(山田 珠世:中国・上海在住コラムニスト)

 新型コロナウイルスのクラスター(集団感染)が時折起きつつも、現時点では感染の抑え込みに成功していると言える中国。筆者が住む上海では、地下鉄やバスなどではマスク着用が依然必須となっているが、公共交通機関以外ではマスクなしで外を出歩く人もちらほら見かけるようになった。

 そんな上海で、中国人の友人らと話をしていてよく話題になるのは「コロナが終息したら、どこに旅行にいくか」。国全体の経済発展とともに、ここ数年、旅行は中国人の趣味のようなものになりつつある。

 コロナ前、上海市民の旅行先と言えば、3連休程度の短い休暇だと、市内か、ちょっと遠出をして浙江省、江蘇省辺りを検討する人が多かった。一方、子どもの夏休みや冬休み、国慶節(建国記念日)など1週間を超える長期休暇になると、海外旅行を計画する人が圧倒的に増える。さて、そんなときはどこを選ぶ人が多いのか?

 答えは日本である。

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1年前のきょうは・・・とSNSに書き込み

 日本インバウンド・メディア・コンソーシアム(JIMC)が先ごろ、中国のインターネットユーザー145名を対象に行った意識調査によると、「新型コロナウイルス肺炎の終息後に行きたい国」として「日本」と答えた人の割合は44%で、首位だったという(2位はタイで12%)。旅行先としての日本の人気は健在なのだと改めて思った。

 コロナ禍を受け海外旅行に出かけることはできないなか、中国のチャットアプリ「微信(WeChat)」のモーメンツでここ数カ月、中国人の友人らのこんなつぶやきをよく見かけていた。

「突然思い出したけれど、もし新型コロナウイルスが発生していなければ、今ごろは日本で桜の花を見ているはずだった」

「去年の今ごろは日本でアジサイ鑑賞を楽しんだ。なのに今年は・・・」

「きょうは久しぶりに外食した。思えば去年のきょうは日本で・・・」

「あー、そろそろ日本に旅行に行きたい」

 みんなこんなつぶやきとともに、日本にいる友人に撮ってもらった写真や、1年前に日本で撮った写真をアップしている。

 中国で新型コロナウイルスによる感染が広がっていた当初はそれどころではなかったから、状況が落ち着いてきたことの証拠でもある。旅行のことを考える余裕が出てきているのだ。

アニメの舞台を訪れたい!

 コロナ前、長期休暇になるとかなりの割合で中国人の友人・知人が日本に旅行していることに驚かされたものだ。

 ある友人(女性)は、年に数度の長期休暇には必ず家族で日本旅行に出かけると語っていた。日本に旅行に行っては微信のモーメンツに写真をアップし、「〇〇の攻略法教えます」などと、訪れた都市名入りのコメントを残す。その都市に行く計画のある人が彼女に連絡すると、おススメの観光地や食べ物、乗り物の乗り方などをまとめた“観光旅行ガイド”をくれるのだそうだ。

 また別の知り合い(男性)は、日本のアニメを見て、その舞台となった瀬戸内海の小さな港町にぜひ行ってみたいと、筆者に「宿泊先を探して!」と頼み込んできた。彼も家族で何度も日本に行ったことがあり、「特に好きなのは九州」という。彼が指定してきた瀬戸内海のその小さな町は、宿泊施設自体があまり多くなく、探すのに苦労した。でも彼はそんなところがいいらしく、とても魅力的だと言っていた。

 2人とも日本語はまったく話せないが、逆にそれを楽しんでいる。英語やジェスチャーなどで何とか現地に住む日本人と交流するのが楽しいという。

 一方、「あなたが今度日本に帰省するときには私も一緒に連れて行って」と言う友人も少なくない。何度か日本を旅行したことがあるが、観光客が行く場所では物足りない。日本人が知っている穴場に行きたいと思っているのだ。

「今年は日本に行けないな・・・」という声もよく聞く。いつになれば日本に旅行に行けるのかと、多くの中国人が待ちわびている。

1億人以上がメーデー連休に国内旅行

 中国国家文旅部のリポートによると、中国でロックダウン解除後の最初の大型連休となった「労働節(メーデー)連休」(2020年5月1〜5日)には、延べ1億1500万人が国内旅行に出かけ、これにより475億6000万元(約7295億円)の経済効果をもたらしたという。昨年(2019年)同期比では、旅行者数も、旅行収入も鈍化してはいるものの、すでに1億人超が全国を移動している。それを考えると、今後、コロナの状況の安定とともに、国内旅行に出かける人が増えていくことは間違いない。

 筆者のまわりでは、6月下旬の「端午節連休」(6月25〜27日)にも国内の小旅行に出かけた人は多く、微信のモーメンツではみなこぞって写真をアップしていた。6月初旬に北京市の食品卸売市場でクラスターが発生したことを受け、「上海市から出ない」が暗黙の了解になっていたが、これまで外出を控えていた反動で、旅行に行きたいという気持ちが倍増しているようだ。上海からは出なくとも、市内のホテルに宿泊する、郊外のキャンプ場にテントを張り野宿をする、公園に森林浴やハイキングに出かけるなど、連休を楽しむ方法はいくらでもある。

 とはいえ、みな心の中では「海外旅行に行きたい」と思っている。世界の状況が早く落ち着き、海外旅行が解禁になる日を心待ちにしている。

中国人観光客が日本に戻ってきたら・・・

 上海市の現地小学校は6月下旬から、中学校は7月に入ってから夏休みに入った。例年より1〜2週間遅いスタートである。夏休みに入るとまもなく、現地校に通う筆者の長男、次男の担任教師から、微信のグループチャットに「夏休み期間中は中国を出ないこと。また、中国国内の感染リスクが高い地域には出向かないこと。8月15日以降は上海市を出ないこと」との連絡が入った。まさか海外旅行に出かける計画を立てている人はいないだろうが、念押ししているのだろう。

 保護者としても、分かってはいたものの、まだまだ気を抜けない状況であることを思い知らされた感がある。

 中国は、すべての都市が対象ではないものの、海外から中国を緊急に訪問する必要のあるビジネス向けビザの発行を開始した。日本も、海外との段階的な往来再開に向け、日本入国時に空港で実施するPCR検査の能力を現在の1日当たり2300人から9月中に1万人規模に拡大する方針を固めたという。

 向こう数カ月でビジネス需要の往来がどの程度増えていくか。その後に控える観光客への開放はどの程度先になるのか。中国にとって日本の感染状況はいまだ安心できる状態ではないし、日本にとってもまだ海外からの旅行客を受け入れるどころではないのが現状だろう。

 東京に住む日本人の友人は、「以前は銀座などを歩くと、なんでこんなに中国人だらけなんだと、げんなりするほど多かった」と話す。それが今は、「ここまで中国人がいないと少し寂しいと思えるほどだ」と言う。いつかまた、多くの中国人が日本を訪れるときが来たら、日本人はどんな反応をするんだろうか・・・と、ついコロナ後の世界を考えてしまうきょうこの頃である。

筆者:山田 珠世