WBC「ベネズエラ優勝」が巨額の儲けに…日本から海外スポーツ賭博に「6.5兆円」が流失でも進まない“スポーツベッティング”導入議論
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は、日本代表が準々決勝で敗退し、前回のような大騒ぎにならず終了した。だが日本人の中にもベネズエラ優勝で大声をあげ、ガッツポーズを決めた人が何人かいたのではないか?
なぜなら、ベネズエラは大会前、アメリカ、日本、ドミニカに次いで優勝候補の4番手の評価で、スポーツベッティングのオッズでは約16倍が各社の平均的な数字と報じられていた。つまり単純計算すれば、1万円が16万円になった。10万円なら160万円だ。もちろん、日本在住の人が海外サイトに賭けたら、それが合法サイトでも違法行為だ。
大会前、海外では『ドミニカに4万ドルの賭けが入った』と話題になっていた。残念ながらその人の予想は外れたわけだが、仮にベネズエラに1万ドルを賭けた人がいたら、16万ドル(約2600万円)もの大金を得たことになる。【取材・文=小林信也(作家・スポーツライター)】
スポーツベッティングは世界の潮流
日本人はWBCを、甲子園の高校野球を見るのと同じ健全なファン心理で応援・観戦している。そこに損も得もない。日本の勝利を願い、懸命に応援の熱を送る。だが、世界のスポーツシーンでは、もはやそうしたアマチュアリズム的な応援態度が過去のものになりつつある。選手や関連企業が勝負によって莫大な利益を得るのと同様に、ファンもまた金銭的な利益を得る。その主要な方法がスポーツベッティング。しかも「合法」なのだ。

スポーツベッティングに関心のあるベネズエラ人なら、少なからずベネズエラに投票したのではないか。とすれば、応援の結果、精神的な満足を得ただけでなく、当選金というボーナスも得たことになる。
日本ではなかなかスポーツベッティングに関する報道がされない。今回のWBC全体でどれほどの金額が賭けられたのかを知りたいが、いまのところ報道はない。ちなみに今年2月に開催されたスーパーボウル(NFL)の賭け金は総額で17億6000万ドル(約2728億円)だったと報じられている。わずか1試合でこれだけの金額が動く市場が現に存在している。
私は「日本でもすぐに導入せよ」と強く訴えたいのではない。ただし、「世界の潮流として、プロスポーツはこうしたベッティング市場をひとつの背景に成長している側面がある
という認識は共有すべきだと考えている。馬券を買わず競馬に熱中するファンは少ないだろう。それと似た状況が世界のプロスポーツ全体を覆い始めている。こうした状況を知らずにスポーツを語るのはおかしいだろう。例えばなぜ日本は世界で勝てないのか、なぜ日本のスポーツ選手の報酬は世界と比べて少ないのかなど、放映権やスポンサー収入に加え、スポーツベッティングとの関係性もひとつの要因として無視できない側面が増えていくのではないか。世界の現実を共有した上で、日本はどうするのか、もっと開かれた情報共有と議論をすべきだろう。
スポーツビジネスが巨大化する中、世界ではスポーツを応援するファンとスポーツの関係が大きく変化している。ファンはただ手に汗握って応援するだけでなく、自ら賭けることで見返りを得ることができる。競技に関する見識や予測眼を、ベッティングを通して高めることも証明することもできるだろう。スポーツをより深く語り合う文化が醸成される期待もできるのではないか。
すでに約6兆5000億円の市場
そして何より、安定的なスポーツ財源を確保するのに、これほど確実な方法は他には少ない。
実は昨年、違法スポーツ賭博対策を推進するある団体から以下のような驚くべき報告が発信されている。
『日本からアクセス可能な複数の海外スポーツベッティングサイトにて、日本の野球、サッカー、バスケットボール、 テニス、ゴルフ等の主要プロスポーツの試合のほか、大相撲、高校野球等の試合も賭けの対象になっており、そのほとんどが日本語でサービスを提供していることが確認されました。
加えて、当協議会では、業界最大手の海外データプロバイダー及び海外コンサルティングファームに依頼し、複数のアプローチにより日本違法越境市場及びフリーライド市場に関する市場規模の金額算定を試みました。
その結果、2024年における日本違法越境市場の規模は年間賭け金総額約6.5兆円と推計され、そのうち日本のスポーツを対象とした日本居住者による年間賭け金総額は約1兆円と推計されることが判明しました』
導入どころか規制に動く日本
6兆5000億円もの売り上げがただ海外に流失している。合法化したら同じ売り上げがあがるとは断定できないし、現行のスポーツくじ(toto)の場合は、スポーツ振興に還元されるのはその約10%であって全額ではない。だがもしその市場があるなら、「依存症対策や八百長防止などを厳格に公的管理する前提で合法化すべきだ」という議論が起こるのは自然な流れだろう。合法化して、売り上げの10%程度をスポーツ財源に回す仕組みを作ることで、日本のスポーツ予算は約20倍に増える。現在、スポーツの国家予算はわずか約362億円。文科省が進める〈スポーツ部活動の地域展開〉だけでも実質その10倍は必要とも試算されている。子どもたちがキャッチボールや草野球、サッカー遊びを自由に楽しめる公園づくりなど実現するには現在のスポーツ予算はあまりに少なすぎる。
読売新聞オンラインが昨年12月16日夜、『スポーツ賭博「日本になじまない」…超党派の議員連盟がPT設置、「禁止徹底」に向け法整備も視野に検討』という見出しでこう報じている。
『スポーツの勝敗などが賭けの対象となる「スポーツベッティング(賭博)」が国内外で横行していることを受け、超党派の国会議員で作るスポーツ議員連盟(会長・麻生太郎元首相)が16日、プロジェクトチーム(PT)を設置し、刑法に抵触する違法なスポーツ賭博の禁止徹底へ向けて議論を始めることを決めた。賭博絡みの不正から選手や審判らを守るため、法整備も視野に検討する。
議連は同日、国会内で役員会を開き、「日本でスポーツ賭博はやらない」と確認。日本以外の先進7か国(G7)でスポーツ賭博は合法だが、「日本になじまない」と一線を画す方針を明確にした。賭博の対象にされる選手や関係者を守る枠組み作りの必要性も共有した。PTの座長に自民党の山下貴司元法相が就任し、年明けから専門家も交えて議論し、国の取り組みを加速する』
導入どころか、規制の方向に政界は動いている。「日本になじまない」と誰が決めたのか? 海外では合法な行為を「横行」と表現する態度にも作為を感じる。もちろん、スポーツの健全な発展は最重要テーマだ。私だって、八百長も依存症も望まない。しかし、現実には賭け以前にスポーツはその熱狂性によって「スポーツ依存症」を蔓延させている。ファンが依存症になり、ビジネス側はそこに付け込んで巨費を稼ぐ。そのことを問題にしないのはいかにも経済的支配者の横暴だと、素朴にスポーツを愛する私などは深く懸念する。スポーツビジネスの巨額化は歓迎・推進され、スポーツは素朴さをどんどん失っていく。それは彼らには問題とは映らないのだろう。
日本がもしスポーツベッティングを導入しないなら、それに代わるスポーツ財源を創出するアイデアを早急に出すのが当然の責務ではないかと問いかけたい。
しかもこうした議論や決定が水面下で行われ、国民そしてスポーツファンがまったく議論に参加できない不思議な世情を打破しなければ、スポーツが本当の意味でみんなのものにはならない。
スポーツライター・小林信也
デイリー新潮編集部
