ちになる。それは解放なのかもしれないですね。快感というのとはまた違うんですが…重荷がなくなるような感覚はあります。

九州男児、“マシンガン東北弁”で魅せる?
――今回の物語は、日本を代表する民俗学者・柳田国男が東北の遠野地方に伝わる民話をまとめた『遠野物語』が原作です。妖怪やもののけといった、人ならざるものと人間の関わりを描いたエピソードが縦糸としてありますね。
僕の地元・福岡でも河童(かっぱ)などの民話が残ってます。僕が演じるササキは、祖母からそういう話を聞かされて育ってきた男ですが、僕もそういう民話や妖怪の話は大好きです。夏によく怖い話をするんですけど、言葉だけで情景を想像させ、相手に伝えるってすごく難しいんですよね。
――今回、瀬戸さんはササキという役で、物語の語り部を務められます。
そうなんです。どんな感じで舞台上に存在すればいいのか? 設定では「霊媒体質」ってあるんですけど…(苦笑)。いわゆるシャーマンですよね? 霊媒として話すってまったく違う人物、声色になるのか? そこは柳田国男が惹かれた部分でもあると思うので、大事に演じたいし、見る人に「こいつの語り、すごいな」というインパクトを与えたいですね。
――この柳田国男の世界観に加え、気になるのが「標準化政策が施行され、記述は標準語による事実のみに限られる」という近未来的な設定です。瀬戸さんがおっしゃった前川作品の“非現実”の魅力でもあると思います。
僕は福岡出身で地元が大好きという人間で、前川さんも地元は新潟県で地方出身なんですよね。東京(=標準)ということに対する反発というか、考えるところがあるんでしょうね。


――この方言が抑圧された世界で、ササキは東北弁を話すんですよね? 瀬戸さんにとっては地元の博多弁とはまったく異なる方言を習得しないといけないわけですね。
そうなんですよ(苦笑)。柳田国男も何を言ってるのか理解できなかったと言われるくらいの、マシンガン東北弁です!(笑) 大変そうですけど楽しみですね。
――瀬戸さんご自身は、仕事では標準語で話してらっしゃいますが、17歳で上京された際に、意識的に方言を直したんですか?
博多弁って、敬語で話してると出てきにくいんですよね。だから、最初から意識して直す必要性はなかったですね。ただ、やっぱり地元の人間と話すとすぐに博多弁が出ちゃうし、なぜか最近では、普通にしゃべってても方言がポロっと出ちゃう(笑)。
――上京から10年以上が経って、いまさら?(笑)
やっと、周囲に心を許すようになってきたのかな?(笑)
――標準語を話すことで、無意識にバリアを張っていたのかもしれませんね。
実際のところ、標準語は決して好きではないんですよ。やっぱり、地元の言葉が一番好きですし。とはいえ、まさに標準化されている自分もいますし…(苦笑)。
