発想力豊かなアイデアマンに未解決の難題をふっかける連載、「アイデアマンに聞け!」。

これまで、キングコング西野亮廣さんには「投票率の上げ方」「少子高齢化対策」「働き方改革」についてお聞きしましたが、第4弾のテーマは…「ネットから誹謗中傷をなくす方法」です。

ときに人命にまで関わってしまう、ネットでの誹謗中傷。

2020年はとくに、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにSNS全体に殺伐とした空気が広がり、指先ひとつで人の心を追いつめる新時代の暴力が大きな問題となっています。

芸能人やインフルエンサーが訴訟に乗り出すなど新しい動きも見られる一方、ネットに規制を設けることで言論統制につながるのではないかという声も…。

はたして解決の糸口はあるのか…?

少々不安な気持ちで向かったものの、さすがは西野さん。今日も今日とて頼れる兄貴でした。

〈聞き手=サノトモキ〉


【西野亮廣(にしの・あきひろ)】1980年生まれ。1999年に漫才コンビ「キングコング」を結成。活動はお笑いにとどまらず、絵本の制作、オンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」の運営など、未来を見据えたエンタメを幅広く生み出しつづけている

西野さんは「誹謗中傷される人」の先駆けだった…

サノ:
今日は、「ネットから誹謗中傷をなくすにはどうすればいいか」がテーマです!

よろしくお願いします!

西野さん:
なるほど…(テーマ)デカいっすね!


すみません…それでも解決してくれると信じてます…!

サノ:
そもそも西野さんって…

ある意味、誹謗中傷される芸能人の先駆け的存在ですよね?(失礼)

西野さん:
なんなら、日本で一番誹謗中傷されてると思いますよ(笑)。

今はもうほとんどないですけど…

「死ね」「消えろ」、その類のやつが毎日数百件届く状態が、10年以上続いてたんで。

サノ:
正直、想像もできないんですけど…

やっぱり傷つくものなんでしょうか…?

西野さん:
…ノーダメージなことはないですよね

少なからず好かれようと思ってこの仕事をやってるわけですから。


そりゃそうだよな…

西野さん:
ただ、いきなり結論みたいになっちゃうんですけど…

人間から“誹謗中傷”を取り上げるのは無理だと思います。

いじめも誹謗中傷も、「やめろ」といってもなくならない。まずこの前提を受け入れないと、何も始まらないって。

サノ:
やっぱりそうなんですかね…

最近のSNSを見てると、ちょっとそんな気もしてました。

西野さん:
今、芸能人の方々も、「誹謗中傷はやめよう」って声を上げはじめてるじゃないですか。

それはもちろん正しいし美しいんですけど…でも、「イジメやめようぜ」って言ってイジメなくなってないですよね。

だから僕、誹謗中傷を解決したかったら基本的には「性弱説」で考えたほうがいいと思っていて。


性善説とか性悪説は聞いたことあるけど…?

西野さん:
「正しい」とか「悪い」とかじゃなくて、「人は弱い生き物である」という前提で、いろいろなものを設計していくんです。

たとえば「置き引き」。ここに財布があって、誰かが盗んだとしたら、それは盗んだ人が悪いんじゃなくて、誘惑に負けるくらい弱かったから盗んでしまったと考える。

つまり、本質的には罪はこの人にはなくて、ここに財布を置けてしまう仕組みがそもそもよくないっていう考え方なんです。

サノ:
「人」ではなく、「人の弱さを誘発してしまう仕組み」に罪があると考えると。

たしかに誹謗中傷にしても、「言いたくなっちゃう弱さ」自体は誰でも持ってるのかも。

西野さん:
それってもはや本能的な部分なんで、なくせない前提で「どうするか」を考えなくちゃダメなんですよ。

基本的には、システムから直していかないといけなくて。

「ヒューマンエラー」はなくて、ただ「システムエラー」があるだけっていう。


西野さんのアイデアはいつも「前提」から面白い

「混ぜてるのがそもそもの罪」西野さんが“人を混ぜない”ために始めたこと

サノ:
じゃあ、ネットの誹謗中傷を生んでるシステムエラーって、いったい何なんでしょうか?

西野さん:
「目的が全然違う人を混ぜてること」っすね。

議論したい人、議論をぶっ壊して名前を上げたい人、論破したいだけの人。そもそも目的が全然違った人たちが一緒くたにいるという。


ああ、これはわかるかも…

西野さん:
会議したいのに、金属バットで暴れまわってるやつがいるわ、こっちではスポーツしてるやつがいてるわで、そもそもの目的が違う「混ぜるなキケン」の人たちが同じ部屋にいるっていう。

ヤンキーの世界では窓ガラス割ったほうが名を上げられるわけですから、そりゃ「割るな」と言っても割るよと。肉食動物の世界で行ったら、肉食いたいんだから、そりゃそこに人いたら食うよなという。

サノ:
ある意味、傷つく人が出て当然の状況だと。

西野さん:
混ぜてるのがそもそもの罪なんだろうなと思うんですよね。

なのでまずは、「混ぜない」。これが結論ですよね。



西野さん:
だから僕最近、Twitterで「“全員鍵アカ”のサロンメンバー限定アカウント」を作ってみたんですよ。

そしたらもう、むちゃくちゃ居心地よくて。


西野さんのスマホ見るのちょっとドキドキしちゃう

西野さん:
たとえばこの日は…

食器を洗ってたらお茶碗がくっついて離れなくちゃったんですけど、どうしたら取れますかね…?」って相談に、何百人がウンウン知恵を絞りあってます。

サノ:
なんだこのプリティーな世界…

西野さん:
結果これは茹でることで解決したんですけど、みんなで「ああ、茹でたらよかったんや…!」ってなって終わるっていう(笑)。


なんて平和な世界なの

西野さん:
炎上なんて一切起こらないし、クソリプも興味のないRTもこない。

僕、タレントさんの不倫とかあんなものに1秒も時間を使いたくないんですけど、本アカだと誰かがRTしてタイムラインに入ってきちゃうじゃないですか。

サノ:
ミュートとかブロックも、一度見ちゃった後の機能ですしね…

西野さん:
でも、全員鍵アカだとRTがないんですよ。

鍵アカウントの人の投稿って拡散ができないので、相互フォローの相手同士でしか情報がシェアされないから、情報が回ってこない。

イヤな気持ちになる投稿を遮断できて、欲しい情報だけが入ってくるという。



西野さん:
だから、タレントさんも「誹謗中傷やめようよ」って倫理観に問いかけるより、鍵アカウントにしちゃうのが一番いいと思います。

最近は「凛として時雨」のピエール中野さんも鍵アカにされてましたよね。フォロワー20万人くらいの鍵アカ。

時間の問題だと思いますね。これだけ誹謗中傷が問題になって、スイッチ入った感じはします。今後はタレントさんとかもどんどんサロンとか鍵アカとかを始めていくと思います。

とはいえ、「誰とでもつながれる」メリットも捨てがたいのでは…?

サノ:
でも、「自分の活動を広げたい」「影響力を高めたい」みたいな動機でTwitterを使う人もたくさんいますよね。

そういう、「誰とでもつながれることによるメリット」も捨てがたいって思っちゃうんですけど…

西野さん:
いろんな人とつながったほうが自分の意見も広がりやすい」って、僕も思ってました。

でも、じつはそれって逆で



西野さん:
実際は、発信って閉じた環境のほうが圧倒的に広がるんですよ。

これ、個人的に2020年上半期最大の発見で。

さっき言った僕のサロンアカのフォロワーって7000人くらいで、本アカは30万人くらいなんですけど…実験も兼ねて同じ内容を投稿してみたら、サロンアカのほうが10倍くらい「いいね」がついて

サノ:
7000対30万なのに!?

西野さん:
ようは人間って、人とつながりすぎると情報の“吸収率”が下がっちゃうんですよ。



西野さん:
僕らって、いろんな情報にアクセスしようとしすぎるあまり、フォローしてる情報の大半が雑音になっちゃって、案外タイムラインを“見てない”んです。

30万人フォロワーがいても、みんな僕の発信なんて見てるようで全然見てないんですよ。

サノ:
たしかに、自分でフォローしたくせにけっこう流し読みしちゃったりするかも…

西野さん:
それに比べて「価値観が近い人同士」の閉じたコミュニティは、母数は少なくてもフォロワーの吸収率が圧倒的に高いんですよね。

実際、僕のサロンの中で情報を発信している、うちの新入社員の子とかインターン生が有料のオンライン講演会を開くと、チケットが3000枚ぐらい売れるんですよ。

知名度のあるタレントさんでもオンライン講演会を有料で開催して3000枚って、なかなかないと思います。



西野さん:
今の時代、本気で発信力を手に入れたかったら、むしろどこかに所属したほうが圧倒的に早いっすよ。

なので、自分の活動を広げたい人も閉じた環境に避難しちゃって大丈夫だと思います。

人殺しもボランティアも「善」。人は「自分のため」にしか動かない

サノ:
もしみんなが閉じた環境に避難したら…今まで誹謗中傷していた人たちはどこに行くんですかね?

西野さん:
いやもう行き場ないっすね。

でも…本人にとってもそれが一番いいと思うんですよ。

「殴れる環境」が近くにあったから安易に手を出していただけで、殴れなくなったら、自分の欲求を満たしてくれる別の何かをまた探すんですよ。

で、人に迷惑かけられなくなったら、いいことするしかないですもん。



西野さん:
僕、ギリシャ哲学の善悪の捉え方がすごく面白いなと思っていて。

ギリシャ哲学では、善悪って「正しいこと」と「悪いこと」じゃなくて…

「自分のためになること」と「自分のためにならないこと」っていう分け方なんですよ。

サノ:
へええ〜! 面白い!

西野さん:
その考え方でいくと、人殺しもボランティアも「善」なんです。

こいつを殺したら何かしら自分の問題が解決するから「善」。ボランティアも人の役に立って自分の気持ちがすっきりするから、これもやっぱり「善」で。

結論、人は「善」のためにしか動かないんですよ。


なるほど…

西野さん:
でも逆を言えば、人は「自分のため」になら動くので。

それが「人殺し」なのか「ボランティア」なのか、アウトプットがそれぞれ違ってくるだけで。

それなら、「その人にとっての殺す相手」をなくしてしまったほうがいいですよね。

物理的に不満を言えない環境になったら、世の中に対する不満の数は一気に減る。だから結果的に、この人たちも幸せになる。

サノ:
たしかに、「殴れる場所があるから不満を集めちゃう説」めっちゃありそう…

殴る場所がなくなったら趣味の時間とか増えそうだし、案外みんな平和な「善」に向かうのかもな。


誹謗中傷してしまう人にも思いを馳せる、やさしいアイデアマン

ぶっちゃけ、西野さんのオンラインサロンのなかでは争いはないの?

サノ:
最後にちょっとイジワルな質問なんですけど…

いくら価値観が近い人が集まっても、いさかいや中傷って生まれちゃう気もして。

ぶっちゃけ、西野さんのサロン内でいさかいってないんですか?

西野さん:
ああー、むっちゃありますね

というか、当初むっちゃあったんで、片っ端から全部システムで解決していきました

サノ:
でもメンバー6万2000人いるんですよね!?

1対1のもめごとでも大変なのに、いったいどうやって…

西野さん:
僕から言えるとしたら、本当に徹底的にシステムで解決していくってことですね。

たとえば注意する人がいると、注意された側100%自分に原因があったとしても、どうしてもちょっと不快じゃないですか。

だから、注意することなくその人が問題を起こさないようになるにはどうすればいいかっていうのを一個ずつ設計していくんですけど…

「アフォーダンス」ってご存じですか?


聞いたことはある気が…なんだっけ

西野さん:
デザインや環境によって、人の行動を変えさせること」で。

たとえば、男性トイレの小便器にターゲットシールって貼ってあるじゃないですか。

あれって、「おしっこ飛ばすな!」って貼り紙で注意するとイラっとしちゃうから、「注意することなく言うことを聞いてもらうための仕組み」としてやってるんですよね。

サノ:
ああ〜! あれか!

西野さん:
あと僕、今まあまあデカイ声でしゃべってますけど、もし隣りですごく静かなイベントやってたとしたら、これすごい迷惑ですよね。

じゃあ、誰に注意されるまでもなく僕が自然に「声のトーンを落とそう」と思うためにはどうすればいいかというと…照明を消してロウソクを灯せばいいんです

ロウソクは「ボリューム落とせ」ってメッセージを嫌味なく発してくれるシステムなんですよ。そこを変えるだけで、誰が注意するまでもなく声のトーンは落ちる。

サノ:
これを秒で思いついちゃうあたりが“アイデアマン”だよな…

西野さん:
こんなふうに、「人が人に注意することなく、課題を解決するシステム」をとにかく考えまくる。そうすると、その空間は超平和になる。

そうやって、一つひとつアフォーダンスみたいなものを設計していくんですよ。


相変わらず着眼点がすごい

西野さん:
ただこの、「もめごとを事前に排除できる能力」を持った人ってなかなかいなくて。

そう見ていくと、有料の人気サロンのオーナーはハンドリングが圧倒的にうまいですね。「ここでもめるな」っていうことに、すごく鼻が利く。

だからこそサロンオーナーが重宝されているんですけど…でもこれは絶対に身に着けたほうがいいっすね。

サノ:
考えてみれば、「殴れる環境」をなくして誹謗中傷せずに済む環境を作るっていうのも完全にその発想だし、いろんな場面で重宝されそうな力だな…

ちなみにこれ、「何力」って言えばいいんですかね…?

西野さん:
なんでしょうねー…

今、日本であるとするのであれば…


ドンッ

西野さん:
「西野力」ですね。


締めまで完璧すぎる。今日もありがとうございました!


「すべての問題は、ヒューマンエラーではなくシステムエラー」。

西野さんがいつも「根本的な解決策」を考えられる理由が、この言葉に詰まっている気がしました。

誹謗中傷は、いつ自分が被害者や加害者になってもおかしくない深刻な問題ですが、西野さんのお話を聞いて少し希望が見えた気もしました。

無理難題を明るく吹っ飛ばす「アイデアマンに聞け!」、次回もお楽しみに!

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉

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