桑田佳祐、「人誑し / ひとたらし」がニューヨークに鳴る 邦楽ファンの心を射止めたアニメ『あかね噺』ワールドプレミアレポ
4月1日、ニューヨークのJapan Societyで、TVアニメ『あかね噺』(テレビ朝日系)第1話のワールドプレミアが開催され、桑田佳祐によるオープニング主題歌「人誑し / ひとたらし」が世界初解禁となった。『あかね噺』は、落語界の最高位“真打(しんうち)”を目指す女子高生の桜咲朱音(のちの阿良川あかね)の成長を描く物語だ。2022年に週刊少年ジャンプ(集英社)で連載がスタートし、コミックスは累計発行部数300万部を突破(2026年1月時点)。4月からアニメ放送も始まった本作の“初高座”の舞台は、アメリカ・ニューヨークだ。約400年の歴史を誇る落語、そして桑田佳祐の楽曲が、建国250周年を迎える多文化社会・アメリカの観客にどう響くのか。
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会場の入り口では、アニメイラストがあしらわれた手ぬぐいが配布され、客席では三味線の生演奏が来場者を迎える。開演時間になると、Japan Society映画部門ディレクターのピーター・タタラが登壇。「本作は、アニメーター、脚本家、声優の皆さん、全てがオールスターチームで制作されました。そして、主題歌は日本のレジェンドシンガー・桑田佳祐さんによるキャリア史上初のアニメ書き下ろし楽曲です」と話すと、会場からは期待のこもった歓声が上がった。
原作者・末永裕樹と、作画・馬上鷹将のメッセージ動画が上映された後、いよいよ本編が幕を開ける。主人公が“噺家モード”に入る瞬間、会場にはどっと笑いが広がった。アメリカの映画館では観客が声に出してリアクションする楽しみ方が一般的で、コメディを題材としたこの本作は、その土壌とも相性がいい。作中では落語の基礎を解説するパートも要所に盛り込まれており、初心者でも理解しやすい構成となっている。さらに、家族でカレーを美味しそうに食べる団欒のシーンでは、日本の家庭のぬくもりが丁寧に描かれ、落語の稽古を経て収録に臨んだ声優陣の演技も相まって、咀嚼音に至るまで臨場感にあふれていた。
主題歌「人誑し / ひとたらし」が流れ始める。浮世絵から8ビット風イラストまで、古今が交差するアニメーションに掛け合うように渋く力強い歌声が重なり、リズムに身を委ねる観客の姿も見られた。日頃から落語の寄席に足を運んでいる桑田は、アニメの告知映像にキャラクターとして登場し、自らアフレコを行うほどの本気度を示す。歌詞には古典落語の演目名を取り入れるなど、音楽面から作品世界を彩っている。
上映後の大喝采の中で、カナダ出身の落語家・桂三輝が登場し、古典落語 『まんじゅうこわい』を披露。英語で日本文化の解説を交えながら展開される高座は、まるで先ほどのアニメで学んだ世界の続きを見ているかのようで客席からは“なるほど”と頷く声も聞こえた。さらに、『あかね噺』の落語監修を務める林家木久彦による声優陣への稽古風景も映像で紹介され、制作の裏側にも光が当てられた。
終演後、笑顔で会場を後にする観客に話を聞くと、「人誑し / ひとたらし」は多くの邦楽ファンの心を射止めていたようだ。「80~90年代のJロックやJパンクが好きで、その雰囲気をしっかり感じた。彼の楽曲はプレイリストで聴いてきたけど、アニメの主題歌とは意外だった!」「曲が流れた瞬間、友人と顔を見合わせて『今の聴いた? やばいね!』ってなりました。Jポップが好きでよく聴きますが、今日聴いた曲はロックな要素もあって新鮮でした」といった声のほか、「カラフルな曲で、アニメの世界観にぴったり」「劇中音楽や、落語シーンの盛り上がりを引き立てる演出も印象的」など、作品のサウンド面への評価も高かった。また、落語に初めて触れた観客からは、「この文化が世界に広がっていくきっかけになると感じたイベントだった」「スタンダップコメディに通じるスキルを感じたけど、400年も続いているとは知らなかった。日本の歴史は深くて奥行きがあるなと思った」など、日本文化への関心を喚起する機会にもなっていた。
映像と音楽、そして生の語りが織りなす空間は、観客の笑い声さえも巻き込んで作り上げられた特別な体験となった。スタンダップコメディが日常の娯楽として根付くアメリカで、日本の伝統芸能・落語の魅力が、アニメと主題歌を通して粋に響いた夜であった。
(文=Megumi Hamura)
