長く円滑な生活が保たれるマンションのほうが稀…?(HiroS_photo / PIXTA)※写真はイメージ

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多くの人にとって人生最大の買い物であるマイホーム。特に都市部ではマンションが有力な選択肢だが、その「所有権」のあり方を正確に理解している人は少ない。

一室の所有者になったつもりが、実際は土地も建物も他人との「共有」状態。災害時の建て替えや大規模修繕など、住民間の合意形成は困難を極め、民主的であるはずの多数決が資産を縛る足枷となる……。マンションが抱える特殊な構造的問題に迫る。

※ この記事は、牧野知弘氏の著書『家が買えない ―高額化する住まい 商品化する暮らし―』(早川書房、2024年)より一部抜粋・構成しています。

マンションにおける区分所有という解決不能な仕組み

マンションを購入すると、販売担当者から所有権についての説明がある。マンションは戸建て住宅と異なり、自分以外にも多くの購入者が存在するため、土地や建物の所有形態が「特殊」であるからだ。ところが、多くのマンション購入者が、この「特殊」さを「あたりまえ」のこととしてとらえ、その内容を深くは理解していない。

マンションという住居は、広い敷地と複層階の建物で構成されている。このうちあなたが買うのは、土地については敷地権の共有、建物についてはあなたが実際に生活する専有部分についての区分所有、そしてエントランスや廊下といった共用部分の共有に分かれる。

もう少し詳しく見てみよう。敷地面積300坪、建物面積1200坪で、1戸あたりの専有面積が20坪(66㎡)の住戸が50戸(わかりやすくするためにすべて同じ面積とする)あるマンションを事例に取ろう。

全員が同じ持分なので、1戸あたりの土地の持分は6坪(=300坪÷50戸)となる。専有部分を除いた共用部200坪(=1200坪-20坪×50戸)については区分所有者間の共有となり、持分はこのマンションの場合は50分の1で4坪相当だ。

各住戸の所有者は、この権利を確認したうえでマンションを購入したことになり、あらかじめ決められた管理費、修繕積立金を区分所有者全員で結成された管理組合に毎月支払うことになる。

まず、この土地建物の所有形態について考えよう。日本は世界中でも地震や台風など自然災害が多い国である。2022年5月、東京都防災会議は、「東京都の新たな被害想定 首都直下地震等による東京の被害想定」を公表している。この発表によれば、今後30年間でマグニチュード7クラスの首都直下地震が発生する確率は70%とされる。

これまでの阪神淡路大震災や東日本大震災の記憶をたどれば、直下型大地震による建物への被害や土地の液状化、ライフラインの断絶が生じることは必定と言ってよい。その際、マンションという所有形態は意外な脆さを見せるのだ。

災害でマンションが損傷したら…

建物に対する被害には様々なものが想定されるが、建物の倒壊はもちろん、傾く、柱や壁の損傷が起きるなど、建物内での生活が不可能となる事例は多く報告されている。

この場合、建物は解体して建て直すことになるだろうが、多くの区分所有者で構成されるマンションでは各自の経済状況が異なり、建替えに対する意向がすべてにおいて一致することは少ない。

また、仮に解体して土地を利用することを考えようにも、各所有者の土地持ち分割合は数坪程度にすぎないため、土地の権利分を主張して敷地内に住み続けることは現実的ではない。マンションにおいては、肝心の建物が機能しなくなってしまうと、土地はまったく使いものにならなくなってしまうのである。

これが戸建て住宅であれば、建物が利用不能になる最悪の事態に陥った場合でも、建替えることを所有者自身で決定できる。建替え資金がなければ当面の間、敷地内でテント暮らしをすることも不可能ではない。

建物が区分所有であることは、建物全体の維持管理において、すべてが多数決の論理で決定されてしまうことを意味する。

多数決と言うと、いかにも民主主義的でそれに従えばよい、と思いがちだが、日々の生活のなかでの住民間トラブル、考え方や価値観の相違は、時が経つほどに大きくなるのが常である。むしろ、区分所有法や管理組合契約・規約に則って、長く円滑な生活が保たれるマンションのほうが稀だ。

入口は一緒でも次第にバラバラになるマンション住民の意識

新築マンションを購入する際は、住民構成がほぼ同じになる傾向がある。まず購入価格帯によって住民は選別される。タワマンのように高層階と低層階で価格が相当に異なるような場合は別だが、多くの新築マンションでは購入者の経済状況にはかなりの同質性がある。

立地選好という共通点もある。交通利便性に優れたマンションは、購入者のほとんどが都心への通勤利便性を第一に考えて購入しているため、同じようなライフスタイルの住民が多いことになる。また、間取りなど建物の構成がファミリータイプ主流であれば、夫婦に子どもが1人か2人の家庭などと、家族構成にも共通項が見出せる。

このように新築マンションのスタート時点においては、住民間でほとんど違いが見受けられないことから、表面的にはそれほどのトラブルもなく、順調な船出をする場合が多い。

だが、10年、20年と時が経過すれば、同じマンションで暮らす住民にも様々な変化が発生する。

子どもの進路や環境変化にともなう親同士の距離感の変化。各家庭の仕事における成功・不成功による経済格差。病気、事故、夫婦の不仲による別居や離婚といったトラブル。人生には多くの事象が発生し、住民ごとに違いが出ることは防ぎようがない。

特に経済格差が生まれることは、マンションの管理現場で多くの問題を発生させる。

自分は新たに防犯設備を導入したいと思っても、費用負担を嫌がる住民が出る。仮に総論賛成であったとしても、具体的な費用分担などの話になると意見がまとまらない。車を持たない住民が、駐車場の修繕費用の支払いに不満を述べ立てる、などなど。

はじめの一歩では足並みがそろっていたはずの住民たちでも、時の経過によってそれぞれがあらぬ方向へと歩き出し、入居時の一体感は雲散霧消(うんさんむしょう)しているというのが多くのマンション現場での実態だ。

この構図は、築15年から20年で行われる建物大規模修繕を実施するころから現れ始める。この時点ではまだ積立金が不足している管理組合は少ないが、なかには経済状況が厳しくなり、管理費や修繕積立金を滞納する住民が出始めているケースもある。

時間とともに増える“合意形成”のコスト

最近、多くのマンションで問題となっているのは、2回目の大規模修繕だ。おおよそ築30年から40年で行われるものだが、この修繕費用が不足しているケースが多い。そもそも多くのマンション分譲会社は、分譲時の購入者負担額の「見た目」を減らそうと、管理費や修繕積立金を低めに設定する。その結果、築年が経過するにつれて、管理費や修繕積立金の徴収額が現実にかかる費用に合致しなくなるのである。

それを避けるために、1回目の大規模修繕が終了した時点で、毎月の積立金を大幅に引き上げる管理組合は多い。建物の経年劣化は10年目、15年目までよりも、30年から40年経ったころに激しくなるからだ。具体的には配管やエレベーターの更新など、費用が嵩む工事が格段に増える。

これに加えて昨今は建築費の上昇が著しい。建築費の上昇と聞くと、新築建物の費用のことばかり取り上げられるが、当然これは修繕費用にも影響する。とりわけ世界的な半導体不足は、マンションの諸設備の更新に影響を与えている。建築現場の人件費が上がっていることも、修繕費用高騰を後押しする。

こうした世の中の「事情の変化」を、すべての住民たちが許諾できる状態にないことは明らかだ。ましてや築30年を超えるころには、定年退職をして年金暮らしになる住民も数多く出てくる。こうした人たちは、修繕積立金の負担増を嫌って反対する側に回りがちだ。

区分所有法上では、議決権者の5分の4の賛成で建替えを決議できるが、実際には寝たきりのお婆さんがいる住戸から誰が彼女を退去させるのか、といった問題が発生し、手の付けられない状況だったりすることもある。

年数が経つにつれて合意しなければならない事項が増えるのに、実際の合意形成は難しくなる。これが区分所有者で構成されるマンションという住居形態の「特殊さ」なのだ。