素粒子に働く四つの力。「場の量子論」で、統一できていない…「じつは、重力は幻の力」と考える、まったく「思いもよらなかった方法」による、想像を絶する世界

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物理学者たちが長年追い求め、そしていまだに未達成である「四つの力の統一」を説明できる可能性をもった、物理学の最新理論「ホログラフィー原理」。それは「重力が司っているこの世界は、じつは重力とは関係ない力とその力を受けて運動している物質からなるホログラムの像のようなものである」というもの。

量子力学よりもさらに不思議でつかみどころのない最新理論を、人気の物理学者である橋本幸士教授がわかりやすく解説した『ホログラフィー原理とはなにか』(講談社・ブルーバックス)が刊行されました。

この記事シリーズでは、本書の解説から、とくに興味深いトピックを厳選して、ご紹介していきます。

*本記事は、『ホログラフィー原理とはなにか 宇宙と素粒子を統一する最新理論』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

ホログラフィー原理とはなにか

物理学者が宇宙と素粒子の物理学を融合する夢を追いかけている旅の途中で、誰もが予想していなかった、ある考え方が登場しました。それがホログラフィー原理です。

ホログラフィックな宇宙という言葉は、「この宇宙も実は写真のような2次元の“何か”から浮かび上がるものであって、3次元空間は幻のようなものである」といえますが、別の言い方をすると、「重力が司っている宇宙は、実は重力とは関係ない力と、その力を受けて運動している物質から浮かび上がってくる、ホログラムの像のようなものである」という考え方だといえます。

これはどういう意味でしょうか。

私たちは今まで次のように考えてきました。

物質の間には力が働く。その力とは、重力、電磁気力、弱い力、強い力の四つである

一方、ホログラフィー原理が予言するのは、次のようなことです。

重力が働いているシステムは、それと等価な別のシステムによる記述が可能である。そしてその別のシステムの記述には重力が含まれない

つまり、重力が働いているように見えるシステムはある種の幻であり、重力によって引き起こされている様々な現象には、もっと根源的な別の数学的な記述方法がある、ということになります。

重力が働いているシステムとは、例えば、重力で引き合っている地球と太陽のようなシステムのことです。つまりホログラフィー原理によれば、太陽の周囲を地球が回るというシステムを、太陽と地球とは異なる別のシステム(例えば、力を及ぼし合う素粒子たち)として数学的に記述でき、しかもその別のシステムには重力が現れない、ということになります。

私たちは、平面の世界=「2次元空間」に住んでいるかもしれない

この「別のシステム」には、もう一つの大きな特徴があります。それは「重力が働いているシステムと等価な別のシステムとは、重力現象が起きている空間よりも一つ次元が低い空間のシステムである」ということです(図「ホログラフィー原理の対応関係」)。

ホログラフィーとは、元々は2次元の写真を立体的に見せる、つまり3次元の像として見せる技術のことです。ホログラフィーの技術を使うと、縦と横だけの2次元の写真に光を当てることで、縦・横・高さの3次元空間に浮かぶ物体の像が再現できます。

物理学におけるホログラフィー原理は、この「次元の違い」から名付けられています。

例えば、重力が働いている3次元空間のシステムを、重力が存在しない2次元空間(2次元の面)のシステムとして記述できてしまう、という考え方です。これは重力が働いている3次元の世界が、重力が存在しない2次元の世界と「等価である」ということを意味しています。等価とは「区別できない」と言い換えることもできます。

私たちは3次元空間に住んでいると思っていますが、実はそうではなく、この世界は、本当は2次元空間なのかもしれないのです。

では、この突飛ともいえる、ホログラフィー原理という考え方はなぜ重要なのでしょうか。

ホログラフィー原理は「力の統一」を実現するかもしれない

ミクロな素粒子に働く重力以外の三つの力の強さは、「場の量子論」と呼ばれる数学的な枠組みを使って計算することができます。一方、重力だけは、ミクロな素粒子に働いたときに、どのくらいの強さになるかなどが現時点では計算不能です。

もしホログラフィー原理があらゆる重力現象に適用できることが将来、理論的に示されたなら、重力現象を、重力を含まないシステムの問題としてとらえ直すことができるようになります。

例えば、ブラックホールのような重力が極めて強い天体の近くで起きる現象を、重力以外の力で相互作用する素粒子の問題としてとらえ直すことができるようになるわけです。

そうすれば重力を直接取り扱う必要がなくなり、「素粒子に働く重力は計算不能」という問題を回避することができるようになります。ホログラフィー原理を使うことで、四つのすべての力について計算可能な理論を完成させることができるかもしれないのです。

「力の統一」は、多くの物理学者の夢です。ホログラフィー原理の登場前は、「四つの力はすべて基本的な力である」という考え方のもとで、「力の統一」が実現されるはずだと期待されていました。

しかし現在では、これまでまったく思いもよらなかった方法で、「力の統一」が実現されるのではないか、と考えている物理学者もいます。すなわち、「重力だけは幻の力であり、他のシステムから副次的に生まれるものである」という考え方が、「力の統一」の実現の可能性を握っているのかもしれないのです。

私たちの宇宙にホログラフィー原理が適用できるかどうかは分かっていない

ただし、現時点でホログラフィー原理が適用できることが分かっているのは、私たちが住む宇宙とは異なる仮想的な宇宙です。物理学者はしばしば私たちの住む宇宙とは異なる性質をもつ仮想的な宇宙を考え、そこで何が起きるかを理論的に調べることがあります。

例えば、4次元空間の宇宙や2次元空間の宇宙で働く重力について理論的に考察することもあります。そうすることで、私たちが住む3次元空間で働く重力について、より深い理解に到達できることがあるのです。ホログラフィー原理も、そういった私たちが住む宇宙とは異なる性質をもつ、仮想的な宇宙についての研究を通して発見されたものなのです。

しかし当然、みなさんが興味をもっているのは、私たちの住む宇宙にホログラフィー原理が適用できるかどうかでしょう。もし、私たちがホログラフィックな宇宙に住んでいるということになれば、私たち人間も含め、あらゆるものは3次元空間に存在しているのではなく、実は2次元空間に存在している、ということになるかもしれません(図「私たちが知覚している世界はホログラムの像?」)。はたして、そんなことがありえるのでしょうか。

今のところ、私たちの住む宇宙にホログラフィー原理が適用できるかどうかは分かっていません。つまり、今回のテーマであるホログラフィックな宇宙は、まだどんなものなのか、そして本当に正しいのかはよく分かっていないのです。

現代物理学の基礎は「量子力学」と「相対性理論」ですが、基礎物理学のゴールは両者の統合である「量子重力理論」の構築とされています。「ホログラフィー原理」は、この量子重力理論の構築につながるのではないか、と期待されているのです。次回は、この「量子重力理論」についての解説をお届けします。

ホログラフィー原理とはなにか 宇宙と素粒子を統一する最新理論

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