1日8回以上の自慰行為、性行為中の流血プレイ…セックス依存症者の異常行為に隠されたメッセージとは から続く

【写真】この記事の写真を見る(3枚)

 2018年、WHO(世界保健機関)が定める精神疾患の国際疾患分類が「ICD-11」に改定され、新たに「強迫的性行動症」という病名が加えられた。一つひとつのケースにより、それが疾患かどうかの慎重な判断が必要ではあるものの、「性的嗜癖行動」が治療の対象になったということは、それだけ病に苦しんでいる人が多いともいえるだろう。

ここでは、今まで2000人以上の性依存症治療に関わってきた専門家、斎藤章佳氏による著書『セックス依存症』より、さまざまな性依存症の実態を引用し、紹介する。

◇◇◇

【40 代男性・Gさんのケース】オンラインセックスへの耽溺 〜コロナの時代のセックス依存症〜

 Gさんは、15 年間連れ添った妻と離婚の危機に瀕している。サイバーセックスがやめられないのだ。

「妻への愛情はあるが、さまざまなプレイに興味を持ってしまった。風俗に行きたいが金銭的に厳しいので、無料のサイバーセックスで我慢していたらやめられなくなってしまったんです」とGさんは語る。

 毎日のようにオンラインで女性と知り合い、ときには普段の生活では関わりのない

 20 代の女性とも卑猥なやり取りを重ねたGさんは、文字どおり寝食を忘れてサイバーセックスにのめり込んだ。

 睡眠時間が極端に短くなったGさんは、仕事に遅刻したり大事な約束をすっぽかすことも少なくない。さらに精神的に不安定になって心身ともに体調も崩し、ついには入院したこともあるという。


©iStock.com

 また先日はSkypeで知り合った女性と実際に会って肉体関係に及び、それを知った妻は激怒。Gさんに三行半を突きつけながらも、彼の身を案じてクリニックに相談に来た。

コロナ禍で増加したサイバーセックスへの依存

「サイバーセックスは、セックス中毒のクラック(安価な濃縮コカイン)だ」

 これは、アメリカにある依存症治療専門施設の臨床責任者、パトリック・カーンズが述べた言葉です。

 インターネット黎明期から現在まで、世界中にはサイバーセックスを楽しむ人々が大勢います。サイバーセックスの明確な定義はないものの、掲示板やコミュニティなどで知り合ったふたり以上の参加者が、インターネットのチャットや動画を介して性的なメッセージを送り合い、性的興奮を得るものです。

 サイバーセックスではいわゆる「濃厚接触」をしませんし、妊娠や性感染症の心配もありません。相手をリスクに晒すことなく性的充足感を得ることができます。またSkypeやZoomなどコミュニケーションツールが普及し、ほとんどの場合は無料で行える手軽さもあります。

 最近はオンラインセックスとも呼ばれ、2020年、世界中を襲った新型コロナウイルスの影響で外出自粛で巣ごもりを余儀なくされた人のなかには、LINEやSkype、Zoom などを使ってサイバーセックスに興じた人も少なくないようです。遠距離のカップルがコミュニケーションを育んで楽しむ分にはなんら問題のない行為ですし、健全なサイバーセックスは違法ではありません。

「夫がサイバーセックスにのめり込んで、セックスレスになってしまった」「妻がマスターベーションしているシーンを自撮りして、夜な夜な配信しているようだ。日中も部屋からまったく出てこない」「娘が知らない男性とネットを通じて知り合って、相手の要求に応じるなどの仮想のセックスをしてお金を稼いでいるようだ」など、相談内容は多岐にわたります。

サイバーセックスの中毒性の高さ

 サイバーセックスはその手軽さゆえ、当事者は睡眠時間を削ってでも耽溺し、最悪の場合はゲーム障害のように一日の大半をその行為に費やし、途中で切り上げられない状態に陥ります。周囲が強制的にやめさせようとすると暴力的になり、警察沙汰になったケースもありました。その結果として、生活習慣が乱れて昼夜逆転になったり、人間関係や社会生活が破綻することもあるのです。

 アメリカでは、「ある会社経営者の男性が、自らの会社の新規株式公開の日に6時間もオンラインポルノに没頭していた」というケースもあったようです。それほどサイバーセックスは中毒性が高いことがうかがえます。

 すでにセックス依存症の問題を抱える人が、インターネットの特殊なコンテンツを利用することで、さらに症状を悪化させることもあります。

 また、サイバーセックスが当事者の社会生活に悪影響を与えるだけでなく、性犯罪につながる可能性もあります。オンラインでは簡単に疑似セックスができるため、「世の中の女性はいとも簡単にセックスさせてくれるし、実は多くの女性がそれを望んでいるのだ」などという当事者にとって都合の良い認知の歪みが瞬く間に形成され、性犯罪に発展していった例もあります。

児童ポルノへつながることも

 さらに児童ポルノとの関係性も無視できません。最近では、オンラインゲームやSNS などで知り合った未成年にインターネットを介して近づき、わいせつな自撮り写真を送るように求める事件が多発し、社会問題化しています。

 時代や技術の進化に伴って、依存症も多様化していきます。もちろんインターネットがない時代には、「サイバーセックス依存症」という言葉はありませんでした。テレビゲームやスマホがない時代にゲーム障害がなかったのと同じです。

 そして今後も、また新たな依存症が生まれていくことでしょう。とくにコロナ禍以降は、人々の生活様式も変化していますから、依存症の分野でも大きな変化があるはずです。トレンドは変わっても、人々が抱える心の問題には共通している部分が多いものですが、我々臨床家も時代に適した柔軟な対応方法や治療法を身につけていかなければならないと考えています。

【30代男性・Kさんのケース】「かわいそう」な息子と関係を持つ母親 〜障害者と性的虐待〜

 Kさんは、子どものころから統合失調症を患っていた。

 あるときKさんは幻覚や幻聴がひどくなり、母親に連れられてクリニックに来院し、デイケアに通うようになった。面談時などに性的な話題を意図的に女性スタッフに振ることが頻繁にあり、それ以降は男性スタッフが面談をすることになった。

 そのなかでよくよく話を聞くと、Kさんは風俗通いをやめられず、消費者金融からも借金を重ねており、性依存症の問題を併発していることが判明。Kさんは母子家庭で、現在治療に専念しているので定期的な収入はない。風俗に行くためのお金は主に母親が支払っているという。

 そしてKさんと面接を重ねるたびに、さらに明らかになったことがある。彼は中学時代から母親と性関係を持っていたというのだ。Kさんは、「イヤだったけれど、子どものころからそうされていた」と面接で口にしていた。

 実父や義父による娘への性的虐待については裁判なども行われており、徐々にメディアでも報じられるようになってきましたが、母から息子への性的虐待も存在します。

 統合失調症を患っていたKさんの場合も、母親からの見えない暴力を受けていました。統合失調症とは、幻覚や妄想、まとまりのない思考や行動、意欲の欠如などの症状を示す精神疾患です。原因はまだはっきりとわかっていませんが、脳内で情報を伝える神経伝達物質のバランスが崩れることや、大きなストレスがかかることなどが関係するといわれています。

子を思うが故のケアが虐待になってしまうことも

 母親はそのような精神疾患のある息子を熱心にケアし、世話を焼いていました。母親は「こんな病気になったのは私にも責任がある。障害のある子どもは将来、恋愛や結婚もできないのではないか」と息子の将来を悲観して、性処理の相手をしていたのです。

 しかし息子を「愛している」とはいえ、良かれと思って性的なケアをしたことが、結果としてKさんの外傷体験となり、その影響で借金をしてまで風俗通いがやめられなくなっているのは明らかです。Kさんは、「風俗で性行為をして、いろいろ話を聞いてもらえると安心する」と言います。

 統合失調症を患っていても、自立して、恋愛や結婚をしている人はもちろんいます。人生の早い段階から母親が息子の将来を悲観し、性処理の相手をする行為は性的虐待であり、息子の自立を阻むだけでなく、トラウマを植えつけてしまいます。

 これはかなり極端な例かもしれませんが、子どもを愛するがゆえに親が行うケアも、行きすぎると「見えない暴力」に転じてしまうことがよくわかります。

(斉藤 章佳)