「まさにやりたい放題だった」数々の一般ドライバーを巻き込んだ 神奈川県警「泥沼取り締まり事情」
30年以上前から常態化していた「神奈川県警独自の取り締まり」
「また神奈川県警か」「何度すれば気が済むんだ」などの声が聞かれるほど、不祥事が絶えない神奈川県警。今回は交通取り締まり現場での驚くべき内容が次々と発覚した。
交通反則切符に追尾した距離を実際よりも長く記載するなどの虚偽有印公文書作成・同行使が明るみになり、第2交通機動隊(2交機)第2中隊第4小隊の茅ヶ崎分駐所に所属する隊員7名のうち40代巡査部長が懲戒免職、その他6名は停職や減給処分、県警全体で24人が処分対象となった。
今回の事件を改めて振り返りつつ、神奈川県警の長らく続いた伝統的な悪しき取り締まり方法を紹介したい。
2700件以上の交通違反が取り消された今回の事件。舞台となったのは神奈川県民やプロドライバーなどの間では昔から有名な取り締まりのメッカである小田原厚木道路、通称「小田厚(おだあつ)」。
全長30kmほどの一般有料道路で、高速道路と同規格の道路であるが、制限速度は70kmに規制されている。ここでは昼夜を問わず速度違反などの取り締まりが行われており、この小田厚を管轄するのが先述した2交機茅ヶ崎分駐所となる。
この道路に限らずであるが、神奈川県警の交機、高速隊問わず、伝統的に独自の取り締まりが横行していた。
「後ろの車に煽られ加速したら覆面パトカーでスピード違反で捕まった」
「フロントグリルやパンパーに取り付けられた前面警光灯という赤色灯のみを点滅させて取り締まりが行われており気付けなかった」
「合流車線で本線の速度に合わせて加速したら検挙された」
「サイレンも鳴らさず、赤色灯も回さず100キロ以上でパトカーが走っていた」
これらは全て過去に神奈川県警の交機・高速隊で検挙・目撃したというドライバーらの悲痛な叫びだ。
そして神奈川県警の覆面パトカーや白黒パトカーはメーカーや車種を問わず、伝統的に前面警光灯のみを点滅できる特別な改造が施されていた。本来、前面警光灯や赤色灯・反転式警光灯はボタン一つで連動して両方が点滅する仕組みとなっているが、神奈川県警の前面警光灯は独立して点滅させることができる「神奈川仕様」と呼ばれる改造が施されていた。
’22年春ごろより廃止されたが、これは当時、交通取り締まり用パトカーや覆面パトカーをトヨタが製作する中、サイレンや赤色灯も含めてトヨタで生産することになり、神奈川仕様にできなくなったことも廃止の要因の一つとなった。
本来、このような前面警光灯のみを点滅・点灯できる仕様は皇族方や総理などの警衛・警護用途の警察車両などに限られており、これらは全国の警察本部で活躍している。
「まさにやりたい放題だった」
なぜ神奈川県警は前面警光灯にこだわっていたのか、それは速度違反取り締まりの要件に赤色灯を点灯するということが定められているからだ。
道路交通法施行令14条には「前条第一項に規定する自動車は、緊急の用務のため運転するときは〜中略〜サイレンを鳴らし、かつ、赤色の警光灯をつけなければならない。ただし、警察用自動車が法第二十二条の規定に違反する車両又は路面電車を取り締まる場合において、特に必要が認めるときはサイレンを鳴らすことを要しない」との文言が並ぶ。
速度違反の取り締まりとしては、警察の内規に赤色灯を点灯し、一般道路では50mの車間を空け、最低でも100m、高速道路では100mの車間を空け、最低でも200m以上追尾し速度計測を行い、赤色灯を点灯させて違反確定の際にサイレンを吹鳴させて検挙することが定められている。
しかし神奈川県警では、速度測定から検挙に至る測定距離が極めて短いうえに、屋根の赤色灯は点灯させず、前面警光灯のみを点滅させて計測していたのである。このため、違反車両や他の一般車も気付きにくく、取り締まりをする側は容易に活動を行えたということだ。
横浜市内で個人タクシーを営む男性に県内の取り締まり事情について話を聞くことができた。
「20年ほど前だったと思いますが、保土ヶ谷バイパスで前面警光灯のみで速度計測されました。慌てて減速して事なきを得ましたが、セドリックの覆面に『ここ80制限だから!』とマイクで叫ばれて警告で済んだ思い出があります。小田厚だったら完全にアウトでしたね。
第三京浜や東名でも覆面が煽って取り締まりをしているのを見ました。ドラレコがない時代、まさにやりたい放題だったんじゃないのかと。横羽線や特にベイブリッジも狩場になっていましたね。
捕まった人の話ではこの速度だと免許停止になったり、逮捕になっちゃうから、今回は免許が失効しないこれでまけてあげているというような言い方でサインを迫られたという、ギリギリのところを攻めてこられた話も聞きました。とにかくやり方としては陰湿でした。’90年代でお話ししたような取り締まりをしていたので30年ほど前からしているんじゃないですかね」
’13年6月、当時の国家公安委員長である古屋圭司衆院議員が交通違反取り締まりについて「見通しの良い歩行者がいる可能性の少ない直線道路で制限速度の20キロ程度超過で取り締まるのは疑問。取り締まりのための取り締まりになっている」と苦言を呈したことがあるが、今回発覚した事件はまさに取り締まりのための取り締まりに他ならない事件だ。
警視庁への対抗意識が特に高い神奈川県警では、検挙率等を高い水準に維持すべく、部内でおかしな取り締まりが横行しているのではという声も聞かれた。
職務にまい進する警察官もいる中、他の都道府県警察の速度違反取り締まりに対する信頼性も揺らいだ今回の事件。違反点数の回復や反則金の返還等は行っているものの、いわゆるゴールド免許から降格し、保険等級が変わってしまったドライバーも多数存在する。
ドライブレコーダーが日本でもあまり浸透していなかった20年ほど前、ロシアなど警察官が汚職を働く国ではドライバーが防衛のために装着することが当たり前となっていたが、皮肉にも日本でドライブレコーダーが警察官の不正取り締まりを発覚させるアイテムとなった。交通取り締まりの信頼回復の道のりは程遠い。
取材・文・PHOTO:有村拓真
