英雄的行動か、蛮行か W杯敗退の伊守護神ドンナルンマからデータ用紙を盗んだボスニア14歳の言動に「美談にしちゃいけない」と賛否両論

相手GKヴァシリに“カンニングペーパー”を盗んだと激高するドンナルンマ(C)Getty Images
国を救った“英雄的行動”か、はたまたサッカー大国を沈める一助となった“蛮行”か。ある青年が見せた振る舞いが波紋を呼んでいる。
物議を醸しているのは、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表がイタリア代表を破った去る3月31日(現地時間)に北中米ワールドカップ(W杯)の欧州予選プレーオフ決勝だ。PK戦にまでもつれ込んだ一大決戦にあって、試合当日にボールボーイを務めていたアファン・チズミッチは、イタリア守護神ジャンルイジ・ドンナルンマが使用しようとしていたPKに関するデータが記された紙を盗んだのだ。
【画像】「右」「左」…とPKの詳細が書かれたドンナルンマのカンニング用紙はこちら
試合中から両軍がヒートアップする展開となる中、PK戦ではボスニア・ヘルツェゴビナは4人全員が成功。駆け引きに敗れたドンナルンマは、2人のPKストップに成功していた相手GKニコラ・ヴァシリに激高。各キッカーの情報が詰まった“データ用紙”を「盗んだ」と非難し、卑怯だと言わんばかりに怒りをぶつけた。
ただ、犯人はヴァシリではなく、14歳の青年だった。ボスニア・ヘルツェゴビナの放送局『N1』によれば、地元クラブであるチェリク・ゼニツァのユースチームでプレーするチズミッチは、「ゴール脇のタオルの横に何かがあるのに気が付いた」と告白。ドンナルンマとイタリアが頼りにしたであろうデータ用紙を試合中に盗み取っていた事実を証言した。
「彼は周囲を何度も見回し、しまいには警備員まで責めていた。とにかく怒りとショックに満ちていたと思う。僕には、その紙が何なのかがすぐに分かった。だから、それを取って隠したんだ。リストには選手に関するあらゆる情報が載っていて、どうやってシュートするかがちゃんと書いてあったんだ。大事な資料だったと思うから、ドンナルンマは運任せにあっちこっちに飛んでいた。つまり本能に頼るしかなかったんだ」
無論、本人にも少なからず罪の意識はある。チズミッチは「父と相談して、紙をオークションに出して全額を慈善団体に寄付することにした」と吐露。こうした振る舞いをボスニア・ヘルツェゴビナのメディア『FACE』は「この物語には人道的な面もある」と称賛し、敗戦の悔しさをヴァシリに向けたドンナルンマに対して、「イタリアではショックが広まっており、間違いなく嫌われるだろう」と批判を飛ばした。
ただ、イタリア国内では、ボスニア・ヘルツェゴビナで「英雄」とも称えられたチズミッチの行動を疑問視する声も上がった。
日刊紙『Corriere dello Sport』は、「ドンナルンマは運任せにあっちこっちに飛んでいた」という本人のコメントを伝えた上で、「14歳のサッカー少年による、非スポーツマンシップ行為にもかかわらず、ボスニアでは伝説となる。もはや彼は国のアイドルだ」と皮肉を展開。さらに「彼の悪行がイタリアにもたらしたものは悪夢だ」と断じた。
SNS上でも「これがアウェーの洗礼」「ボスニア・ヘルツェゴビナにとっては神的な行動」と称賛が相次いだ一方で、「美談にしちゃいけない」「一線を越えている。恥ずかしい行為だ」「彼の行動が称えられるのはおかしい」といった反発も散見。サッカー界でも賛否両論が渦巻いている。
果たして、ボスニア・ヘルツェゴビナを救った行為は是か非か――。その論争はしばらく続きそうだ。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
