日本の「インフラ崩壊危機」をどう理解するか「意外なヒント」
日本はこのまま崩れ去ってしまうのか? 道路、鉄道、水道、インフラ、橋……なぜ全国各地で次々に事故が起きるのか? お金も人も足りない……打つ手はあるのか?
注目の新刊『日本のインフラ危機』では、私たちの暮らしを揺るがす「大問題の正体」を豊富なデータと事例から解き明かす。
(本記事は、岩城一郎『日本のインフラ危機』の一部を抜粋・編集しています)
私たちの生活に不可欠なインフラが、崩壊の危機にあり、それをどうにかするお金や人が足りていないらしいということが伝わったと思います。
問題が山積するように見えるインフラですが、私はこれを乗り越えるカギは「医療」にあると考えています。医療とインフラメンテナンスを重ねつつ、インフラがどのように劣化するか、どうすれば劣化を防ぐことができるかについて見ていきます。
医療とインフラメンテナンスのアナロジー
2024年の日本人の平均寿命は女性が87.1歳、男性が81.1歳で、世界有数の長寿国として知られています。しかし昔から日本人が長生きだったわけではなく、1950年前後の平均寿命は60歳前後でした。それからわずか70年で20歳以上寿命が延びたことになります。
その理由として、日本人は欧米人に比べ、脂っこいものを避け、野菜中心、魚中心の質素な食生活であることも挙げられるでしょうし、賛否はあってもほぼ全国民が保険制度に加入し、医療を受けられることも一つでしょう。
しかしながら、医療の高度化、すなわち不治の病と言われた病理が解明されたり、体に負担の少ない医療機器が発達したり、新薬も開発され、何よりドクターの知識・経験・技能が向上したことが主たる理由とすることに異を唱える方はいないでしょう。
であれば、インフラを長寿命化させるには、インフラの劣化(病気・ケガ)の原因と程度を探り(診断)、適切な処置を施す(治療)、インフラの医療、ドクターの養成が不可欠と言えるでしょう。
もちろん、人とインフラを同じ扱いにすることはできませんが、インフラのメンテナンスを説明する際、医療にたとえて話をすること(アナロジー)で理解を促すことができます(図表2-1)。
ある日、風邪っぽいな、おなかの調子が悪いなと感じたらどうしますか? 市販の薬を飲んだり、消化の良いものを食べて安静にしたりする人もいるでしょうし、お医者さんに診てもらう人もいるでしょう。その際、いきなり大学病院のような大きな病院に行くことはなく、通常は地域のかかりつけのお医者さんに行くと思います。
お医者さんに行くと最初に問診票を書かされます。氏名、年齢、性別、現在の症状、既往の病歴などです。かかりつけのお医者さんであればこれらがカルテとしてまとめられていることでしょう。
診察室に入ると、お医者さんはまず顔色や目、のどなどを目で見て(視診)患者さんの状態を把握します。次に胸やお腹に聴診器を当てて状態を確認します(聴診)。時に胸をたたいたり(打診)、お腹を触ったり(触診)して診察することもあります。
そして、具合が悪そうだなと思ったら、尿や血液の採取、レントゲンや超音波などの精密検査をおこない、体内のより詳しい情報を収集し、最終的に病名を診断し、今後の治療方針を説明します。治療は経過観察、投薬、場合によっては手術ということもあるでしょう。
これをコンクリート構造物に置き換えると、どうなるでしょうか。
まず技術者がインフラの状態を目視で点検します。次に構造物を触ったり、ハンマーでたたいたりすることでより詳細な状態を把握します。劣化が深刻化していると判断した場合、直径20ミリメートル程度の小径のコンクリートコアを取り出し、内部の成分を分析したり、X線や超音波などで内部の状態を非破壊で試験したりすることもします。そして劣化機構(病名)を解明し、今後の対策(補修・補強方法など)を提案します。
さらに、私の年齢になると年1回の人間ドックは必須ですが、道路橋の場合には5年に1回の定期点検が義務化されています。このように整理すると人の医療とインフラのメンテナンスは極めて似ていることがわかります。
またお医者さんには町医者のように地域の患者さんと実直に向き合う臨床医もいれば、大学病院のような大きな病院でたとえばがんのメカニズムを解明したり、新たな治療方法を開発したりするような病理学を専門とする医者もいます。
同じように、地域のインフラと実直に向き合う技術者もいれば、私のように大学でコンクリート構造物の劣化機構の解明や新しい補修・補強方法を開発する研究者もいる。インフラにおいても臨床と病理を両輪としたメンテナンスが求められているのです。
さらに、「日本はこのまま崩れ去ってしまうのか…意外と気づかない「インフラ危機」本当の実態」」では、いま大問題として迫っているインフラ老朽化問題をひきつづき見ていく。
