「店の宣伝になるから」インフルエンサーへの“無料サービス”が招いた飲食店の経営危機
◆店の宣伝をしてもらい、あたたかい気持ちに
飲食店業界への参入は初めてだった真人さんですが、食べ歩きは昔から大好きで自分の舌にも自信があったとか。オープン前には地域の新聞や地方紙、地域のインフルエンサーなどさまざまな媒体が取り上げて宣伝してくれ、SNSのフォロワーは一気に増えていきます。
悩んだ真人さんでしたが、「これも宣伝」とOKし、撮影用の料理を無料提供することにします。オープン後には2人くらい、「カズのファン」だという人も来店。少しでも効果があったことに真人さんは大喜びします。
「自称インフルエンサーにSNSのDMからお礼のメッセージを送ると、すぐに返事がありました。相手もすごく喜んでくれていて『友だちにも宣伝しておきます』との返事。あたたかい気持ちがあふれそうになりながら、『ありがとうございます』と打ち返しました」
◆自称インフルエンサーたちについサービス
はじめての飲食店経営で心あたたまる体験をし、店を手伝ってくれていた親戚の真由さん(仮名・30代)にもドヤ顔でその出来事を話した真人さん。しばらくは上機嫌で仕事をしていましたが、カズに聞いたという自称インフルエンサーが次々と訪ねてきます。
「友だちに宣伝しておくというのは、こういうことだったのかと落胆しました。俺はてっきり、店へ食べに来てくれる純粋なお客さんを想像していましたから。しかもなかにはフォロワーが100人を切るような“自称インフルエンサー”もいました……」
ただ、自称インフルエンサーたちは真人さんの料理を褒め、人柄を褒め、とにかく盛り上げてくれます。もともと断ったり突き放したりするのが苦手な真人さんは、どんどん自称インフルエンサーたちの手のひらで踊らされるようになっていきます。
「つい楽しくなるとサービスしたくなって、その人たちが普通に食べに来てくれたときも飲食代を無料にしたり、特別に手に入れた食材なんかがあれば出してしまったりね。自分でも不思議なんですけど、いろいろしてあげたくなっちゃうんです」
◆親戚にピシャリと叱られて
そのうち儲かっているんだかいないんだかわからない状態になってきて、「これ以上うわさが広まったら、タダで飲み食いできる店と思われてしまうよ! そしたらお店、潰れちゃうかもしれない。それでいいの?」と親戚の真由さんに叱られてしまいます。
危機感を募らせていた真由さんはすぐさま無料の食事提供やサービスを廃止。すると自称インフルエンサーたちは面白いほどピタリと店に来なくなったのです。そして真人さんは、店の紹介と言いつつ、彼らがタダ飯を食べに来ていただけだったことを思い知ります。
「すごく虚しい気持ちになりました。俺をおだてるのも友だちをどんどん呼ぶのも最初から作戦だったのではないでしょうか。おいしい話なんて、そうそうありませんね。俺がホールへ出て行くと二の舞になると真由から言われ、いまは厨房にこもって料理をつくっています」
おいしい話にはつい乗っかりたくなるものですが、そういった甘い考えさえも相手に見抜かれています。すでに罠を仕掛けられているかもしれないと、冷静になってみるべきかもしれません。
<取材・文/夏川夏実>
【夏川夏実】
ワクワクを求めて全国徘徊中。幽霊と宇宙人の存在に怯えながらも、都市伝説には興味津々。さまざまな分野を取材したいと考え、常にネタを探し続けるフリーライター。X:@natukawanatumi5

