ソフトバンクの本拠地・みずほPayPayドーム福岡

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 山本祐大の緊急補強は、ソフトバンクにとって大きな一手だった。5月12日、ソフトバンクは成長著しい右腕の尾形崇斗、2020年ドラフト1位の井上朋也を交換要員として、DeNAから正捕手の山本を獲得した。捕手が課題となっていたチームにとって、攻守で計算できる山本の加入は確かに大きい。【西尾典文/野球ライター】

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先発投手陣の不振

 ただ、それだけで昨年日本一のチームが一気に上向くかといえば、話はそう単純ではない。

 昨年は5年ぶりに日本一を奪還したソフトバンク。今年も優勝候補の筆頭という声が多かったが、セ・パ交流戦開幕時点で西武、オリックスに次ぐ3位。なかなか波に乗り切れていないのが現状だ。

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 この動きには他球団の編成担当も驚いたという。

「ソフトバンクは一昨年のオフに正捕手の甲斐拓也がFAで巨人に移籍し、捕手が課題となっていました。昨年最も多くスタメンで出場した海野隆司は守備には定評がありますが、打撃が弱く、正捕手としては心もとない。そこへ打撃が良く、守備も安定している山本が入ったことは非常に大きいです。しかも尾形、井上というレギュラークラスではない2人で獲得できたことにも驚きました。それだけDeNAの投手補強が急を要していたということだと思います」

 山本は移籍が発表された翌日の13日に一軍登録されると、22日の日本ハム戦では移籍後初本塁打を放つなど、期待通りの活躍を見せている。DeNAで見せていたようなプレーを続けることができれば、大きな戦力アップとなる可能性は高い。

 実際、山本の加入だけで楽観視できる状況ではない。山本が一軍登録された13日から交流戦前の24日までの9試合は4勝5敗と負け越している。

 特に大きいのが、先発投手陣の不振だ。オフに有原航平が自由契約となり日本ハムに移籍。左のエースであるモイネロも出遅れ、一軍復帰を果たせていない。実績のある大関友久とスチュワート・ジュニア、新外国人の徐若熙も不安定な投球が続き、二軍調整となっている。

 球団関係者も現在のチーム状況についてこう話している。

「昨年先発として働いた投手の中で、今年もローテーションを守っているのは上沢直之しかいません。大津亮介が頑張っていますが、この2人以外は計算が立たない。ここまで先発が揃わないのは想定外でしたね。今はリリーフが頑張っていますが、夏場には疲れが心配です。モイネロの復帰も遅れており、しばらくは実績のない選手も含めて、やりくりしながらしのぐことになると思います」

“大化け”に期待し過ぎ

 一方の野手陣は近藤健介、栗原健太、周東佑京、牧原大成ら主力が結果を残しているが、他球団と比べてチーム打撃成績が突出しているわけではない。主砲の山川穂高は9本塁打を放ちながら打率は1割台と低迷(5月26日時点)。今宮健太、柳町達、野村勇らが成績を落としている点も気になるところだ。

 停滞を生んでいる大きな要因として挙げられるのが、ドラフトで獲得した選手の伸び悩みである。

 過去10年に指名した選手で完全に主力となったのは、周東(2017年育成2位)と大関(2019年育成2位)に限られる。それ以外では柳町(2019年5位)、野村(2021年4位)、大津(2022年2位)が目立つ程度だ。

 背景には、他球団の主力選手をFAなどで多く獲得している事情もある。スカウティングにも課題があるのではないか。他球団のスカウトはこう話す。

「ソフトバンクは育成でも多く選手を指名する方針なので、どうしてもリストアップする基準は他球団より低いと思います。正直、『このレベルの選手を指名するの?』というケースも多いですね。ファームの施設など十分な環境を整えているから、素材が良ければ何とかなるだろうという“過信”もあると思います。入団して数年後にソフトバンクを戦力外になった選手が社会人や独立リーグに移籍することも多いですが、そのレベルでも活躍できない選手も多い。少し“大化け”に期待し過ぎているように見えます」

選手に対する“見切り”が

 新人選手を獲得するスカウティング以外にも、気になる点がある。ソフトバンクから他球団に移籍して飛躍する選手の多さだ。

 投手では加治屋蓮(2013年1位・現楽天)、田中正義(2016年1位・現日本ハム)、大竹耕太郎(2017年育成4位・現阪神)、甲斐野央(2018年1位・現西武)らが、移籍先で戦力となっている。野手でも三森大貴(2016年4位・現DeNA)、増田珠(2017年3位・現ヤクルト)、水谷瞬(2018年5位・現日本ハム)、佐藤直樹(2019年1位・現楽天)らが新天地で出場機会を増やした。

 現在は怪我で出遅れているものの、上林誠知(2013年4位・現中日)やリチャード(2017年育成3位・現巨人)も昨年は結果を残している。彼らはFA権を行使して移籍したのではなく、戦力外、現役ドラフト、トレードなどでソフトバンクを去った選手たちだ。

 この現状について、前出の編成担当者はこう話す。

「ソフトバンクはドラフトでも育成選手を多く指名しますし、実績のある選手も獲得する。そうなると、どうしても選手に対する“見切り”が早くなります。もう少し我慢して使うことができない。そんな選手が他球団でチャンスを与えられて開花していると言えるでしょう。山本の獲得はもちろん大きいですが、尾形と井上もDeNAで大活躍するかもしれません」

 他球団からソフトバンクに移籍した選手では、一昨年の現役ドラフトでDeNAから獲得した上茶谷大河が今年中継ぎとして活躍している。それ以外に目立つ選手は少ない。これも編成上の課題と言えるだろう。

 山本の獲得は、確かに大きな補強である。先発投手陣の不振、ドラフトで獲得した選手の停滞、移籍後に他球団で開花する選手の多さを見ると、ソフトバンクが抱える問題は決して小さくない。

 昨年日本一に輝き、今年も優勝候補の筆頭と見られていたソフトバンク。山本の補強をきっかけに再び上昇気流に乗れるのか。それとも、編成面の課題がこのまま響くのか。フロント、首脳陣の手腕が問われることになりそうだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部