記事のポイント
ホルムズ海峡の混乱により、世界の繊維生産コストが10〜15%上昇する可能性が高まっている。
インドやバングラデシュ発のアパレル輸送は迂回を余儀なくされ、最大1カ月の遅延が発生している。
ブランド各社は航空貨物の活用や在庫週数管理など、新たなサプライチェーン対策を進めている。


この数週間、国際海運業界には混乱が広がっている。イラン政府が現在支配するホルムズ海峡の現状は、イラン情勢における重要な要衝であり、ますます不透明な状況となっている。

繊維生産コストが最大15%上昇する見通し



米国政府は、問題は解決したか、もしくは紛争は一時停止中だと交互に主張し続けているが、イラン側はこれに異を唱えている。一方で、海峡を通る船舶輸送の状況は急速に変化している。

S&Pグローバル・インテリジェンス(S&P Global Intelligence)のデータによれば、5月8日時点で、商船は丸3日間にわたって海峡を通過していない状態だという。

輸入業者にとって、この水路の通行に関する合法性や安全性に関する情報は日に日に不透明になっているが、ファッション業界への長期的な影響はより明確になりつつある。

ホルムズ海峡に関する懸念の多くは、海峡を通って輸送される石油の不足に向けられているが、遅延しているのは石油だけではない。

インドやバングラデシュなどのアパレル・繊維産業の中心地では、トミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)、ギャップ(Gap)、ザラ(Zara)、エイチアンドエム(H&M)といったグローバルブランドの衣料品を製造している。これらの企業は、製造工場からEUや中東地域などの重要市場へ製品を出荷するうえで、ホルムズ海峡に依存している。

人権団体のビジネスと人権リソースセンター(Business and Human Rights Centre)によれば、遅延が続けば世界の繊維生産コストは10〜15%上昇する可能性が高いという。

国連貿易開発会議は、近い将来、海上輸送コストだけで30〜50%上昇すると予想している。

イランの新規則と米国の制裁警告



4月18日には、イランが海峡を通過する船舶向けに新たな規則を打ち出したというニュースが報じられた。これにはイランのペルシャ湾海峡当局(Persian Gulf Strait Authority)への申請書の提出義務や、新たな通行料の徴収などが含まれる。

紛争前、海峡の通行は無料だった。一方、米国はイランの海峡統治に従う企業に対して制裁を科すと警告しており、多くの海運会社は両大国のあいだで板挟みとなり、海峡を通る輸送量は最大97%減少している。

季節性ゆえに大打撃を受けるファッション業界



コマースオペレーション・テクノロジー企業のリンワークス(Linnworks)でCEOを務めるジョン・バール氏によれば、ファッション業界はその季節性ゆえに、とくに大きな打撃を受けているという。

「主要な貿易地域における地政学的な混乱は、必然的にグローバルなサプライチェーン全体に波及効果をもたらす。特に国際的な調達と厳格に管理された在庫サイクルに大きく依存しているファッションのような分野では、その影響は顕著だ」と同氏は述べた。

たとえば、インドから出荷されるアパレル製品は、ホルムズ海峡を避けるために喜望峰回りで迂回する必要がある。しかしそうすると、最大で1カ月もの追加の輸送時間がかかってしまう。

ファッション業界において、1カ月という期間は、シーズン商品を必要なタイミングで揃えられるか、あるいは時季外れの在庫を処分するために値下げを余儀なくされるか、その分かれ目になりうる。

「在庫管理の観点から見ると、小売業者が直面する最大のリスクは、リードタイムの不確実性である」とバール氏は述べた。

「輸送ルート、製造拠点、輸送ネットワークが不安定になると、小売業者は補充スケジュールを乱す遅延に見舞われ、販売チャネル間で在庫の不均衡が生じる可能性がある」。

ブランドが取るべき緩和策



自転車ブランドのブルックリン・バイシクル・カンパニー(Brooklyn Bicycle Company)創業者のライアン・ザガタ氏は、主にアパレル製品を運ぶインドやバングラデシュからの同じ貨物船で、自転車を米国に輸入している。

ザガタ氏は、輸送コストの上昇はニュースサイクルから遅れてやってくると指摘する。

「海運会社は海峡情勢が不安定になるたび、即座に運賃を引き上げるわけではないが、リスク割増料金は上乗せする。特に紛争リスク保険は注視すべき項目だ。さらに、より長い航路へ迂回させたり、輸送能力を調整するために運航停止を実施したりする」と同氏は語った。

同氏は、影響がどのように現れるかを示す最近の例として、2024年に紅海で発生した海上輸送の混乱を挙げた。

当時、イスラエルとの紛争を続けていたフーシ派が商船を攻撃した。当時、この地域から輸入していた多くのブランドは、迂回輸送によるコスト増加の影響を受けたのは60日後のことで、大幅な価格上昇に備えができていないケースが多かった。

ザガタ氏は、自身が実施している3つの緩和策を説明した。

「まず、フォワーダー(運送業者)から、コンテナ単位ではなくSKU単位で、燃料費、繁忙期料金、リスク割増料金などを含めた明細付きの輸入完了原価(ランデッドコスト)レポートを入手すること。第二に、たとえ運賃が現在のスポット価格を上回ったとしても、今後90日間にわたり重要航路における確約された割り当て契約を確保すること。第三に、自社の余剰期間(ランウェイ)を金額ベースではなく、SKUごとに在庫週数でモデル化することだ」と同氏は述べた。

サプライチェーンとファッションの専門家であり、サプライチェーン・テクノロジー企業のソティラ(Sotira)の共同創業者兼CEOであるアムリタ・バシン氏は、現状ではファッションブランドにとって航空貨物輸送がより有力な選択肢になり得るとしており、特に時間的制約の厳しい製品については有効だと述べた。

「航空貨物の選択肢は拡大を続けており、船便より高くつく可能性はあるものの、より迅速だ」と同氏は述べた。

「ブランドの特性、価格設定、利益率の余地によっては、消費者ニーズに応え、消費者の関心を維持するために、今こそ投資すべき有力な選択肢となるだろう」。

[原文:Chaos and confusion in the Strait of Hormuz could drive apparel production costs up 15%]

Danny Parisi(翻訳、編集:藏西隆介)