600円でシール売ってよ…〈元・平成女児〉37歳義妹からの図々しいお願い。42歳女性が「教師として」「母として」悩んだ〈シル活〉との距離感
シール交換をめぐるブームが、子どもたちの間だけでなく、大人世代にも広がっています。立体シールは入手困難となり、フリマアプリでは高値で取引されるケースも珍しくありません。そんな中、「600円でシールを売ってほしい」という義妹からの依頼を受けたのが、小学校教員の依田千夏さん(42歳・仮名)でした。過熱する流行を前に、教師として、そして母として、どこで線を引くべきなのかを考えることになります。
「ついにきた」思わず身構えた、長女の“シル活”
「ママ、シール帳が欲しい」
昨年11月ごろ、小学3年生の長女からそう言われたとき、山梨県に住む小学校教員の依田千夏さん(42歳・仮名) は、正直なところ「ついに来たか」と感じました。千夏さんは長女と次女、夫の4人家族です。千夏さんは現在育休中で、4月に復帰予定です。
長女の周囲で「シール交換」が流行っていることは、以前からうすうす耳にしていました。
長女が欲しがっていたのは、いわゆる“ツヤがあってぷくっとした立体シール”でした。文房具店や雑貨店をいくつかのぞいてみましたが、昨年の時点では、目立った商品は見当たりませんでした。
試しにフリマアプリを確認すると、千夏さんは思わず驚きました。本来なら1枚約500円のシールが1枚1,000円前後で取引されていたのです。
さらに、クリスマス前。娘がサンタクロースへの手紙に書いた願いは、「ボンボンドロップシールが欲しいです」でした。
駅近くのお店をのぞいても、ネットを見ても娘が欲しがっているシールはありません。どうしたものかと悩んでいたところ、偶然SNSで見つけた抽選販売に応募し、運よく当選。無事に長女へプレゼントすることができました。
フリマアプリでの高額取引を見たあとだっただけに、千夏さんの家庭では、「さすがにフリマアプリでシールを買うのはやめよう」と家族で話し合い、ルールを決めました。そこで、家庭内の“シール活動(シル活)”は、いったん落ち着いたように見えました。
お正月に起きた、予想外の出来事
ところが、お正月に都内から義妹一家が帰省してきた際、状況は変わります。義妹(35歳)の娘は小学4年生で、シール帳を持参し、自慢のコレクションを見せてくれました。義妹はちょうど子供の頃にシール交換を行っていた、いわゆる「平成女児」。母娘で「シル活」にハマっていました。
数日後、義妹から千夏さんに、こんな連絡が届きました。
「この前、○○ちゃん、可愛いシール持っていたよね。売ってくれない? 600円払うから」
もともと、千夏さんと義妹の関係は、決して近しいものではありませんでした。「うちはパワーカップルだから」が口癖の義妹一家は共働きで世帯年収1,800万円。千夏さんが聞いたわけではなく、義妹が明かしてくれました。「お金の話をここまであからさまにするなんて」と千夏さんは内心、義妹との価値観の違いに戸惑っていました。そのため、できれば必要以上に関わらずにいたい相手だったのですが、長女と義妹の娘は従姉妹同士で年齢も近いため、行事のたびに顔を合わせる関係は続いていました。
いったんは娘のシールを売ることを断ったものの、義妹からは、「そっちの近所のお店にシールが入荷するらしいんだけど」といった連絡が、たびたび届くようになりました。育休中で自宅にいる時間が長いことから、「時間に余裕がある」と受け取られていた可能性もあります。
義妹は、「うちは共働きで、入荷しても買いに行けない」「お金を払うからいいでしょ?」といった形で購入を頼んできました。
それに対し、千夏さんはこう返しました。
「それでしたら、フリマアプリで購入したら? たくさん出品されていますよ」
すると、「ケチだね」という言葉が返ってきたといいます。
このやりとりをきっかけに、千夏さんは義妹との直接の連絡を控えることにしました。これまでは呑気に「パパの頃はな、ビックリマンシールが流行ってたんだぞ」と娘とシール談義していた夫もさすがに頭にきたようで、「今まで悪かった。あいつ、やっぱりおかしいわ。距離を置こう」と千夏さんに謝ってきました。現在は、必要な連絡がある場合は夫を通す形に切り替え、LINEもブロックしています。
「子ども同士の付き合いと、大人同士の距離感は別だと思いました。シールの話は、その線引きを考えるきっかけになりました」
千夏さんはそう振り返ります。
「平成女児」ブームと、過熱するシール市場
こうした立体シール人気の背景には、いわゆる「平成女児」ブームがあります。1990年代後半〜2000年代に小学生だった世代のカルチャーが再評価され、シール交換やキャラクターグッズへの熱量が、親世代にも波及しています。「平成女児」は、2025年の新語・流行語大賞にもノミネートされるなど、社会的な注目を集める言葉となりました。
実際、矢野経済研究所が2025年に発表した調査によると、2025年度の国内キャラクタービジネス市場規模は2兆8,492億円に達する見通しです。ファンシー系キャラクターや立体グッズは好調で、キャラクターと日常生活が密接につながる「タッチポイント」は、年々増えています。
一方で、生活雑貨大手の「ロフト」は、2月4日、全国的な品薄と混雑防止のため立体シールの販売を当面中止すると発表。背景には立体シールの人気過熱と入荷情報を聞きつけた購入希望者同士や店舗とのトラブルがあります。
千夏さんは、小学校教員として、そして親として悩んでいます。
「SNSを見ていても、店舗でトラブルになったとか、カフェで親が見ているところで子供同士でシール交換をしていたら、見知らぬ人から話しかけられたというエピソードが次から次へと出てきて頭が痛いです。もちろん、楽しんでシール交換している人たちが大半だと思うのですが……。長女も学校で一部のお友達がトイレでこっそりシールを交換しているのを目撃したらしく、復帰したら教師としても指導していかないとと今から思っています」
現在、家庭では「シールの売買はしない」「交換は放課後に友達同士で行う」「困ったことがあったら必ず相談する」「どうしても手元に残しておきたいシール帳と、交換用のシール帳を分ける」といったルールを設けました。
ルールを話し合う中で、長女とも「大人も子どもも大変だね」と言葉を交わし、親子で状況を整理する時間になったといいます。
[参考資料]
矢野経済研究所「キャラクタービジネスに関する調査を実施」
