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「高すぎる」政治学が専門の熊本大学の伊藤洋典名誉教授は、熊本市庁舎建て替え計画の事業費が当初の616億円+αから最大約1230億円へと膨らんでいる現状について、率直にそう切り捨てた。

【写真を見る】【1230億円の衝撃】熊本市庁舎建て替え問題「高すぎる」--伊藤洋典・熊本大学名誉教授が語る情報開示の欠如と市長選の意義

この秋にも市長選を控える中、市民はいまだこの巨大事業の全貌を把握できていない。伊藤名誉教授に、問題の本質と市が今すべきことを聞いた。

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当初から2倍以上――「妥当性」を問い直す時期

伊藤名誉教授はまず、事業費膨張の問題を金額だけの話に矮小化しないよう求めた。

「金額もそうですし、建物の大きさとか、延べ床面積とかそういうのも含めて、これが妥当なのかどうかというのを今考え直さないと、ちょっと手遅れになるかなという感じですね」

市は財源として合併推進債(合併した自治体が利用できる有利な条件の地方債)を活用する方針を示していて、財政への影響は限定的だと説明している。しかし伊藤名誉教授はその説明だけでは不十分だと指摘する。

「当初の負担額から言っても、もう2倍以上になっているわけですよね。有利な市債を使えるということではあっても、それでも負担は増えるわけですよね。市債の返還も増える。それが市の財政にどういう影響があるのかということですよね」

さらに、返済は元本だけでは終わらない。「金利もあるし、何年間で返済というのがあるので、どれぐらいの負担になってくるのか」と述べ、昨今の金利上昇局面を踏まえた慎重な試算の必要性を強調した。

情報開示は十分か--専門家が感じる「不透明感」

伊藤名誉教授が特に問題視するのが、市による情報開示の不十分さだ。市民が判断するのに必要な情報がいまだ開示されていないのではないかという疑念を、いくつかの具体例を挙げながら説明した。

●今ある市庁舎の耐震構造に関する専門家の議論が全面開示されていない
●事業費が増大した根拠となる単価上昇の計算過程が不明確
●市債の活用額とその財政的影響が分かりやすく示されていない
●市役所と中央区役所を2棟に分けることが市民の利便性に与える影響が不明
●NTT跡地の土地取得費(当初70億円とされていたが後に95億円と判明)の開示が遅れた

「まだ市が開示していない情報があるんではないかとか、市民が判断するのに十分な情報を開示しているんだろうかというところは、もう少し考えてみてもいいかなというところですよね」

加えて、市が今後設置するとしている「検証委員会」(有識者会議)の性格についても疑問を呈した。「何を検証するのか。これが下がる可能性があるということを含みで検証するのか。いつまでに検証するのかとか。これは選挙の前に間に合うのかとかですね」。6月議会での条例案審議を経てから設置されるとなれば、秋の市長選前に結論が出るかどうかは不透明だ。

住民投票の機運――「情報なき投票」への懸念

過去には市民団体が住民投票を求めて法定数を超える署名を集めたが、市議会はこれを否決した経緯がある。市長もまた「議会の熟議を重んじる」との立場を示してきた。

伊藤名誉教授は、市民が意思表示できる機会が「十分ではなかった」とする一方で、現状での住民投票実施にも慎重な見方を示した。

「今のような情報開示の状況で、これだけの情報でちゃんとした住民投票ができるかどうか。ここも多少心配なんですよね」

つまり問題の核心は、住民投票の賛否以前に、市民が判断を下せる十分な情報が提供されていないという点にある。

市長選を判断の場に――「選挙の前に結論を」

では、この問題はどう決着させるべきか。伊藤名誉教授は明確に「選挙前に結論を出すべき」と主張する。

「筋としては選挙の前に結論を出して、それを選挙の投票の材料にするというのが私は筋ではないかなという気がしてますね」

その理由は、これまで一度も市民がこの問題で意思を示す機会がなかったことにある。前回の市長選でも市議選でも庁舎問題は争点化されておらず、市民は「選択する機会」を実質的に持ってこなかった。

「今回その建て替えのこういった計画が出てきたタイミングと選挙のタイミングというのが、かなり近いタイミングですので、できればこれをその選挙の争点というか、判断材料の一つにするというのは、私はあってもいいんじゃないかなという気がしています」

選挙は庁舎問題だけで決まるものではない。しかし伊藤名誉教授は、市政への影響の大きさを踏まえてこう強調した。「市の財政問題にも直結する問題でありましてですね、これからその市がどういう事業をするにしても、こういったその借金の問題というのはついてきますので。まあここはやはり大きな争点というか、まあ問題として置いてもいいんじゃないかなという気がしますね」

市がいま市民に示すべきこと

伊藤名誉教授は、現状の市民の受け止めを「高いな、でも物価高だからしょうがないか、というイメージのような状況」と表現した。そうした曖昧な印象論で事業が進むことへの危機感は強い。

「そうではなくて、どうしてこれだけのお金がかかるのか。これは節約できるとしたらどういう節約が可能なのかとか、そのへんがちゃんと理解できる形でやはり情報を提供するというのが市としての姿勢ではないかなという気がしますね」

具体的には、延べ床面積の縮小や2棟構成の再検討、建設地の見直しといった選択肢を市民が比較できるよう提示することが不可欠だと示唆した。「延べ床面積もまあ今これだけ必要なのかとか、もっとコンパクトでいいんじゃないかとか。まあそういったところも含めて、市民が判断できるような材料を提供するというところが必要でしょうね」

選挙前に必要な情報が開示されず、市民が十分な判断材料のないまま市長選を迎えるとすれば、「市民が一度も意思表示をしないままこれだけ大きな事業が進んだという状況を残すのは、やはりあんまり良くないんじゃないかな」という伊藤名誉教授の言葉は、行政の透明性への根本的な問いかけでもある。

1230億円規模の事業が市の将来にどんな影響を及ぼすのか――その判断材料を示す責任は、市にある。

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