「夕方には逮捕状が…」年収530万円・35歳サラリーマンの昼休みが“地獄”に一変。見知らぬ番号からの着信で〈全財産〉を失ったワケ
家に固定電話を持たず、日々の支払いや資産運用はすべてスマホ上で完結させているケンタさん(仮名・35歳)。ある日の昼休み、見知らぬ「国際電話」からの着信に応答してしまったことで、平穏な日常は一変しました。公的機関を名乗る男からの「逮捕状が出る」という言葉にパニック状態となり、誰にも相談できないまま、手元のスマホから“ある操作”をしてしまったのです。デジタルツールの「利便性」が拡大させている現代の詐欺の実態と、彼が失った「代償」に迫ります。
悲劇の引き金となった「見知らぬ番号から1本の電話」
都内の中堅メーカーに勤める独身の会社員のケンタさん(仮名・35歳)。年収は約530万円で、現在は財布すら持ち歩かない完全なキャッシュレス生活を送っています。
将来に向けた資産形成にも積極的で、これまでに貯めた約300万円の資産はすべてネット銀行の口座に保有。生活費の決済から投資まで、すべてアプリで管理しており、自宅には固定電話を置いていません。
いつものように職場で昼休憩をとっていたとき、ケンタさんのスマートフォンに見慣れない番号から着信がありました。画面には「+」から始まる国際電話番号が表示されていましたが、仕事の取引先かもしれないと深く考えずに応答してしまいました。
「ケンタさんのお電話でしょうか。こちら、公的機関の調査部門の者です」
電話口の男は、事務的で威圧感のある低い声で語りかけてきました。男の話によれば、ケンタさんが過去に利用したウェブサービスの登録情報が犯罪組織に悪用されており、ケンタさん自身にも容疑がかけられているというのです。
「夕方には逮捕状が執行されます」恐怖と焦りで冷静な思考ができない
「このままでは今日の夕方にも逮捕状が執行されます。しかし、現在被害を訴えている相手方に対して、今すぐ示談金として300万円を支払えば、あなたへの容疑は晴れる見込みです」
普段であれば怪しいと気づけたはずですが、法律や警察の専門用語を次々と並べ立てられ、ケンタさんは完全に思考が停止してしまいました。さらに、男は「周囲に相談すれば証拠隠滅とみなされ、即座に身柄を拘束する」と強く念を押してきました。
「逮捕なんてされたら、会社もクビになるし、人生が終わってしまう……」
恐怖と焦りに包まれるなか、ケンタさんの頭に浮かんだのは、手元のスマートフォンに入っているネット銀行のアプリでした。銀行の窓口に行けば行員に事情を聞かれるかもしれませんが、アプリ上なら24時間いつでも、数回のタップで送金が完了してしまいます。
「誰にもバレずに解決できる」…全財産300万円が消えた瞬間
誰にも知られずにトラブルを解決できるという心理が働き、ケンタさんは男の指示するまま、指定された銀行口座へ全財産である300万円分を即座に送金してしまったのです。
送金完了の通知画面を見た直後、電話は一方的に切れました。インターネットバンキングでの即時送金は、あっという間に別の口座へ資金が移されてしまうため、取り戻すのが極めて困難です。
静まり返った休憩室で我に返ったケンタさんは、自分がとんでもない詐欺に引っかかったことにようやく気づきましたが、ときすでに遅し。
「俺の全財産300万円が……。なんで、なんでタップしてしまったんだ……!」
固定電話を持たない人にとって、スマートフォンは社会との唯一の接点であると同時に、誰も止めてくれない孤独な密室空間にもなり得るのです。
被害額1,400億円超…スマホで実行される特殊詐欺の実態
警察庁が発表した「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」のデータを見ると、ケンタさんのような被害が客観的な数値として裏づけられています。
令和7年の特殊詐欺の認知件数は2万7,758件、被害額は1,414.2億円にのぼり、前年と比較して増加しています。そのなかでも特筆すべきは、犯行グループからの接触ツールについて、携帯電話を使用する割合が前年の2.2倍へと急増している点です。20代から50代の現役世代においては、固定電話よりも携帯電話を入り口とした被害が圧倒的に多くなっています。
さらに、犯行グループが接触を図る「予兆電話」の件数は年間33万件を超えています。犯行に利用された電話番号全体のうち、実に75.5%を国際電話番号が占めており、ケンタさんのように、見知らぬ国際電話番号からの着信に出てしまい、そのまま巧みな話術で追い詰められるケースがあとを絶ちません。
被害金の交付形態としても、手渡しの現金ではなく、インターネットバンキングや暗号資産を用いた非対面での送金が急増しています。特殊詐欺において暗号資産が使われるケースが前年比で爆発的に増加しているのと同様に、インターネットバンキングを利用した即時送金の被害も深刻な状況が続いています。
スマートフォンの操作に慣れている若年層は、銀行の窓口などで第三者の目が入る機会がないため、焦燥感に駆られたまま自らの手で高額な送金を完了させてしまう危険性が極めて高いといえます。
皮肉にもデジタルツールの利便性が詐欺被害を加速させる要因となっているのが、現代の特殊詐欺の実態です。
[参考資料]
