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公園や森で足元を見ると、ころころ転がっているまつぼっくり。
じつは、まつぼっくりは松の実や種ではありません。

【写真を見る】まつぼっくりは「松の実や種ではない」では、何? 独特な構造は湿度応答型建材やバイオミメティクス研究にも応用

では、いったい何なのでしょう。

生物に詳しい東洋産業の大野竜徳さんに聞きました。

──まつぼっくりは、何なのでしょうか。

(東洋産業 大野竜徳さん)
「まつぼっくりは、正確には、マツ属Pinusに属する植物の雌花が成熟したもので、種を守る殻。種子を守って、遠くに運ぶための種子散布装置です。

うろこ状に見える一枚一枚は「鱗片(りんぺん)」と呼ばれ、その基部に通常2粒ずつ種子が入っています。

種子が成熟し、乾燥条件が整うと、鱗片が開き、風に乗って種が散布されます」

まつぼっくりを植えたら?

──まつぼっくりを植えたら、松が生えるのでしょうか?

(大野さん)
「私たちが地面で拾うまつぼっくりは、すでに子育てを終えた空のゆりかごで、任務完了後の姿なのです。だから落ちたまつぼっくりを植えても松は生えてきません。

まつぼっくりの任務は短期決戦ではなく、壮大な1~2年がかりのプロジェクト。庭木や公園でよく見かけるアカマツやクロマツでは、春に受粉してから成熟するまでにおよそ2年かかります。

1年目は小さく緑色で、硬く閉じたまま。2年目の秋から冬にかけて褐色に変わり、ようやく種子の散布の準備が整います。

私たちが拾う一つ一つは、目の前に落ちてきたとしても。2年以上も樹上で風雨に耐えてきた長期熟成品かもしれません。森の時間は、なかなか気が長いのです」

まつぼっくりが動く?

(東洋産業 大野竜徳さん)
「その任務完了のまつぼっくり、よく観察してみると『動いている』ことがあります。気の長い話ですが、かさの開き方が日によって違うことに気づくかもしれません」

「まつぼっくりは、天然の湿度計でもあります。乾燥した日はぱっくり開き、雨の日はきゅっと閉じる。これは生きているから動くのではありません。

構造そのものが湿度に反応するのです。まつぼっくりの鱗片は二層構造で、外側は水を吸いやすく膨張しやすい層、内側は水の影響を受けにくい層になっています。

湿度が上がると外側が膨張して内側に曲がり、乾燥すると縮んで外側に反ります。いわば天然のバイメタル。

エネルギーを使わない湿度応答装置です。この動きはマツから切り離されても構造が壊れない限り動き続けます」

濡らせば閉じ 乾かせば再び開く構造

(東洋産業 大野竜徳さん)
「地面に落ちたまつぼっくりでも、濡らせば閉じ、乾かせば再び開きます。

これは細胞が生きているからではなく、組織の物理的性質によるもの。構造がそのまま機械なのです。

なんとこの仕組みは湿度応答型建材やバイオミメティクス研究(生物模倣技術)にも応用されています。足元の自然、なかなかのハイテクなのです。

せっかちな観察をするには、まつぼっくりを霧吹きで湿らせたり、ドライヤーで乾燥させたりすると目の前での動きがみられます」

なぜそんな構造に?「生存戦略のため」

──なぜ、まつぼっくりが湿ると閉じて乾燥すると開くのでしょうか?

(東洋産業 大野竜徳さん)
「これは明確な生存戦略です。雨の日に種を出しても、重くなって遠くへ飛ばず、地面が湿り、腐敗リスクが高まります。

だから、まつぼっくりは雨の日にはかさをキュッと閉めて種が濡れにくく、落ちにくくしています。そして乾燥するとかさを開き始めます。

軽くなった種を、風に乗せられる条件でだけ放出します。動けないマツにとって、湿度は発射許可信号です」

持ち帰るときは虫に注意して

(大野竜徳さん)
「そんなまつぼっくり。クラフト素材や玄関飾りとして人気のまつぼっくりですが、形や重さの違いを比べ始めると、つい品定めしたくなりますし、小さなお子さんにとっては宝物です。

ただし、外から持ち帰るとき、まつぼっくりには虫が同伴していることがあります。まつぼっくりは隙間だらけで乾燥しにくく、天敵も少ない。昆虫にとっては快適な集合住宅です。

特におうちに連れて帰りたくない、おうちの中で増えてしまうリスクのあるシバンムシ類、マダラメイガ類、ダニ、チャタテムシなどが潜んでいることがあります。

この時期、まつぼっくりは拾ったときは静かでも、暖かい室内に入ると『春が来た』と活動を始める。こんな時限爆弾になってしまうこと、これは珍しくありません。

拾ってきたら、放置が一番危険です」

安心して楽しむには?

──安心して楽しむには、どうすればよいでしょうか。

(大野さん)
「害虫やカビに頭を悩ませないために、持って帰った後に安心できる私のおすすめの処理をお伝えします。

【乾燥】
新聞紙などに広げ、屋外やベランダで数日乾燥。
鱗片が大きく開くのを確認してください。
この時、開きが悪いものは損傷しているものです。

【軽く振ってトントン】
まつぼっくりについた砂や枯草、ゴミなどをかるく払い、軽く叩いて表面や内部のゴミを落とします。

【熱湯処理】
汚れてもいいバケツに入れ、全体が浸かるよう熱湯を注ぎ数分。
浮くので重しを置きましょう。これで害虫やカビともおさらば。

※電子レンジは発火の危険や電子レンジへのにおいうつりのリスクがあるため避けてください。
※鍋での煮沸はヤニや匂いが付着するため食品用は非推奨です。

【再乾燥】
風通しの良い場所で数日乾燥。自然にかさがぱっくり開けば完了です。
このひと手間で、害虫・ダニ・カビのリスクはほぼ抑えられます。さらにまつぼっくりは燃料としても優秀です。アウトドア派にはよく知られていますが、まつぼっくりは優秀な着火剤です。松脂(まつやに)を多く含み、表面積が広く、空気を含みやすい。燃える条件がそろっています。

せっかくのバーベキューや焚火なのに着火剤を忘れた!そんな時は乾燥したまつぼっくりをさがして代用できます。

最初の火付きさえできれば、乾燥しているものは市販着火剤並みの着火力です。

(ただし室内使用では煙とヤニに注意なのと、まつぼっくり自体を燃やし続けると食品がマツくさくなってしまいます)

(東洋産業 大野竜徳さん)
「まつぼっくりは2年かけて作られた、種のための精巧なカプセル。
湿度に反応する、天然のスマートデバイス。足元のまつぼっくりにも不思議はいっぱい詰まっていますね。冬でも楽しめるクラフト材料や玄関飾り探しを楽しむのもいいかもしれませんね」