長女の「ChatGPT相談」で通報へ…阿部慎之助”辞任騒動”が浮き彫りにした、本当に正しい「AIへの相談の仕方」

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「AI社会特有の歪み」を象徴する出来事

警察が来て一番驚いているのは自分自身ですし、父が警察に連行された姿を見て、目前で私は泣き崩れてしまいました」

会見で代読された長女の手紙からは、本人が“想定外の事態”に巻き込まれた驚きと混乱が伝わってくる。

プロ野球・読売ジャイアンツの阿部慎之助前監督(47歳)が、18歳の長女への暴行容疑で現行犯逮捕され、翌日には辞任に追い込まれた。発端は、姉妹喧嘩とそれを止めようとした父親の口論。長女の手紙によれば殴る蹴るはなく、過去に虐待通報の履歴もなかった。それでも、なぜここまでの事態になったのか。

引き金は、長女が「ChatGPT」に相談したことだった。AIに助けを求めた結果、匿名で相談できる児童相談所を勧められ電話をかけた。「どうすればいいかわからない」と職員に相談すると、本人の意向は確認されないまま、児童相談所は“虐待の疑い”として警察に通報したとされる。

この一連の騒動は、急速に生活の中に溶け込んだAIと、それに依存する人間とが引き起こす「AI社会特有の歪み」を象徴する出来事だ。そしてそれは、親子の間にも、上司と部下の間にも、等しく起きうる問題なのである。

なぜAIは、いきなり「児童相談所への通報」という重大な選択肢を提示したのか。グリー出身で現在は複数の自治体でAI顧問も務めるYMMD合同会社CEOの齋藤潤氏は、

「AIの回答自体は標準的な対応を普通にやっているだけ」

と指摘する。今回のケースは「プロンプト力」の不足を象徴しているという。プロンプト力とは、AIに状況・背景・意図を正確に伝えるスキルのことだ。

「暴力を受けたと相談されて児童相談所を案内するのは、むしろ正しい。問題はAIの側にあるのではありません。動転しているときでも、客観的な状況を伝えて『この先どうなるか』という複数のシミュレーションをAIに引き出させる。その作法を、私たちがまだ誰も身につけていないということです。

冷静に『妹と喧嘩し、止めに入った父と揉めた』という時系列と背景まで入力し、『このまま進んだ場合の良い未来と悪い未来を3通り出して』と尋ねていれば、AIは『お父さんにも事情があったのでは』と別の視点を返したはずです」(齋藤氏。以下、鉤カッコ内は同)

AIは「感情の拡張装置」

多くの人は、AIを「どんな時でも客観的でフラットな回答をくれる公平な存在」と思っているかもしれない。しかし、齋藤氏はその認識こそが危険だと指摘する。

「AIの本質は、個人の感情の拡張装置であり、“鏡”です。『私は弱者で悲しい』と伝えれば、AIは『その通り、あなたは弱者です』と返し、その人のバイアスをさらに固める。長女が父への怒りや悔しさだけを入力したことで、AIはそのバイアスを増幅させてしまったとも考えられます」

つまりAIは、入力された情報を中立に判断するわけではなく、都合の良い感情だけを与えれば、それを全面的に肯定してしまう。客観的な視点を持たないままこの「鏡」とやり取りを重ねれば、AIとのキャッチボールの中で、「自分は被害者である」という認識が無意識のうちにどんどん増幅されていってしまうのだ。

さらに、AIはその感情に対して「法律やルールに基づいたもっともらしい理屈」を与えるため、利用者は「自分は100%正しく、相手が100%悪い」という極端な自己正当化に陥りやすくなる。

今回の件も母親や学校の先生など、信頼できる他の人間に先に相談していれば、「もし児童相談所に連絡したらお父さんが大変なことになっちゃう」といった当たり前の配慮や客観的な視点が働き、徐々に感情がクールダウンしていったはずだ。

しかし、「怒られない」「否定されない」「24時間つながれる」AIは、いまや子どもたちにとって手軽な心の避難所となりつつある。

「今、子どもたちは『親となんて話したくないけど、AIはマジで分かってくれる』という状態にあります。人間というクッションを飛ばして、AIが“一番の相談先”になり始めている。ところが大人側の多くは、自分の子がスマホの中で誰に何を打ち明けているか、想像すらできていません」

これは、決して子どもたちの世界に限った話ではない。ビジネスの世界でも、まったく同じことが起きている。

後編記事『阿部慎之助「辞任騒動」は他人事ではない…「AIに相談した部下」に告発されないために上司が準備すべきこと』へ続く。

【つづきを読む】阿部慎之助「辞任騒動」は他人事ではない…「AIに相談した部下」に告発されないために上司が準備すべきこと