60代が伊豆の森に建てた、隠れ家のような別荘「ずっといても飽きない居心地」
樹木に囲まれ隠れるようにひっそりとたたずむ、隠れ家のような高原の別荘を紹介します。建主は東京に住む60代の夫婦。自宅ではかなえられなかった、思いきったプランを実現したいと建築家の廣部剛司さんに設計を依頼しました。どこにいても森の存在を間近に感じられ、大きな本棚を中心に据えた建物は、まさに森の図書室。ここにしかない静かな時間が流れています。

美術館のような空間、ずっといても飽きない居心地
Yさんの別荘 静岡県 家族構成/夫60代 妻60代
設計/廣部剛司建築研究所

伊豆半島東部の高原地帯は深い森に囲まれ、温泉をはじめ豊かな海の幸、山の幸に恵まれた地域。何度もゴルフや温泉に訪れ、友人も住むこの地に土地を購入し家を建てたYさん。
「都内の自宅を建てたときにかなえられなかったプランを実現したいのと、自分の建てたい家のイメージをわがままに形にしてもらいたかった。自宅を新築したときの過程がとても楽しかったので、それをもう一度味わいたかったんですね」(Yさん)
今は別荘として使用していますが、ゆくゆくは東京と伊豆を行き来するための拠点となる、住処としても考えているのだとか。
設計を依頼した先は廣部剛司さん。光と影を巧みにあやつり、形にとらわれない自由な空間造形が特徴の建築家です。Yさんが廣部さんに伝えた要望はちょっと抽象的。
「森を切り開いて建てるのだから、それにふさわしい建物を。家というよりは美術館のような大きな空間で、ずっとそこにいても飽きない居心地のよさも。言葉で伝えられることには限界があるので、イメージブックをつくってお渡ししました。廣部さんはそれを汲み取って、提案してくれたと思います」(Yさん)

土地を検分した廣部さんは、うっそうと生い茂る森の中にある、ヒメシャラの大木の特別な存在感に気づき、この木を伐採せずに共存させる方法を模索しました。
その結果木の周りに弧を描くように建物を配置し、屋内は3つのリビング、キッチン、ダイニング、寝室、ゲストルーム、サニタリーなどで構成されています。
「室内から正対して庭を見るというより、いつも庭の景色が自分に寄り添っているように感じる空間を意識しました」(廣部さん)。RC打ち放しの壁は型枠に杉板を浮造りにしたうえで焼き加工を施したもの。硬質な素材に表情を与えています。
ヒメシャラの大木を眺めながら味わう非日常時間

玄関を開けると目に飛び込んでくるのは窓の外の自然の森の風景。空間は左右に分けられ上手は洗面浴室と寝室、下手にはキッチン、ダイニング、1階のリビング。階段をスキップした先はテラスにつながるリビングで、さらに上がると図書室のように膨大な本を収納できる書棚のある2階のリビングと、奥に続くゲストルームが。
仕切りがなく、上下階が吹き抜けでつながる壮大な空間はまるでホテルのよう。
庭に向いた大開口は建物の内と外の境界を曖昧にし、どこにいても外の緑に寄り添われているような安らぎと居心地のよさを感じさせます。

「この提案は一発でOKです。口には出さなかったけど、内心ではちょっとねじれた建築物を期待していたんです。想像以上の空間と細部の仕上げへのこだわりがあってとてもうれしかった」(Yさん)。

ひときわ目を引くのは壁の長辺に造作された本棚。「自宅にたまった書籍や好きで集めたガラクタを並べたかった。今は月に1、2度訪れては温泉やゴルフに出かけ、好きな場所で本を読んではごろごろしています。じつは家族には設計中のプランをなにも相談しなかった。長男家族や妻が友人と訪れたりしていますが、案外満足しているようですよ。直接は言われないけどね」(Yさん)。
Yさんの思いが詰まった隠れ家のような別荘。ここには心と体を休められる静謐な時間が流れ、ぜいたくな非日常を満喫する仕掛けにあふれています。
間取り図と配置図、周辺環境について
●間取り図と配置図


隣地との関係性も考慮して配置された建物は、半円状の弧を描くようにスペースを分節。室内の仕切りは最低限にとどめ、1階と2階が自然につながる大きな空間を堪能できるプランです。
●周辺環境

庭側から見た外観。伐採せずに残したヒメシャラと数本の木を囲むように建物が配置されています。
「うっそうとした樹木で覆われた敷地だったので、森の風景を生かすアイデアを考えました。森の木を尊重し、少し遠慮しながら建てるという感じですね。建物のプロポーションは初めから決まっていたわけではなく、アイコンとなるヒメシャラの存在に気づいたところから形が導き出されたんです」(廣部さん)。

木を中心にして弧を描くように、左右に建物が配されているのがわかります。

玄関側から見た外観。敷地は車の行きかう道路沿い。近隣にはレストランや観光施設もあるため小さな窓のみにし、室内からの視界と意識をカットしました。敷地の傾斜を生かし、地面から浮いて見えるように建物を設計しています。
緑に寄り添われながら、非日常の時間を慈しむ空間

中2階のリビングとつながるテラス。リビングとの段差を設けていないこのテラスは外と内をつなぐバッファゾーンとして機能し、窓を開け放てば室内でも外にいるような気分を味わえます。

1階と2階はこの吹き抜けで一体化。天井の形がとても複雑な設計ですが、梁を表しにした天井を目で追っていくと少しずつズレていく屋根の形がわかります。

玄関隣に位置する洗面と浴室。壁面は揺らぎのある光沢とそこはかとなくノスタルジックな雰囲気を持つサブウェイタイル。浴槽と室内との仕切りはガラスなので、浴室内からも庭の景色を楽しめます。

コンクリートを立ち上げてつくられたオリジナルのキッチン。奥に見える冷蔵庫にはルーバーのドアがついていて、閉めればその存在感がなくなります。

ゲストルームから見下ろした寝室。窓から入る朝日で目覚める極上空間です。
この家のデータ&使われている素材と設備
敷地面積/1124.35?(340.72坪)
延床面積/197.16?(59.75坪)
1階/110.92?(33.61坪)
2階/86.24?(26.13坪)
用途地域/無指定
建ぺい率/20%
容積率/60%
構造/混構造(RC造+木造軸組工法)
素材
[外部仕上げ]
屋根/ガルバリウム鋼板平葺き
外壁/湿式外断熱、ガルバリウム 鋼板張り
[内部仕上げ]
1階 床/タイル 壁/本実型枠コンクリート打ち放し 天井/コンクリート打ち放し
2階 床/オーク 壁/構造用合板、シラス壁 天井/野地合板張り
設備
厨房機器/パナソニック
衛生機器/T form、カルデバイ、CERA、LIXIL、デュラビット
窓・サッシ/オリジナル
設計/廣部剛司(廣部剛司建築研究所)担当・齋藤育江、牧野里咲
