なぜビジネスは「5W1H」が必要なのか
■「ケンカをするときは本気でやれ!」
社内改革を推し進め、その使命をまっとうしようとしたとき、私はリーダーシップの必要性を痛いほど感じた。なぜなら、仕事は1人ではできない。変革推進本部準備チームの仲間3人、そして、各部門に働きかけて理解を得た人たちの助けが必要だった。一緒に抵抗勢力という厚い壁を打ち破っていくわけである。そのときに、周囲を鼓舞できる力量は絶対に欠かせない。
変革推進運動を展開していく過程で学んだことのひとつは「ケンカをするときは本気でやれ!」ということ。改革に取り組んだ90年代後半は、合併会社(1985年に昭和石油とシェル石油が合併)特有のバランス感覚がまだ色濃く残っていた。例えば、何か重要な案件を審議する際にも互いに遠慮があったりする。確かに波風は立たないかもしれないが、それは見かけの融和でしかなく、本音のぶつかり合いにはならない。
本部の4人はそれぞれ出身も違うし、育ってきた社内文化も異なる。やはり、何度も大喧嘩をした。だがそれによって、相手の心のうちが理解できるようになる。そして、裸でぶつかると、後にわだかまりは残らない。やがて、私たちは一体化したチームになっていった。そうなれば、組織は機能していく。当時26名いた取締役も半減することができたし、組織の統廃合も達成することが可能だったのである。
その際、私が心がけたのが、物事を決めるに当たって“5W1H”を明確にするということだ。すなわち、“誰が、何を、いつ、どこで(どこを)、なぜ、どうやって”を、一定の時間軸のなかで決めていく。それができると、目標が具体化し、責任の所在もはっきりする。経営改革の現場では、どこを変えるかを的確に判断し、場合によっては事業領域の一部をバッサリ切るといった決断を迷いなく下す。そして大事なのは勇気を持って遂行していくこと。
■最大の力はトップのコミットメント
トップのリーダーシップはとりわけ重要だ。我々の背中を押してくれる最大の力はトップのコミットメントにほかならない。取締役に退任を迫るには「あなたが抵抗するなら、こちらも命を投げ出しますよ」と相討ちの覚悟で対峙しなければならない。敗れたら、骨を拾ってくれるのがトップである。それがなければ、いかに優秀なメンバーを揃えたとしても総崩れしてしまう。
当時、昭和シェル石油は会長と社長の“二頭政治”だった。どちらがCEO(最高経営責任者)かわからず、業務執行上の権限も、ここは会長、あそこは社長といった具合。会議をしても時間がかかり、加えて結論が出にくい。そんななか、突如として社長が勇退を表明したのである。健康上の理由ということだったが、不毛な社内政治に嫌気がさしたのかもしれないし、さらに深読みすれば、自身が身を退くことで変革の捨て石になろうとしたとも考えられる。
いずれにしても、会長が社長を兼務することで指揮系統が明確になり社内の求心力が増す。いってみれば、会社という船が嵐の海を通過する際、トップみずからが操舵室に立ち、進路を指し示すようなものだ。多少の抵抗なら、いとも簡単に乗り越えていくことができ、改革は一気に加速した。意思決定は非常に速いし、経営のスピード感もアップする。これがまさにトップダウンの強みといっていいだろう。
そしていま、当社を取り巻く経営環境は、あの変革推進の頃と似てきた。今回は自社だけでなく、業界全体の改革も避けられないだろう。だから私は、社員に「勇気を持つ変革者たれ」と呼びかけている。わが社では人材ビジョンとして、(1)自律考動、(2)外向き志向、(3)チーム意識を掲げている。この三要素こそが変革期に求められる社員像であり、それに基づいて、1人ひとりがリーダーシップを発揮してほしいと思っている。
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1947年、広島県生まれ。県立広島観音高校、中央大学法学部卒。70年シェル石油(現昭和シェル石油)入社。2001年取締役。常務、専務を経て、06年代表取締役副会長。09年会長。13年3月よりグループCEO兼務。
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(昭和シェル石油会長 香藤繁常=文 岡村繁雄=構成)
