ある日突然、自宅のトイレが壊れたらどうすればいいか。そんな不安を解消するサービスを展開しているのが、三菱商事グループ企業のホームサーブだ。2020年に立ち上げた「住宅設備修理のサブスク」は、お客様満足度97%、契約更新率も約94%に上る。一体どんなサービスなのか、得永泰裕社長を取材した――。

※編集部註:初出時のタイトルと本文に誤りがありましたので、訂正しました。(2月12日17時55分追記)

撮影=西田香織
ホームサーブ代表取締役社長の得永泰裕氏 - 撮影=西田香織

■「急な家のトラブル」を解決するサービス

トイレの故障、水道栓からの水漏れ、エアコンの不具合など、住居設備の急なトラブルが起こった際、どう対応するだろうか。

インターネットで修理業者を調べると、数多くの結果がヒットし、どこも「電話一本ですぐに駆けつけ」「出張費無料」など同じような謳い文句を掲げているので、どこに頼んでいいかまずは迷ってしまう。

慌てていることもあり、たまたま目についたところにきてもらうと、作業費、部品代、延長料金などが加算され、料金があっという間に数万円に膨れ上がる。中には、便器を外しておいて、「50万円を払わないと代わりの便器を取り付けない」というような悪質な業者もある。

このように「どこに頼んでいいかわからない」「適正な料金なのか判断できない」という問題を解決するサービスが最近注目されている。

■顧客満足度約97%、契約更新率約94%

最低1カ月あたり590円を払うことで、1年間は何回依頼しても修理金額最大30万円までは自己負担ゼロという、いわば「住宅設備修理のサブスク」だ。運営元により選定された業者が対応するので、安心感もある。

2020年のサービス開始から、6年間で契約件数は35万件に伸びてきた。お客様満足度約97%、さらに契約更新率も約94%と高い。

しかし低価格であるため「何か裏があるのでは」と考える人も多いだろう。そこで今回は、サービスの運営元であるホームサーブに話を聞き、なぜそこまで安いのか、本当に信頼できるサービスなのか、また急成長の理由などについて探った。

「日本には、“住宅の隠れた危機”という大きな課題がある。この社会課題に対してイノベーションを起こしていきたいと考えている」

と語るのが、代表取締役社長の得永泰裕氏だ。

元は三菱商事で中東やアジア・アフリカ地域のインフラを担当。世界には、水や電気、ガスといったインフラの普及率が30%、40%というところもある。日本は当たり前のようにそれらが使える国だが、その暮らしの当たり前や常識も、実は危うくなってきているのではないか。そうした危機意識を抱くようになった。

■デジタルに弱い高齢者が詐欺の餌食に

日本の総住宅数は約6504万戸で、うち約4000万戸は築20年以上だ(総務省「令和5年住宅・土地統計調査」)。住宅設備の耐用年数は一般的に10〜15年と言われており、それを過ぎるとどこかしら不具合が出てくる。

住宅に問題を抱えている人は高齢であることも多い。元々地域の困りごとを引き受けていた、昔ながらの業者も減少し、頼めるところがない。タウンページなどかつてのインフラも衰退している。デジタルに弱ければ、インターネットで調べることもできず、余計に「どうしていいかわからない」という状況が深刻になる。

詐欺被害も増えている。

消費者からの相談情報のデータベースであるPIO-NETを内閣府が調べた調査では、「暮らしのレスキューサービス」に関する相談件数は2020年以降急増し、増加傾向が続いている。

「年間約91万件の相談のうち、3割は高齢者のもの。『工事をしないと危険』と言って契約させる“点検商法”の被害者の約6割が高齢者というデータもある」(得永氏)

こうした日本の住宅が抱える課題を解決するためのソリューションとなったのが、欧米で広く普及している「定額制ホームプロテクションサービス」だ。「この仕組みは必ず日本でも必要になる」と社内ベンチャーとして事業化。ホームプロテクションサービスを10カ国で展開するホームサーブ社(1993年英国で創業)と三菱商事の共同出資で、2019年にホームサーブが創業された。

2025年12月には、その年に最も優れたサブスクリプションサービスを表彰する「日本サブスクリプションビジネス大賞2025」で、最高賞となるグランプリを受賞した。

撮影=西田香織
日本サブスクリプションビジネス大賞2025でグランプリを獲得 - 撮影=西田香織

■一番人気は「1カ月590円」の最安値プラン

グローバルでの過去の普及率は、全体の11〜16%。日本はまだ35万件で1%程度だが、日本は他国より「故障に備えたい」というマインドが高いとみている。そこで、他国より高い15〜20%の普及率を目指していきたいという。

では、誰もが不思議に思うであろう、590円という価格はどのようにして実現されているのだろうか。

実際には、プランは何通りかあり、590円というのは電気設備修理に特化したエコノミープランの一括払いを12カ月で割った料金だ。

ホームサーブ公式サイトより

そのほか、電気設備や国内メーカー製家庭用エアコンまで対象とするベーシックプラン(一括払い1万4520円/年)、さらに冷蔵庫や配線まで対象とするワイドプラン(一括払い1万7880円/年)などもあり、水まわりにもエコノミープランとベーシックプランが用意されている。地域によってはガス機器のサービスを提供しているところもある。

しかし得永氏によると、月額にして590円のエコノミープランをメインに売り出しており、契約の7割がこのプランだそうだ。

■トイレタンク水漏れの修理費は約2万5000円

1カ月あたり590円という手頃な料金を実現できているのは、いわゆる「規模の経済」の考え方だ。多くの利用者に提供することで、修理手配や業務プロセスを効率化することができる。

全国約620社超の工務店ネットワークを有するが、自社で工務店を抱えず地域密着のパートナー企業と連携するモデルにより固定費も抑えられている。業務も標準化・平準化することで、1件あたりの処理コストを抑えているという。

実例としては、以下のようなものが挙げられる。

1) トイレタンクの水漏れ:タンクから水がチョロチョロ出続けていたケース。ボールタップとフロートバルブの経年劣化が原因で、部品交換で対応。実費相当額は約2万5000円。

2) キッチンの排水詰まり:水が流れずシンクが塞がるケース。油汚れ等による通常使用での詰まりが原因で、蛇腹配管の分解清掃と高圧洗浄で対応。実費相当額は約2万8000円。

3) 地中の給水管漏水(屋外):水道メーターが回り続けていると検針員が指摘したケース。地中給水管の破損が原因で、給水管の交換で対応。実費相当額は約22万円。

得永氏によると、「住宅設備の耐用年数は10〜15年で、壊れやすくなる。また1カ所だけでなく、複数箇所に出てくる」とのことだ。

■「怪しいサービスなんじゃないの」と門前払い

冒頭にも説明したように、サービス開始から6年間で契約件数は35万件まで増えてきた。直近3年間では、年間で10万件ずつの増加、4年間の平均成長率も約65%となっている。

しかし、最初から順調だったわけではないという。

「まったく新しいサービスのため、わかってもらえない。お客様にご案内をしても、『何のためのサービスなの』『怪しいサービスなんじゃないの』と、門前払いばかりだった」

まずは生活者インタビューやパイロット運用を通じ、サービスの価値がもっとも伝わる顧客セグメントを検証。並行して、地域の工事店と連携して修理の現場での実際のプロセスや業務負荷を可視化し、双方にとって無理のないオペレーションモデルを構築した。

さらに、「自宅に上がる」という、信頼性が求められるサービスだからこそ、電力会社や郵便局といった、地域の生活インフラ企業と連携することがサービス定着の鍵になると考えた。

撮影=西田香織
ホームサーブ代表取締役社長の得永泰裕氏 - 撮影=西田香織

■地元の電力会社からという形でDMを送付

得永氏によると、こうした生活インフラ会社の側も地域住民を対象とする新しいサービスを探しているため、話を聞いてくれる確率は高かったそうだ。またマーケティングから顧客のフォローまで一貫してホームサーブ側が行うため、生活インフラ会社からすればリスクを負う必要がない。

具体的には、例えば地元の電力会社からという形で、各家庭にダイレクトメールを送付する。信頼性や安心感があるため、ダイレクトメールを見てくれる確率がグッと上がる。1カ月あたり590円で何回修理しても無料、という内容が刺さって、コールセンターに電話をかけてくる、というわけだ。

契約の説明業務を担当するコールセンターを経験した社員によると、「『590円なら、年金暮らしでも1食我慢すればなんとかなる。お守り代わりになるから』と契約するお客様もいる」とのことだ。

いざという時にすぐに相談できること、また、業者はホームサーブが目利きを行った企業であるため、安心して依頼できるということもポイントになっている。

ホームサーブが業者の目利きをどう行っているかというと、電気やガスなどそれぞれの組合に入っていることがまず契約の条件となっているそうだ。さらに修理の後にはお客にフォローアップコールを行っており、評価が低い場合、その業者には次に仕事を回さないようにすることで、全体のサービス品質を保持していく仕組みだ。

■関東にまだ進出できていないワケ

2020年の1月、まず中国電力とパートナー契約を結んだ。先例や実績が示せるようになったため、他の地域でもパートナー企業を楽に見つけられるようになった。現在までに、パートナー企業は11社、連携自治体は4自治体に上っている。

ただ、関東にはこれから本格進出となる。規模の大きなところほど、実績が求められるからだ。近い将来、関東までサービス圏を広げていきたいという。またこれと並行し、「ホームサービス」としてのブランド認知向上にも注力していく。まずはBS、CS等でのCMや、ブランドのマスコット作成から始めたそうだ。

「まずはマーケットの認知度が上がっていくことを望んでいる。そのためには、競合が入ってくれるのもいいことだ。誰もが抱える困りごとを、安心して解決できる社会にしていきたい」

確かに住宅設備の故障は誰にとっても身近なトラブル。また、高齢の親が心配という人も多いだろう。本サービスは、そうした消費者の心配事にうまくマッチするサービスとなっている。料金が安く「お守りがわり」の感覚で気軽に利用できることも、契約率の伸びにつながっていそうだ。

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圓岡 志麻(まるおか・しま)
フリーライター
東京都立大学人文学部史学科卒業後、トラック・物流の専門誌の業界出版社勤務を経てフリーに。健康・ビジネス関連を両輪に幅広く執筆する中でも、飲食に関わる業界動向・企業戦略の分野で経験を蓄積。保護猫2匹と暮らすことから、保護猫活動にも関心を抱いている。
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(フリーライター 圓岡 志麻)