“考古学者の卵”のリアルな日常──考古学を学ぶ大学3年生が語る「#1 発掘調査編」【3か月でマスターする古代文明】

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2025年秋に放送され大好評を博した、NHK「3か月でマスターする 古代文明」。

その講師陣によるアンソロジー企画『NHK3か月でマスターするMOOK もっと深く知る 最新考古学でわかる古代文明 上 ~トルコのギョベックリ・テペ遺跡からメソポタミア、ヒッタイト、エジプト、インダス、中国まで』が発売されました。

6つの文明を紹介する上巻のトップバッターは、「3か月でマスターする 古代文明」の「第1回 衝撃!最古の巨大遺跡 見直される“文明の始まり”」で講師をつとめた筑波大学教授の三宅 裕先生です

本書の発売を記念し、三宅先生の教え子で、ギョベックリ・テペよりもさらに古い時期のものとされるチャクマックテペ遺跡で2025年夏に行われた調査に同行した、筑波大学3年生の西 勇樹さんにお話を伺いました。“考古学者の卵”の刺激的な日々をのぞいてみましょう!

(全2回の第1回 聞き手・編集部)

『NHK3か月でマスターするMOOK もっと深く知る 最新考古学でわかる古代文明 上』書影

西 勇樹(にし・ゆうき)さん
2004年12月生まれ。筑波大学人文・文化学群人文学類で、 考古学・民俗学主専攻の先史学・考古学コースで考古学を学ぶ“考古学者の卵”。

写真:シャンルウルファ考古学・モザイク博物館にて

───早速ですが、2025年の夏、トルコ・チャクマックテペに、三宅先生の調査隊の一員として行かれたときのことを伺いたいのですが、参加することになった経緯、そして現地の様子など教えてください。

 2024年の12月、ゼミの前に三宅先生から「ちょっといい?」と廊下に呼び出され、お説教かなと思ったら「私とトルコに行かない?」とお誘いいただいたのがきっかけです。私自身、西アジアの考古学を専攻しており、調査に非常に興味がありました。加えて、1年生の頃にイスラエルのテル・レヘシュという遺跡の発掘調査に参加しようと考えていたのですが、諸事情から断念したことがあり、前々から海外調査に行きたかったので、即決しました。

西さんが調査に参加した「チャクマックテペ遺跡」を含む8つの遺跡があるトルコ南東部のシャンルウルファ周辺地域では、「タシュ・テペレル(トルコ語で「石の丘」)プロジェクト」と呼ばれる大規模な発掘調査が行われている。

 2025年8月9日~9月28日までの約2か月間、三宅先生と一緒に日本隊の調査期間全日程で参加しました。

 現地(シャンルウルファ)はとても乾燥していて、宿舎への迎えが来るバス停で、息をしているだけで喉が渇きました。宿舎では、トルコはじめ各国から来る学生や、研究者の方々と楽しく過ごせました。暇な時間は、宿舎にいる親子4匹の猫と戯れたり(写真12)、現地の学生とサッカーなどをしたりしていました。夜は星が非常にきれいで天の川がはっきりと見えるくらいです。滞在中に金環月食があったので、その様子も見ることができました(写真3)。あとは、夜に比較的時間があるものの、スマホ圏外だったりもして、読書くらいしかすることがないので、遠藤周作の作品をはじめとした小説を電子版で94冊読むことができました。

12宿舎の猫。

12宿舎の猫。

3金環月食を見る「観月会」。このあと月が欠けていく様子をじっくりと観察できました

──さまざまな国の方がいたようですが、コミュニケーション手段は英語ですか?

 基本的に英語で会話していました(もちろん日本人同士の際は日本語)が、すべての人が英語を使えるわけではないので、現地の学生や人々、現場で働いてくれている村人たちとはトルコ語で話すこともありました。

 ただ、私自身まだまだ初学者なので、単語やその単純な組み合わせだったり、身振り手振りに頼ったりすることが多くありました。現地で主にトルコ人の学生がかなり熱心に教えてくれて、その時に覚えたトルコ語は今でも忘れていません(笑)(スラング?のような若者言葉も教えてもらいました……。)トルコ語については現在も学習を進めているので、今後はもっと充実した言語表現ができるようがんばります。

──とても楽しそうですね!滞在していて、困ったこと、辛かったことはなかったのでしょうか?

 もちろん苦しいこともありました。日中は40℃を超える猛暑で、調査開始2週目頃に点滴を打つレベルの熱中症になってしまい、1週間ほどお休みをいただきました。過去イチでつらく、体重が7kgほど落ちました。いいダイエットになったと思います(笑)。また、ダニや蚊にも苦しみました。全身をかまれてついかきむしってしまい(寮母さんに見つかるたびにトルコ語で“Kaşınma! (カシュンマ=かくな)”と叱られていたのですが…)、今でも皮膚に跡が残っています。

 断水もありました。7日間くらい一切水が出ませんでした(笑)(写真4)。ですが、乾燥のおかげで臭いはまったく発生せず、無事乗り切ることができました。

4宿舎では井戸水を使用。壊れた井戸を修理している様子

──1日のスケジュールはどんな感じなのでしょう?

 毎日の調査は、朝4時に起床して5時前には出発、13時ごろまで行われます(写真5)。日中が暑すぎるのでそんな感じで前倒して活動するのですが、ネットも使えず、娯楽もそこまで多くないので夜更かしすることもなく、朝は問題なく起きられます。かなり健康的な生活でした。

 10時ごろに現地で朝食をとるのですが、絶景のなか、皆で食べるごはんはかなりおいしく感じました(写真67)。Nöbetçi(ノヴェッチ)と呼ばれる日直のような当番が朝食の準備をするのですが、トマトの皮がむかれていたり、味付けが濃かったりと、トルコと日本の文化の違いを感じました。

 私が当番だったときは、半熟のゆで卵を出して怒られました(笑)。日本と違ってトルコでは固ゆでが好まれるので。その日はゆで卵がずいぶんと残ってしまいました。

 帰宅後はお昼寝タイムで、17時から宿舎で仕事を再開します。石器洗いや、日誌記入、先輩のお手伝いなどをしていました(写真8)。その後、夕飯を食べて寝る生活です。

5発掘現場の様子(1)トータルステーションと朝日(2)調査の様子(三宅先生と先輩方)

5発掘現場の様子(1)トータルステーションと朝日(2)調査の様子(三宅先生と先輩方)

(3)天幕で暑さをしのぎます(4)日焼けの跡がくっきり!

(3)天幕で暑さをしのぎます(4)日焼けの跡がくっきり!

67皆で食べる朝食。持ち回りで準備します

67皆で食べる朝食。持ち回りで準備します

8現場から土壌サンプルを持ち帰り、宿舎で分析します。とても重い!!

──滞在期間中はだいたいそのようなルーティンで過ごされたのですか?

 おおよそそのような感じです。8月のうちは余裕があったのですが、9月に、自分の研究している内容をマレーシアで10月に行われる学会で発表することが決まり(写真9)、その資料作成や、遺物の実測に追われました。宿舎ではネットがつながらなかったので、発表に必要な論文の入手に非常に苦労しました。毎週金曜の休みの日には街に出られるのですが、ネットがつながるスタバに籠って入手していました(笑)。

9マレーシア・マラヤ大学で学会発表をしている様子

 休みの日はもちろんそれだけでなく、指導教官の板橋悠先生(筑波大学人文社会系准教授)と街を散策したり、ごはんを食べたり、買い物もしました。博物館にも行きましたが、まじめに全部を見ようと思ったら丸1日あっても足りないような立派な場所でした。ピアッザという大型のショッピングセンターがあり、現地の学生たちとフードコートでおしゃべりするのも楽しかったです。でも、時間があるとやはり周辺にある世界遺産を見に行くのが楽しかったですね。ショッピングコートと違って外は40℃を超えるのですが、乾燥しているので、直射日光に当たらなければ何とかなります!(写真10)

10街の風景さまざま (1)バルクルギョルのレストラン (2)指導教官の板橋先生と散策中に見かけた電気バス  (3)アダナケバブ。ラムひき肉を鉄串に刺して焼いたもの

10街の風景さまざま (1)バルクルギョルのレストラン (2)指導教官の板橋先生と散策中に見かけた電気バス  (3)アダナケバブ。ラムひき肉を鉄串に刺して焼いたもの

10街の風景さまざま (1)バルクルギョルのレストラン (2)指導教官の板橋先生と散策中に見かけた電気バス  (3)アダナケバブ。ラムひき肉を鉄串に刺して焼いたもの

(4)店でヒツジを解体していました。トルコといえばやはり羊肉です。 (5)商店がひしめく「バザール」 (6)バザール内のレストラン

(4)店でヒツジを解体していました。トルコといえばやはり羊肉です。 (5)商店がひしめく「バザール」 (6)バザール内のレストラン

(4)店でヒツジを解体していました。トルコといえばやはり羊肉です。 (5)商店がひしめく「バザール」 (6)バザール内のレストラン

(7)シャンルウルファ考古学博物館の外観。この中に「ギョベックリ・テペ」の原寸大レプリカがあります

お休みの日以外にも、タシュ・テペレルプロジェクトで発掘中のギョベックリ・テペや、他の調査隊の宿舎を訪問することもあります。夜に三宅先生のお誕生日会などのパーティーもしましたし、非常に刺激的な毎日でした(写真⑪)。

⑪ エクスカーションの様子 (1)カラハンテペ遺跡を訪問 (2)カラハンテペのビジターセンターにて。右端が私です

⑪ エクスカーションの様子 (1)カラハンテペ遺跡を訪問 (2)カラハンテペのビジターセンターにて。右端が私です

(3)宿舎で行われる、夜のバーベキューパーティー(4)調査期間中にお誕生日を迎えられた三宅先生を皆でお祝い

(3)宿舎で行われる、夜のバーベキューパーティー(4)調査期間中にお誕生日を迎えられた三宅先生を皆でお祝い

日本でも報道があったと思いますが、これから別の調査隊が調査を開始するアランヤール・ホユック遺跡で、彬子女王殿下が鍬入れ式に出席され*、そのレセプションパーティーにご招待いただくという貴重な経験をすることもできました(写真⑫⑬)。日本で交流のあるたくさんの研究者たちが、遥か遠いこのトルコで一堂に介しているという状況が、どこか不思議な感覚でした。

*2025年9月19日にトルコのシャンルウルファ、アヤンラール・ホユック遺跡にて彬子女王殿下が、鍬入れ式を行った。これは、新たな発掘調査の開始を記念して行われたもので、使用された鍬は、祖父・三笠宮崇仁親王殿下が1986年に行われたアナトリア考古学研究所によるカマン・カレホユック遺跡での鍬入れ式で使用されたもの。

⑫アランヤール・ホユック遺跡にて鍬入れ式。ドローンも飛び、かなりの人が集まっていました ⑬トルコと日本の国旗が並び、ここで新たな発掘調査が開始されます

⑫アランヤール・ホユック遺跡にて鍬入れ式。ドローンも飛び、かなりの人が集まっていました ⑬トルコと日本の国旗が並び、ここで新たな発掘調査が開始されます

──帰国に際してのエピソードは何かありますか?

 2か月間に渡る調査を無事に終え、いよいよ帰国となりました。帰国の際はまず、シャンルウルファ空港までバスで移動します。タシュ・テペレルプロジェクトで発掘している遺跡のうちの一つ、カラハンテペの調査に参加していたイスタンブール大学の学生と偶然同じバスだったのでイスタンブール空港まで一緒に向かいました。彼女とは、帰国後もお互いの研究やトルコの遺跡についてDMでやり取りしています。学会での発表要旨について感想をもらうなど、考古学を学ぶ同志として刺激をもらっています。

 また、イスタンブールでは、同じく調査に参加していた奈良文化財研究所の研究者と、空港の有名なレストランでビールを飲みました(ちなみに調査中は、休日の前夜にプチパーティーをする際には飲むこともありました)。このレストランは、トルコで大変有名なシェフの一人であるオムール・アッコール氏が手掛けているのですが、トルコ各地、そしてさまざまな時代の食文化を研究しているシェフのお店で、おすすめです。そこで久しぶりに調査団以外の人(観光客)の日本語が聞こえてきたとき、「あー、帰国だなぁ」という気持ちになりました。

 帰国後、自動販売機でペットボトルの緑茶を買って飲んだのですが、とてもおいしく感じました。それほどに、濃い2か月間でした。ちなみに今年の夏も調査に参加させていただく予定です。とても楽しみです。

 西さんが“考古学者の卵”としてトルコで過ごした2か月間の様子、いかがでしたでしょうか? 

 彼が調査に参加したトルコ南東部のシャンルウルファ周辺地域では、「タシュ・テペレル(トルコ語で「石の丘」)プロジェクト」と呼ばれる大規模な発掘調査が行われています。

 そこではNHK「3か月でマスターする 古代文明」でご紹介した「定説を覆す!」説を、さらに覆すかもしれない調査結果が……!? 
 
 そんな「考古学は現在進行形」をリアルに実感できるムック『NHK3か月でマスターするMOOK もっと深く知る 最新考古学でわかる古代文明 上』は、トルコのギョベックリ・テペ遺跡やメソポタミア、ヒッタイト、エジプト、インダス、中国という6つの文明について、その研究・調査の“いま”を6人の考古学者が解説。各文明そのものへの理解を深められるのはもちろん、「考古学」「考古学者」の魅力も満載の1冊です(下巻は5月発売予定)。

 次回は、西さんが「考古学」を志すことになったきっかけや、大学でのリアルな学生生活に迫ります!(4月初旬公開予定)