「マックよりちょっと高い」は昔の話…「原価52%」モスバーガーの限定商品が30〜40代主婦を納得させたワケ

■「ちょっと高いモス」の印象に変化が
モスバーガーを運営するモスフードサービスの2026年3月期第3四半期の連結業績は、売上高が781億6400万円(前年同期比7.4%増)、営業利益61億5100万円(同47.3%増)。店舗実績も、既存店売上高110.4%など、前年同期を上回った。
モスバーガーと言えば、契約農家から仕入れる野菜へのこだわりなどがイメージとしてはよく知られている。一方で、「マックに比べてちょっと高い」というざっくりした印象で捉えている人も多いだろう。
しかしこのところ、その状況にも変化が現れているようだ。
まず、コロナ禍で外食機会が減ったことで、外食に求められる価値が大きく変わった。「どうせお金や時間を使うならちょっと贅沢をしたい」と考える人が増えたのだ。さらに物価高を背景に消費控えや外食控えが起こり、その傾向は強まっていると考えられる。もともと安かったものに高いお金を払うより、もともと高かったほうを選ぶ心理が働くわけだ。
■マックの原価率37%に対し、モスは52%
相対的に、ちょっと高いイメージのあったモスのコスパが良く感じられるようになっていると考えられる。なお、両チェーンで人気のある商品を比べると、ビッグマックは単品500円、セット770円(2月25日にそれぞれ480円、750円から値上げ)、モスバーガーは単品470円、レギュラーセットにすると920円だ。マクドナルドが値上げしたことで、どちらがお得か分かりにくくなった。
実際にはどちらのコスパが良いのか。売上高のうちの売上原価を見てみると、モスは約52.3%(2026年3月期 半期報告書より算出)。マクドナルドは売上原価のうち材料費が約37.2%となっている(直営の場合、2025年12月期 半期報告書より)。モスの数字は連結の原価率で、8割を占めるフランチャイズ店への卸売も対象となっているため単純比較はできないものの、モスの原価率がマクドナルドを大きく上回っている。
飲食店が採算をとるためには原価率を3割に抑えるべしという業界の常識があるので、これはマクドナルドが普通で、モスの原価率が高すぎると見るべきだろう。
■約470万食のヒット商品「アボカドバーガー」
そんな(客側から見ると)コスパが良いモスの商品の中でも飛び抜けていたのが、冬の期間限定商品として発売された「アボカドバーガー」(590円)だ(2026年1月29日で終了)。

レタスとトマトの上にパティ、大きめにダイスカットしたアボカドをのせ、特製のオリジナルソースを合わせた商品。パティとねっとり濃厚なアボカドをマヨネーズベースのソースがまとめ、コリアンダーやオレガノ、レモン果汁によって味わいに奥行きを出している。
販売期間の2カ月で、期間限定品としてはモス史上異例の約470万食を売り上げ大ヒット。モスではアボカドバーガーを過去にも何度か発売しているが、なぜ今回は飛躍的な売り上げを得られたのだろうか。
モスフードサービス取締役上席執行役員・商品本部長の安藤芳徳氏に質問した。
■アボカドバーガーの価格戦略のカラクリ
「今回のアボカドバーガーは、3年かけて売れるように準備してきた」と安藤氏。
実はこれは材料となる加工アボカドの仕入れに絡む事情が大きい。契約1年目はピューレのみで、2年目からブロック、3年目からスライスと、契約年数によって扱える素材が増える仕組みになっているのだそうだ。
ピューレを使った第1弾は「とびきりアボカドコロッケ」(590円)。牛豚合挽肉国産100%を使用したパティ、アボカドのコロッケ、千切りキャベツ、オーロラソースという構成の商品だった。こってりしたパティにこれも濃厚なアボカドを使った揚げ物という組み合わせなので、アボカド好きの女性というよりは、男性受けしたという。
第2弾は、ダイスカットのアボカドを使った「新とびきりアボカド」(790円)。国産牛100%を使用したパティを使い、マヨネーズベースのソースにはケイジャンスパイスやクミン、焦がし醤油パウダー、刻みわさびやレモンパウダーなどを使った。
「とびきり」シリーズの特徴である、バーガーからはみ出る大きなパティがぜいたくさを感じさせる。このバーガーも女性を中心になかなか好評で、300万食という売れ行きだった。
そして注目したいのが790円という価格だ。
■狙いは財布の紐がかたい「30〜40代のママ」
「開発として意識したのが、『価格のシーリング(上限)』をつくることだ。第1弾と同じアボカドを原材料にして、一番豪華なものを作るといくらぐらいになるかと実験した。これで得た仮説をもとにつくったのが第3弾のアボカドバーガーだ。つまりお客様が相対比較できる土壌を作ることが重要だった」
第3弾では590円と、第2弾より200円安い。しかし品質は第2弾と同等か、むしろ少し上げたほどだったという。
「アボカドバーガーの開発で想定していたターゲット層は30〜40代のママ。この客層は本当にお財布の紐がかたい。その層に受け入れられるには、わかりやすい素材の改良が必要だった。そのために、脂身の多い国産牛を使っていたところをオーストラリア産の赤身が多めな肉に変え、ボリュームも抑えた。原価の問題だけでなく、味の好みやバンズとのバランスからも、ターゲット層によりマッチする商品開発に注力した」
その結果、価格を200円下げることに成功。つまり、客が「妥当」と考えるギリギリを狙った、絶妙な価格設定がヒットの要因となったわけだ。
■「松竹梅」の価格帯を切れ目なく揃える戦略
そして価格設定に関して、同社で近年展開しているのが「価格のグラデーション化戦略」だ。
価格帯・食材ともにそれぞれ異なる、レギュラー、プレミアム、超プレミアムの3つの価格帯を切れ目なくグラデーションする戦略でメニューを揃える。品質と価格のバランスが良いので、どの段階のメニューも自分ごととして「食べてみたい」と思ってもらえるようにする戦略だという。
アボカドバーガーは価格が2種類しかないものの、価格と素材にレベルを設けているという意味で、その一つに数えることができる。
わかりやすい例として、2025年5月に発売された海老カツシリーズが挙げられる。

レギュラー:「海老カツバーガー」(490円) 定番をリニューアルしたもので、タルタルソースを改良
プレミアム:「バジルマヨの海老カツバーガー 〜国産バジル〜」(550円) 国産バジルを使った緑色の爽やかなソースが特徴
超プレミアム:「海老エビフライバーガー」(670円) 大きな海老フライ2本が特徴
■品質と価格のバランスが悪いと売れない
価格のグラデーション化戦略の狙いについて、安藤氏は次のように説明する。
「お客様の二極化を避けるためだ。例えば海老カツバーガーを食べて、『この値段でこれぐらい美味しいなら、海老エビフライバーガーは多少高くてももっとおいしいだろう』と考えてもらう。『高いものは自分には関係ない』ではなく、どのメニューも『自分ごと』として捉えていただけるようにとの狙いだ」
キモとなるのが、財布の紐がかたいお客も、品質に対して妥当と考える絶妙な価格設定だという。

「お客様は賢く見抜いている。価格と質のバランスの良い商品が3つ並んでいたらそれと分かる。反対に、品質がいいものが安すぎると警戒されてしまう。以前、シンボリックに黒毛和牛の一頭買いバーガーを690円で発売したことがあるが、品質と価格のバランスが悪かったため、期待ほど売れなかった」

ちなみにその流れを汲むのが2025年11月発売の「モスの匠味(たくみ) 黒毛和牛のダブルチーズバーガー」(890円)。黒毛和牛を使い、合わせる食材もチーズ、オニオントマトソースだけと、肉をしっかり味わえるバーガーだ。赤身肉を足してあっさりめに仕上げ、価格のバランスも調整したことで、150万食を販売した。
■価格帯を決めてから食材で調整する方式
価格のグラデーション化戦略では品質とバランスの良い価格設定が要求されるが、モスフードサービスではどのように決めているのだろうか。まず決め方としては、食材にかかる原価を足し上げて価格を決めるのではなく、まず価格帯を決めて、食材で調整するという方式をとっている。

そして大前提として「バーガー単品で1000円を超えないこと」が共有されているそうだ。これはファストフードサービスとしての長年の経験からの感覚がもとになっている。
また年に1〜2度の頻度で、顧客の価格感受性テストを行っている。モスバーガーを知っている人と知らない人双方にインタビューし、絶対単価=その商品に対して納得できる価格と、相対単価=他のチェーンと比べた場合に納得できる価格をそれぞれ調査するというものだそうだ。
これにより商品の価格の上限と下限を決めており、モスの40〜50アイテムのうち、この範囲内に入っていないのは2アイテムのみ。そのうちの一つはセットメニューとのことだ。
以上、モス好調の理由について、価格の面から解説してきた。原価率が高いことに加え、客の価格の感覚を見極めた価格設定によって、どの価格帯の商品も売れやすくなり、より広い客層の開拓にもつながっていると思われる。
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圓岡 志麻(まるおか・しま)
フリーライター
東京都立大学人文学部史学科卒業後、トラック・物流の専門誌の業界出版社勤務を経てフリーに。健康・ビジネス関連を両輪に幅広く執筆する中でも、飲食に関わる業界動向・企業戦略の分野で経験を蓄積。保護猫2匹と暮らすことから、保護猫活動にも関心を抱いている。
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(フリーライター 圓岡 志麻)
