今田美桜×北村匠海は最高の夫婦だった 『あんぱん』異例の“2人”芝居となった最終回
のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)は共同体だった。NHK連続テレビ小説『あんぱん』最終回を観て、改めてそう強く感じた。
参考:『あんぱん』特別編、全4回で放送 高橋文哉×原菜乃華×大森元貴×古川琴音が主人公に
『あんぱん』放送開始以前から注目されていたのは、やなせたかしとその妻・暢をどこまで描くのか、ということだった。2024年4月に開かれた嵩役の発表会見にて、制作統括の倉崎憲は最終盤は『アンパンマン』を生み出すところまでは描きたいとして、配役も今田と北村のままの予定だということを答えていた(※1)。その後、『あんぱん』の放送が始まり、脚本の中園ミホの合同取材の場で、記者から「思い描いている最終回の構想」を聞かれ、「それはまだ話せません! ここでお話ししても、書いてるうちに変わっていってしまうことがあるので、嘘をつくわけにはいきませんし……」としながらも、「ありありと一つのシーンが浮かんではいるんですけど」と胸の内を明かしている。(※2)
やなせたかしよりも先に暢が先立っているのが史実としてある。晩年に暢がたかしの創作活動を支えられる人物として声をかけたのが、現在のやなせスタジオ代表取締役の越尾正子氏であり、劇中の最終盤にて登場する星子(古川琴音)がその人に当てはまる。越尾氏がやなせスタジオで働き始めてから1年あまりで暢は亡くなってしまったそうだ。けれど、『あんぱん』では退院したのぶが嵩に自分がいなくても大丈夫かと尋ね、今年の桜は見られないかもしれないとつぶやきながらも、奇跡が起き、それから5年間のぶは病気がすっかり治ったかのように元気に暮らす様子が映し出される。
“受け継ぐもの”として星子が嵩やのぶのことを述懐する、言わば『らんまん』(2023年度前期)のラストに似たパターンもできたのではないかと想像するが、そうはせず、のぶと嵩が手を繋ぎながらともに歩いていくシーンで、物語は幕を閉じる。愛犬家であった夫妻が柳井家に迎えた犬など、史実をなぞりながらも、命が終わる描写は描かなかった。それは愛のあるフィクションであり、『やさしいライオン』に寄せれば“メルヘン”なラストと言えるのかもしれない。
特筆すべきは最終回に、のぶと嵩以外のメインキャストが一切登場しないこと。クレジットものぶと嵩に取材する「記者」、入院中にのぶの世話をする「看護婦」のみ。後日放送されるスピンオフ特別編、特に星子が主人公の「受け継ぐもの」に、そこを補完する意味もあるのかもしれないが、やなせたかしが自身と暢の関係性を「共同体」と称していたことを、2人しか描かないことで表現していたのではないかと、筆者は受け取った。
『あんぱん』で6度目の共演となる今田美桜と北村匠海。最終回直後の『あさイチ』(NHK総合)プレミアムトークに登場した今田に、北村は「ともに『あんぱん』で、のぶちゃんとして生きてくれてありがとうございました」とコメントを送り、今田の芝居に驚き、悲しみを受けたりしながら、1年間にわたる撮影期間を歩んできたことを振り返っていた。クランクアップの挨拶で大きな瞳から涙を流す今田を、優しい眼差しで見つめる北村の姿に、2人もまた役者として共同体と言えるような域に達するまでの関係性にまで辿り着いたのではないかと、感じ取れた。
これは筆者個人の話になるが、幼い頃、初めて喋った言葉が「アンパンマン」だったと、よく両親から聞かされていた。『あんぱん』の最終週では、テレビアニメ『それいけ!アンパンマン』が完成するまでが描かれるが、アニメ放送開始が筆者が生まれた1988年だったことを知り、自分自身が劇中に登場する子供たちの一人だったのだと気づかされた。
『それいけ!アンパンマン』の第1話「アンパンマン誕生」で、アンパンマンが初めて顔をあげるのは、お腹を空かせて泣いているチーズ。愛犬家であるやなせたかしの愛情が滲む。ジャムおじさんの「ひもじい人には遠慮なく食べさせてあげなさい」というセリフには、やなせたかしが戦争経験から至った思想、逆転しない正義のメッセージが込められている。アンパンマンに新しい顔を与えるジャムおじさんの「今までよりももっと高く、遠くに飛べるだろう」という言葉に、献身的に嵩を支えたのぶを思い出しながら、その真っ直ぐで、普遍的なメッセージ性に、アンパンマンがこれからも世代を超えて愛され、未来へと受け継がれていくのだと改めて確信した。
参照※1 https://realsound.jp/movie/2024/04/post-1645104.html※2 https://realsound.jp/movie/2025/05/post-2025025.html
(文=渡辺彰浩)

