JPモルガン本社ビルの入口(Sipa USA/時事通信フォト)

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 米金融大手JPモルガン・チェースをめぐる"異例の性加害訴訟"が、ウォール街で波紋を広げている。

【写真を見る】SNS上で拡散された性被害告発したJPモルガン元男性行員の全身像

 4月末、ニューヨーク州最高裁に匿名で提起された民事訴訟だが、原告がJPモルガン・チェースの元男性行員(35)と判明。

 訴状によると、男性は2024年春に同社レバレッジド・ファイナンス部門に入社した直後から、女性幹部(37)から繰り返しセクハラを受けたと主張。「ブラウニー」「ブラウン・ボーイ」などインド系の肌の色を揶揄する言葉を浴びせられたほか、昇進やボーナスをちらつかせながら性的行為を強要され、 ED治療薬も飲まされたと訴えている。

 男性は2025年5月、社内に正式な苦情申立てを行ったが、会社の内部調査が進む中で有給休職状態となり、退職に至ったとしている。男性は訴状の中で、キャリアを傷つけられたうえ、「何週間も眠れない」などPTSDの症状に苦しんでいるとも主張している。

 その後、男性は2026年4月末にニューヨーク州の裁判所へ提訴。手続き上の不備から一度取り下げたものの、5月に修正した訴状を再提出。匿名証人2人による「性的支配をうかがわせる言動を見聞きした」との供述書や PTSD診断書も追加提出された。

 しかし、告発そのものの信憑性が疑われる状況を迎えている。JPモルガンは「メール、電話記録、証人証言を精査したが、男性の訴えを裏付ける証拠は確認できなかった」と発表。原告側は調査への協力を拒否したとも付け加えた。

 女性幹部側も弁護団を通じて「性的・ロマンティックな関係は一切存在しない。指摘された場所には訪れたことすらない」と全面否定。「完全な捏造だ」と主張している。

数々の疑惑と矛盾

 男性側の説明には、不可解な点も指摘された。2024年12月中旬、父親が亡くなったと申告し、弔事休暇を含む長期有給休暇を約3カ月取得。しかし、父親はいまも健在で、米紙「ニューヨーク・ポスト」が直接連絡を取ったところ、「何も知らない」と答えたという。

「さらに、オンライン法律相談サイトに残されていた相談記録も波紋を広げています。男性の名前を名乗るユーザーが、2025年に今回と類似した被害相談をしていたのですが、そこでは加害者を『彼(he)』、勤務先を『モルガン・スタンレー』と記載。さらに、JPモルガン入社以前の2020年にまでさかのぼる被害も含まれており、訴状との矛盾が指摘されています」(海外ジャーナリスト)

 マンハッタン地区検察局も刑事案件として検討したが、最終的に起訴には至らなかった。しかし、5月に再提出した修正訴状では、刑事捜査が現在も継続しているかのような記述もあった点も指摘されている。

 追加提出された宣誓供述書についても、証言者のひとりが「家族ぐるみの友人」だったことから、証言能力が疑問視されているのだ。

JPモルガンに約31億円の和解金を提案

 前出の海外ジャーナリストが続ける。

「米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』によれば、JPモルガン側は今年3月、訴訟費用や評判リスクを避けるため100万ドル(約1億5000万円)の和解案を提示。しかし、男性側はこれに応じず、1175万ドル(約18億円)を逆提案したとのこと。

『ニューヨーク・ポスト』は、男性側がそれ以前に2000万ドル(約31億円)超の和解金を要求していたとも報じています。交渉が決裂したことで、男性は提訴に至りました」

 男性の代理人を務める弁護士は「彼の主張を裏付ける証拠はまだある」と強気の姿勢を崩していない。

 一方の女性幹部は「完全な捏造」と主張し、JPモルガンも「証拠なし」の立場を示している。"ウォール街"で注目を集める訴訟は、ドロ沼の展開を迎えている。