「遊びに誘う犬を無視するうちの犬は社会性がないのか」動物行動学の専門家が解説
「愛犬が他の犬と仲良く遊べない」悩み
イヌ友には2つの意味がある。ひとつは子どもを通じたママ友、パパ友と同様、よく行くドッグランや、散歩で一緒になる犬を通じた飼い主同士の人間関係。もうひとつは犬同士の関係。
よく顔を合わせる人間どうしの関係ならば、互いに気持ちよく過ごすためにも、最低限のマナーは必要だろう。一方で、犬同士の関係はどうやって築けばよいのだろう。
SNSには、愛犬が他の犬と仲良く遊べず悩む飼い主の声も上がる。
ドッグランやお散歩中に、フレンドリーな犬が遊ぼうと誘ってくれるのに、興味を示さず、顔を背けたり、地面の匂いを嗅いだり。
低い声で唸ったりされれば、「なぜ、うちの犬はこんなに社会性がないのか」と、不甲斐ない気持ちになるのだろう。
お散歩中に仲良く遊び合う犬友を見れば、「仲良くできない」飼い犬を、なんとかしたくなるかも。動画提供:ワタシニデキルコト
東京大学および大学院で獣医学を修め、在学中にはカリフォルニア大学デービス校付属動物病院で行動治療学を学び、動物病院での診察や大学講師などを経て、「ペットと人が楽しく快適に暮らすためのライフスタイルの提案」をライフワークとする高倉はるか先生の連載の後編。
前編「「犬はテレビがわかるか」動物行動学の専門家驚きの回答。飼い主が留守中、不安と寂しさで暴れる犬にテレビを見せてみた。」では、犬の不安をまぎらわすために、テレビや動画を見せることは有効か、という質問に、「テレビを見る」犬がいるとしながらも、実際、犬がどう感じているか、詳しく解説いただいた。
後編では、仲良く遊ぶ犬たちを尻目に、他の犬に興味を示さず、時には唸り声で他犬を拒否する飼い犬の気持ちと、飼い主ができることをはるか先生のインタビューでお伝えする。
「遊ぼう」と誘ってくれる犬を無視する理由
顔を背けたり、あくびをしたり、地面の匂いを嗅いだり……。
こうした一連の行動は、飼い犬が社会性のある、ごく真っ当な犬であることを証明しています。
人間でも、緊張すると深呼吸したり、伸びをしたりしますよね。犬も、不安や緊張を感じた時、自分を落ち着かせるためにさまざまなことをやります。こうした動作をカーミングシグナルと言います。
カーミングシグナルの代表的なものは、あくび、視線をそらす、地面の匂いを嗅ぐ、鼻を舐める、体をブルブル震わせるなど。
あくびはストレスや緊張をやわらげます。視線をそらせるのは、敵意がないことを示すため。地面の匂いを嗅ぐ行動は、情報収集もあるのですが、緊張した時、自分や相手を落ち着かせる意味もあります。虫や水がついていなくても、頭や体をブルブルッと振るのは、「気持ちを切り替えたい」から。
こうした行動は、犬だけでなく、猫にも見られます。
猫もストレスを感じると、自分の手を舐めたりします。舐めすぎて毛が抜けて、地肌が見えてしまうこともあるんです。
つまり、「遊ぼうと誘ってくれる他の犬に対して失礼」に見えた行動は、どれも理にかなった、自然なストレス対処法なのです。
生まれつき、警戒心が強かったり不安症だったり…
以前、野犬の子犬を一時預かりしていた知人が、1年後に街で会ったら、「触らせてはくれたけど、あんまり喜んでもらえなかった」と言っていました。
聞けば、とても臆病な子で、譲渡会でもなかなか人を寄せつけず、支援団体の主宰者さんも譲渡は諦めて、自分の家で引き取ったそう。
再会した時の状況を聞くと、駅前の雑踏の中で、飼い主となった主宰者さんの足の間に隠れ、尻尾も完全に巻き込んで、震えるように縮こまっていたと言います。知人は「触らせてはくれたけど、落ち着きがなかった。もう完全に忘れられてしまった」と悲しんでいましたが、私は必ずしもそうとは思いません。
駅前の、人も自転車も車も通る、動きや音の刺激が強いところでは、「懐かしい人に会えた嬉しさ」よりも「怖い」が先に来ます。嬉しい余韻にひたる余裕がなかったのかもしれません。
現在の飼い主以外には体を触らせない子が、今も知人に触らせたというのなら、もし静かな部屋の中だったら、また反応は違っていたように思うのです。
生まれつき、警戒心が強かったり、不安症だったり、ストレスを感じやすい子は一定数います。時間をかけて、ようやく慣れてきたと思っても、ふと目が合った瞬間に、急に不安が込み上げ、気持ちが引いてしまうことは、決して珍しくありません。
怖い気持ちが先にたてば、まず距離を取ろうとするし、体を低くして小さく見せたり、なるべく目立たないようにする。自然な防衛本能です。
せっかく慣れてきたと思ったのに……とがっかりする気持ちもわかりますが、こうした行動を見せたからと言って、信頼関係がないとは言えないのです。
飼い主がやってはいけないこと
犬どうしの場合、こうしたカーミングシグナルを出すことで、「遊びたくない」「放っておいてほしい」と訴えます。ところが、相手が遊びたい盛りの子犬だったり、ちょっと興奮状態だったりすると、それを無視して、無理に距離を詰めてくることがあります。
それで唸ったとすれば、唸る側の犬は、まったく悪くない。「これ以上来ないで」と、必死に伝えているのです。
このとき、飼い主さんが「ほら、大丈夫」「怖くないでしょ」などと、無理にリードを引いて近づけてしまうと、犬は、「もう逃げられない」とパニックになるでしょう。吠えたり暴れたりするかもしれません。それは、どうしていいかわからなくなっているから。
きちんとカーミングシグナルを出して、「遊びたくない」と伝えているのに、相手の犬も、自分の飼い主もわかってくれないなんて、かわいそうですよね。
こうした犬のサインを見たら、犬のしたいようにさせてあげてください。
私は、犬が望まないのなら、犬どうし、無理に一緒に遊ばせたり、犬友にならなくてもなくてもいいと思っています。人間だってそうですよね。相性や性格もあることだし、犬も同じです。
ちゃんとカーミングシグナルを出して、「今は構わないでください」って伝えられるのは、むしろ社交的と言っていいくらい。
犬を「社交的にしなきゃ」と考えるよりも、まずは「今、この子はどう感じているんだろう」と読み取ってあげていただければと思います。犬のサインに気づいてもらえることが、犬にとってはいちばん安心できることなのです。
【前編】「犬はテレビがわかるか」動物行動学の専門家驚きの回答。飼い主が留守中、不安と寂しさで暴れる犬にテレビを見せてみた。
